まず5分でたどる、玉置真理の4つの事業
玉置のキャリアは、会社名とサービス名が多く、初見では時系列を見失いやすい。先に全体像を並べると、次のようになる。
| 時期 | 事業・役割 | 何を変えようとしたのか |
|---|---|---|
| 1989年 | ダイヤル・キュー・ネットワークを設立 | 電話で音声情報を届ける新市場に参入 |
| 1994〜1995年 | インターキューの立ち上げ、取締役副社長 | 難しかったインターネット接続を手続き不要にする |
| 1999〜2000年 | ザッパラスを創業、前身法人を設立 | 働く場をつくり、個人の悩みに応じたモバイルコンテンツを届ける |
| 2005年 | ザッパラスが東証マザーズに上場 | 占いを中心とするデジタルコンテンツ事業を拡大 |
| 2023年 | ザッパラスを退任 | 創業から約四半世紀続いた役割を終える |
| 2026年 | 株式会社ユデイモニアで「ヒトハタ」を開始 | キャリアの選択肢が少ない層へ、基礎教育と転職支援を届ける |
ザッパラスは、本人の公式プロフィールで1999年「創業」とされている。一方、会社の公式沿革では前身のサイバービズ株式会社を2000年3月「設立」とする。本稿では、事業の始動と法人設立の違いとして表記を分けた。
20歳、東大2年。動機は「彼氏と結婚するため」
最初の起業理由は、経営書にあるような市場分析ではなかった。当時付き合っていた相手と結婚するため、一緒に会社をつくったという。
玉置が代表取締役になったのも、理念より実利が先だった。広告費がないなかで「東大生の女子大生社長」という肩書きなら、メディアに取り上げてもらいやすい。番組では、自らプレスリリースを書き、記者会見を開いたと振り返っている。
事業に選んだのは、1989年7月にNTTが始めたダイヤルQ2だった。0990で始まる番号へ電話すると、有料情報を聞くことができる。情報料はNTTが電話料金と一緒に回収した。スマートフォンはもちろん、一般家庭へのインターネット普及よりも前。音声が、そのまま有料コンテンツになる時代だった。
ダイヤル・キュー・ネットワークでは、発売前の新曲やスポーツ速報などの録音情報を提供した。複数人が会話できる「Partyline」も扱った。玉置によると、開始時の回線は100枠の抽選制だったため、学生を集めて個人名義で応募し、多くの枠を確保した。こうして大手として事業を始め、初年度売上は約10億円に達したという。
| 当時の仕組み | 現代のサービスに置き換えると |
|---|---|
| 0990へ電話する | Webサイトやアプリへアクセスする |
| 録音された新曲情報や速報を聞く | 有料ニュースや音声コンテンツを再生する |
| NTTが電話料金と一緒に情報料を回収する | プラットフォームが課金と決済を代行する |
急成長の背景には、音声コンテンツの企画力があった。それだけでなく、回線と課金を一体で使えるプラットフォームを早く押さえたことも大きい。
売上10億円から、21歳の総務へ
順調だった期間は長くなかった。ダイヤルQ2はアダルトや出会い系にも使われ、社会問題になった。番組で玉置は、NTTが古い交換機からの利用を止めたことで、売上の6割が消えたと説明している。
さらに、NTTからの入金が2カ月後から4カ月後に延びた。売上が計上されても、現金が入るまでの給与や仕入れ、借入返済には別の資金が要る。売上減と入金遅延が同時に起きたことで、問題は「儲かるか」ではなく「今月払えるか」に変わった。
共同経営していた元交際相手が、会社資金で金の先物取引を行い、追証が必要になったことも重なったという。番組で確認できるのは追証が発生したことまでで、損失額は断定できない。
| 変化 | 経営への影響 |
|---|---|
| 回線規制 | 売上の約6割が減少 |
| 入金が2カ月後から4カ月後へ | 運転資金が不足 |
| 金先物取引で追証 | 追加の資金負担が発生 |
| 営業権を徳間グループへ譲渡 | 事業は手放したが、負債への対応は残った |
営業権の譲渡後、玉置は新会社の総務に入った。朝にふきんを漂白し、机を拭き、お湯を沸かすところから始めたという。番組では、貸借対照表上の負債は約7億円、実際に返した額は約2億円だったと説明している。約7億円をすべて個人で返済したという意味ではない点に注意が必要だ。
返済を迫る銀行支店長から、性産業で働くよう示唆されたことも明かしている。玉置は実際に面接を受け、給与条件を書面にして銀行へ持参した。一方、200万円の仕事を2000万円で発注し、資金面で支えた取引先もいたという。極端な2つの逸話から見えるのは、21歳の本人に制度や相談先の知識がなく、周囲の言葉と仕事を頼りに危機を抜けたことだ。
熊谷正寿の3つの条件と、インターQの発想
借金の残額が約5000万円になった頃、玉置は熊谷正寿と出会う。熊谷は、約5000万円を貸す代わりに一緒に仕事をしないかと持ちかけた。残額の肩代わりではなく、資金と仕事の機会を同時に得たことが転機になった。
熊谷が示した条件は、次の3つだったという。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 24時間365日働く |
| 2 | 熊谷を世界一にする |
| 3 | 熊谷の前ではタバコを吸わない |
最初に任されたのは、赤字だった化粧品会社の再建だった。24歳の玉置は全国の百貨店売り場に立ち、通販などを導入して収益構造を変え、番組によると約1年で赤字を解消した。ここで得たのは、アイデアだけでなく、現場に入り、既存組織と事業を立て直す経験だった。
その後、玉置がMacでアメリカの研究室にあるコーヒーポットの映像を見た。「電卓の向こうにアメリカがあった」。この体験から、インターネットが世界を変えると感じたという。
ただし、目を付けた場所は熊谷と異なった。玉置はコンテンツ、熊谷はインフラに可能性を見た。2人が向き合ったのは、当時のインターネット接続が初心者には難しく、契約や設定の壁が高いという問題だった。
1995年に始まった「interQ」は、ダイヤルQ2を使うインスタントプロバイダーだった。GMOの当時の公式発表によると、事前の入会手続きやクレジットカードは不要で、利用料は電話料金と一緒に支払えた。接続ソフトを収録したCD-ROMなどから0990へダイヤルすることで、インターネットを使い始められた。
| 従来の接続で必要だったもの | interQが減らしたもの |
|---|---|
| プロバイダーへの申し込み | 事前登録を不要にした |
| クレジットカードなどの決済手段 | 電話料金と合算した |
| 初心者には難しい接続設定 | 接続ソフトとサポートを用意した |
インターQの強みは、回線そのものの新しさではない。ダイヤルQ2の課金基盤を組み替え、「使い始めるまでの面倒」を減らしたことにあった。
ザッパラスは、働く場所をつくることから始まった
GMOの株式公開を控えた時期、玉置は父親の病気をきっかけに会社を離れた。その後、ホームページ制作やレンタルサーバー代理店、動画配信など複数の事業に取り組む。回線速度が足りず、動画がまともに表示できない失敗も経験した。
この動画事業で、アダルトコンテンツのエンコード作業を続けるアルバイトがいた。玉置は番組で、彼らが正社員として働ける会社をつくりたいと考えたことが、ザッパラス創業のきっかけだったと語っている。
社名は社内公募と投票で決まった。当初の候補「ザッパラ」に「ス」を足してザッパラスになり、特別な由来はないという。この軽さとは対照的に、組織設計には明確な考えがあった。事業を永続する部署ではなく、目的を達成すれば終わるプロジェクトとして扱い、既得権が変化を止めないようにした。
本人の公式プロフィールと会社の公式沿革を合わせると、ザッパラスの節目は次のようになる。
| 年 | 節目 |
|---|---|
| 1999年 | 玉置の公式プロフィール上の創業年 |
| 2000年3月 | 前身法人のサイバービズ株式会社を設立 |
| 2001年4月 | 株式会社ザッパラスへ社名変更 |
| 2005年5月 | 東京証券取引所マザーズへ上場 |
| 2023年 | 途中の退任・復帰を経て、玉置が退任 |
占いを選んだのは、好きだったからではない
ザッパラスの主力となったのは、携帯電話向けの占いコンテンツだった。玉置はもともと占いが好きだったわけではない。待ち受け画面や着信メロディーは、権利元が企画の起点になる。利用者の悩みから設計できる商材を探した結果、占いに行き着いた。
生年月日、名前、相談内容が違えば、返す内容も変わる。「彼から連絡が来ない理由」のように悩みを細かく分け、数百のメニューを用意したという。現在の言葉でいえば、同じ情報を全員へ配るのではなく、利用者ごとに内容を変えるパーソナライズ型のサービスだった。
| 占いに見いだした価値 | 事業上の意味 |
|---|---|
| 悩みに応じて内容を変えられる | 顧客起点で商品を設計できる |
| 月額300円の定額制 | 高額課金を避けやすくする |
| 占い師の知見をデジタル化する | 対面鑑定以外の収入源をつくる |
| 上場企業との継続取引 | 占い師の職業上の信用につなげる |
番組で玉置は、占いがカウンセリングに近い役割を担う一方、占い師の社会的な信用は低かったと振り返る。月額300円のサービスは、利用者を高額課金から守る。そのうえで、占い師が継続的に収入と信用を得られるようにする意図もあったという。
ここで重要なのは、占いの的中率を主張したことではない。悩みを聞く人、相談する人、料金を回収する仕組みの3つを組み直し、業界の取引を続けやすくした点にある。
「女性起業家」という枠から距離を置いた理由
華やかな経歴に見える一方、玉置は若い頃の取材で、経営者ではなく「女子大生」として演出される経験を重ねた。撮影で性的なポーズを求められたことも番組で明かしている。
そのため、長く顔出しを避け、女性経営者だけの集まりにも参加しなかった。30歳から約10年間、化粧をやめたのも、性別より事業を見てもらうためだったという。
| 外から付けられた枠 | 玉置が取った距離 |
|---|---|
| 女子大生社長 | 20歳以降、メディア露出を抑える |
| 女性起業家 | 性別で区切る集まりに参加しない |
| SNS上の個人ブランド | 仕組みが時間を奪うとして長く使わない |
ただ、現在は別の見方もしている。当時もっと声を上げていれば、後に続く女性起業家の環境を少し変えられたかもしれない。自分を守るための選択だった一方、沈黙したことへの後悔もある。その両方を話している点が、この回を単純な成功談にしていない。
AI時代に、4社目で基礎教育を選ぶ
2026年、玉置は株式会社ユデイモニアでキャリア逆転塾「ヒトハタ」を始めた。対象は、非正規雇用や年収300万〜400万円前後など、転職市場で十分な支援を受けにくい層だ。
ヒトハタは、3カ月の学習と伴走支援を通じて、仕事の基礎力を身につけ、キャリアアップ転職まで支える。教えるのは次の4領域である。
| 領域 | 身につける力 |
|---|---|
| ロジカルシンキング | 情報を整理し、筋道を立てて考える |
| タスクマネジメント | 仕事を分解し、期限までに進める |
| コミュニケーション | 相手と認識をそろえ、協働する |
| AI活用 | AIを仕事の道具として使う |
玉置によると、ザッパラスでは飲食や美容など異業種から来た未経験者を採用し、仕事の基礎を教えてきた。その人たちが別のIT企業でも活躍する姿を見た経験が、ヒトハタの土台になっている。
歌やスポーツでは基礎練習をしてから試合や舞台に立つのに、仕事では基礎を体系的に学ばないまま実務へ出ることが多い。本人の公式noteでは、このギャップがヒトハタを始めた理由のひとつとして説明されている。
「AIブームに乗らない」という言葉は、AIを教えないという意味ではない。カリキュラムにはAI活用を含める。一方、4社目で選んだのは、AIを看板に短期収益を狙うサービスではなく、学習と転職を長期で支える教育だった。本人は公式noteで、AI時代に困る人を減らし、社会の分断を広げないことを「社会への恩返し」と説明している。
番組では、当時AIと壁打ちしていたら、成功確率の低さが見えて事業へ飛び込まなかったかもしれないとも話した。AIを使いながら、AIが示す合理性だけに意思決定を預けない。この緊張関係も、4社目のテーマになっている。
4社をつなぐのは「起業家になりたい」ではない
4つの事業を並べると、ひとつのパターンが見える。
| 事業 | 出発点になった問題 |
|---|---|
| ダイヤル・キュー・ネットワーク | 一緒に生きたい相手が、会社員として働き続けられない |
| インターQ | インターネット接続の申し込みと設定が難しい |
| ザッパラス | アルバイトが安心して働ける場所がなく、占いの取引にも不透明さがある |
| ヒトハタ | キャリアの初期条件でつまずいた人に、基礎教育と転職支援が届きにくい |
いずれも、先に「起業したい」があったわけではない。目の前にある不便や不公平を見つけ、既存の仕組みを組み替えた結果、会社という形になった。
同時に、番組で語られる数字の多くは本人の記憶に基づく。玉置自身も、当時の起業家は自分に都合よく歴史を語りがちだと笑う。初年度売上や負債、個人間の会話は「本人がそう語ったこと」として読む。一方、設立年や上場年、サービス仕様は公式資料で確認する必要がある。
対談の最後、玉置は「面白いって思ってやったことは全部伝説かな」と振り返った。無謀さを礼賛する言葉ではない。面白さだけで走らず、ブレーキをかけ、整える人と組んできたとも話している。
AIに相談すれば、成功確率の低い選択肢を避けられる時代になった。それでも、目の前の違和感へ踏み込む判断まで外部に委ねてよいのか。玉置の3時間は、そんな問いを残す。
こんな人に聴いてほしい
3時間を一度に聴くのが難しい場合は、Podyの時刻付き目次から関心のある箇所へ移動できる。
| 再生位置 | 内容 |
|---|---|
| 02:52 | 起業の理由は「彼氏と結婚するため」 |
| 11:28 | NTTの規制、売上減、借金返済 |
| 38:07 | 熊谷正寿との出会いと3つの条件 |
| 47:59 | インターネットとの出会い、インターQ |
| 80:05 | ザッパラスをつくった理由 |
| 91:41 | 占いを主力事業にした背景 |
| 125:48 | AI時代の「知りすぎること」への見方 |
| 130:17 | 4社目「ヒトハタ」の狙い |
| 141:42 | 「女性起業家」と括られることへの違和感 |
| 181:33 | 「面白いと思ってやったことは全部伝説」 |
- 20歳の起業と21歳の失敗を、成功談だけでなく資金繰りまで知りたい人
- インターネット黎明期のサービスが、どのように顧客の不便を減らしたか知りたい人
- 占いやキャリア教育を、コンテンツではなく事業構造から見たい人
- AI時代に、合理性と飛び込む力をどう両立するか考えたい人
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よくある質問
玉置真理とはどのような経営者ですか?
東京大学在学中の20歳で株式会社ダイヤル・キュー・ネットワークを設立した経営者です。その後、インターキューの取締役副社長、株式会社ザッパラスの創業者・代表を務めました。ザッパラスは2005年に東証マザーズへ上場。2023年の退任後、2026年に株式会社ユデイモニアでキャリア逆転塾「ヒトハタ」を始めています。
ダイヤルQ2とは何ですか?
NTTが1989年7月に始めた情報料回収代行サービスです。利用者が0990で始まる番号へ電話すると有料情報を利用でき、NTTが電話料金と一緒に情報料を回収しました。玉置はこの仕組みで新曲情報、スポーツ速報、会話サービスなどを提供しました。 仕組みと終了までの経緯はダイヤルQ2とは?0990の仕組みと高額請求問題で詳しくまとめています。
なぜ初年度売上10億円の会社が危機に陥ったのですか?
番組での説明によると、ダイヤルQ2への規制で売上の約6割が減り、同時に入金が2カ月後から4カ月後へ延びたためです。さらに金先物取引の追証も重なり、資金繰りが悪化しました。玉置は営業権を徳間グループへ譲渡し、21歳で総務から再出発しました。
ザッパラスはなぜ占いを主力事業にしたのですか?
生年月日や悩みに応じて内容を変えられ、権利元ではなく利用者を起点に商品を設計できるためです。月額300円の定額制には、高額課金を防ぎ、占い師の継続収入と職業上の信用につなげる狙いもあったと玉置は説明しています。
キャリア逆転塾「ヒトハタ」は何をするサービスですか?
キャリア支援を受けにくい層を対象とするオンラインプログラムです。ロジカルシンキング、タスクマネジメント、コミュニケーション、AI活用の4領域を学び、転職まで伴走します。玉置がザッパラスなどで続けてきた未経験者育成の経験を体系化しています。
出典・関連リンク
- 伝説ラジオ|玉置真理回(Pody・時刻付き要約)
- 伝説ラジオ|玉置真理回(YouTube)
- NTT西日本|ダイヤルQ2サービスの説明と提供終了
- GMOインターネットグループ|ダイヤルQ2を使ったインスタントプロバイダー「interQ」開始
- 株式会社ザッパラス|沿革
- キャリア逆転塾「ヒトハタ」公式サイト
- 玉置真理|25年ぶりの起業で「儲からない事業」を選んだ理由
※Podyのページでは氏名が「玉置真里」と表示されている。一方、本人の公式サイト、ザッパラスの開示資料、ヒトハタ公式サイトでは「玉置真理」。本稿は公式表記に統一した。Podyの要約には公式資料と異なる年次もあるため、設立年、上場年、サービス仕様は各社の公式資料で確認した。



