「通航は開戦前の1割に細った」
船舶追跡サービス「マリントラフィック」のデータによると、8月4日から6日の3日間でホルムズ海峡を通過した船の数は1日8隻から15隻だ。
開戦前、この海峡を1日に通過していたのは約130隻だった。単純に計算すれば、現在の通航量は開戦前の10%前後まで落ちたことになる。ホルムズ海峡は世界の石油供給量の約5分の1を担うチョークポイントだ。日本の原油輸入量の8割前後も、この海峡を経由している。
その流れが5カ月で10分の1以下に縮んだ。
原油価格はこの影響で上昇を続けている。8月10日の終値は、ブレント原油が1バレル87.72ドル、米国産のWTI先物が82.13ドルで、この日だけで約5%上がった。合意が近いという報道が出るたびに価格は落ち、不成立が示唆されるたびに跳ね上がる、という動きが続いている。
アラグチ外相が突きつけた「4つの条件」
アラグチ外相の発言と、イランの国家安全保障担当高官の声明を合わせると、テヘランが求めているものは4つある。
米国によるイランへの制裁解除。米軍の地域からの撤退。戦争賠償の支払い。そして「戦争を終わらせること」。この4条件がそろわない限り、ホルムズの通航は平常には戻らないというのが公式の立場だ。
米国のJDバンス副大統領は、求めているのは「商船が安全に通過できる交通整理の仕組みと、イランが船舶を攻撃しないという確約だ」と述べた。賠償への言及はない。制裁解除も「対話の前提ではない」というのが米側の建前だ。
両者の要求リストは、交差点で右と左に向かっている。
オマーンが握る「仲介の限界」
オマーンがこの交渉で特殊な立場にいる理由は、イランとも米国とも外交関係を持つ数少ないアラブ国家だからだ。
2023年の米イラン秘密協議、2015年の核合意交渉の前段階でも、マスカットが舞台になった。今回の取り決めの草稿では「ホルムズの自国側領海をイランとオマーンがそれぞれ管理する」という枠組みが提案されているとみられる。これはイランが「通航のコントロール権を事実上維持したまま海峡を再開する」ことを意味し、米国が受け入れるにはハードルが高い。
アラグチ外相は、「オマーンとの合意は必要条件だが、十分条件ではない」と述べた。つまりオマーンが合意しても、米国が別途折れない限り海峡は開かないということだ。
8月5日には、イエメンのフーシ派がサウジアラビアの油送船を攻撃したと発表した。サウジは、ホルムズが事実上閉鎖されて以降、紅海経由の代替ルートを増強しようとしている。フーシ派の攻撃はその代替ルートにも揺さぶりをかける形になった。ホルムズと紅海、二つの海上動脈が同時に不安定化している。
交渉が決裂した場合に日本が払うもの
合意のないまま夏が終わりに近づきつつある。
日本はホルムズ海峡を経由する原油を輸入量の大半に依存する構造を、数十年かけて築いてきた。代替ルートは存在しないわけではないが、供給量と輸送コストの両面でホルムズに代わる規模のパイプはない。
原油価格が高止まりすれば、電力コスト、ガソリン価格、輸送費、そして広義のインフレへと波及していく。夏の冷房需要が高い時期と重なり、家庭の電力代への影響は秋冬にかけて数字に現れてくる見通しだ。
マスカットの外交官たちが結んだ合意の行方が、日本のエネルギー代金に直結している。
ソース:
- Iran demands concessions from US as it nears Strait of Hormuz deal with Oman — CNN(2026年8月8日)
- Oil prices climb as Iranian demands cloud outlook for Strait of Hormuz — Al Jazeera(2026年8月10日)
- Iran, Oman, US 'close' to Hormuz deal: What do they all want? — Al Jazeera(2026年8月5日)
- Oil prices jump after Iran publishes restrictive draft plan for Strait of Hormuz — CNBC(2026年8月6日)




