「地理を変える」が何を指すか
中東の文脈で「戦争の地理を変える」は、地図上の戦線を動かすことを意味する場合が多い。
ホルムズ海峡の封鎖、湾岸各国の基地攻撃、イスラエル北部への直撃まで、3つのシナリオが専門家の間で挙がっている。
革命防衛隊が現時点で公言しているのは「能力がある」という事実だけだ。それを行使する意図があるとは言っていない。ただ米軍と湾岸諸国に「その選択肢は常にある」と示した格好だ。
13日間「停止」が終わった翌日
発言が出たのは、中東全域の火力停止期間が終わった翌朝だった。
8月下旬から続いていた非公式の「停戦的状態」が9月21日をもって終わった、という観測が複数のメディアから出ていた。フーシ派が紅海でのドローン攻撃を再開した日でもある。
モヘビの警告はその流れの中に位置している。火力停止の終わりを受けて、革命防衛隊が立場を明確にしたとも読める。
ホルムズの封鎖は「最後の手段」か
イランが最も大きな影響力を持つのは、やはりホルムズ海峡だ。
世界の海上石油輸送の約20%が通るこの海峡を封鎖すれば、日本を含むアジア各国の原油調達に即座に影響が出る。封鎖1日でブレント原油が5ドル以上動くとアナリストは見ている。
ただ、イランはホルムズ封鎖を実行すると自国の石油輸出も止まる。収入が断たれるリスクを取れるかどうかは、経済制裁で追い詰められた現状の政権にとって複雑な計算だ。
「封鎖は可能だが、やれば自分も死ぬ。それがイランのジレンマだ」と、湾岸諸国の防衛研究者は述べている。
米軍が注目するのは「水中ドローン」
米軍と湾岸の情報機関が今、革命防衛隊の「新兵器」として最も注視しているのは水中ドローンだという。
海峡の機雷敷設よりも探知が難しく、タンカーの船底に接近して爆発させることが可能な装置だ。実際に試験運用されているという情報が複数のルートで入っているとされる。
モヘビの「地理を変える」発言が、この水中ドローンを念頭に置いたものかどうかは確認できていない。ただ、革命防衛隊が通常の言葉で語らないものをほのめかすときは、特定の能力を誇示している場合が多い。
9月下旬の時点で、ペルシャ湾には米海軍の空母打撃群が2つ展開している。この数は通常の倍近い。革命防衛隊の発言が出る前後で配備の変化は確認されていないが、米軍が緊張を意識した態勢を維持していることは間違いない。
イランが動けば日本も動く
日本の石油輸入の約90%は中東から来ている。その大部分がホルムズ海峡を通る。
モヘビの発言が脅しで終わればそれまでだが、もし革命防衛隊が行動に移した場合の影響は、中東と欧米だけの話ではない。
今年9月、サウジアラビアの東西パイプラインがフーシ派のドローン攻撃で9日間停止した。その際、ブレント原油は一時99ドルに迫り、日本のガソリン補助金は史上最高の51円を記録した。これはホルムズを通らないパイプラインが止まっただけの話だ。
ホルムズ海峡そのものへの脅威が高まれば、影響の桁が変わる。アナリストの試算では、封鎖リスクが意識されただけでもブレント原油は数日で110ドルを超える可能性がある。
「IRGCが言う『地理を変える』、その地理の中には日本の家計も含まれている」と、エネルギー安全保障の専門家は述べている。日本政府がLNGの調達先多様化を進めても、原油の中東依存度はこの4年間でほとんど変わっていない。
まとめ
フセイン・モヘビの発言は具体的な行動予告ではない。ただ、13日間の停止が終わったタイミングで出てきたことに意味がある。
ホルムズへの影響が起きれば、原油価格と日本の家計への波及は早い。今は「能力の誇示」にとどまっているが、この発言が何の前触れになるかは今後数週間で見えてくる。
「地理を変える」。それが脅しで終わるか、実際の行動の序章かは、まだ誰にもわからない。






