ダイヤルQ2とは何だったのか
ダイヤルQ2は、NTTが提供していた「情報料回収代行サービス」です。0990で始まる番号に電話をかけると、通話料とは別に、情報提供者が設定した情報料が課金されました。
総務省が公開している電気通信番号の指定状況でも、0990は「情報料代理徴収機能」として位置づけられています。番号帯そのものが、課金のための識別子として制度上に組み込まれていたことになります。
ポイントは、NTTが情報の中身を作っていたわけではないという点です。情報を作って売るのは情報提供者(IP)で、NTTはあくまで回線と請求を担当していました。
利用者から見ると、いつもの電話料金の請求書に情報料が乗って届きます。クレジットカードも会員登録も要らないので、参入する側にとっても使う側にとっても、当時としてはきわめて摩擦の少ない決済手段でした。
0990はどんな仕組みで課金されていたのか
料金は二階建てでした。回線を使ったぶんの通話料と、情報提供者が受け取る情報料です。
情報料の水準について、1991年2月14日の衆議院逓信委員会で、NTTの寺西昇常務取締役が具体的に答えています。情報料のランクは12段階まで拡大され、いちばん高いもので3分300円だったという説明です。
3分300円は、当時の公衆電話の通話料と比べると桁が違います。長電話をすれば料金が積み上がるのは構造上避けられませんでした。
そしてこの二つが、当初は請求書の上で分かれていませんでした。1991年3月11日の衆議院予算委員会第七分科会では、NTTの井関雅夫理事が、通話料と情報料を利用者にわかりやすく分計できるようシステム化を含めて検討中だと答弁しています。
裏を返せば、その時点では「請求書を見ても内訳がわからない」状態だったということです。後述する高額請求問題が長引いた背景には、この可視性の低さもありました。
1989年7月、東京から始まった
サービス開始は1989年(平成元年)7月、まず東京都内からでした。これも寺西常務の答弁で確認できます。
翌1990年6月からは順次全国へ拡大していきます。参入の障壁が低かったこともあり、番組数は短期間で膨らみました。
内容は多岐にわたります。競馬の予想、株価情報、ニュース、占い、テレホンサービス、そして成人向けの音声情報やパーティーラインと呼ばれる多人数通話です。
なぜ高額請求が社会問題になったのか
問題の中心は、成人向け番組そのものというより、家族の誰かが知らないうちに使い、請求だけが世帯主に届くという構造にありました。
1991年9月24日の参議院逓信委員会で、郵政省の森本哲夫電気通信局長は、わいせつ物陳列罪や賭博罪に該当する事例があること、そして親の知らない間に子供が高額の利用をしている事例があることを問題類型として挙げています。行政側が公式に整理した問題認識として読めます。
ここで効いてくるのが、前の節で触れた「請求書に内訳がない」という点です。通話料も情報料も、電話の契約者に一括で請求されます。
契約者からすれば、自分が使っていないサービスの料金を、内訳もわからないまま突きつけられる形になります。金額が大きくなるほど、支払いを拒む人が出るのは自然な流れでした。
もっとも、ダイヤルQ2のすべてが成人向けだったわけではありません。1991年2月14日の衆議院逓信委員会で森本局長は、すべてがピンクがかったものばかりというわけではない、という趣旨の答弁も残しています。ニュースや株価、生活情報といった実用的な番組も同時に存在していました。
国会と行政は何を議論していたのか
1991年から1992年にかけて、ダイヤルQ2は国会の常連テーマになります。
1991年4月3日の参議院予算委員会では、関谷勝嗣郵政大臣が、同年2月1日に発表されたNTTの利用規制措置について答弁しました。あわせて、地方公共団体や地域婦人団体から改善要望が寄せられていたことにも触れています。
苦情の受け皿が消費者行政だけでなく、地域の団体経由でも上がっていたことがうかがえます。
1992年5月13日の衆議院逓信委員会では、NTTの澤田茂生代表取締役副社長が、日本弁護士連合会からの意見書を受けて対策を進めたと答弁しています。法曹界からの指摘が、事業者側の対応を動かした形です。
行政・立法・法曹・事業者がそれぞれ動いていたにもかかわらず、被害の申し立てが数年にわたって続いた点は、いまの目で見ても示唆的です。技術的に可能なことが先に走り、支払いを負う人が誰なのかという設計が後から追いかけていました。
最高裁はどう判断したのか
争点は、契約者が使っていない通話の料金をどこまで負担するのか、というところに絞られました。
最高裁判所第三小法廷は、2001年(平成13年)3月27日、通話料金請求事件(平成7年(オ)第1659号)について判決を出しています。民集第55巻2号434頁に収録され、原審は広島高等裁判所でした。
判示された内容を要約すると、未成年の子が親に無断でダイヤルQ2を利用した事案について、通話料のうち5割を超える部分の請求は、信義則ないし衡平の観念に照らして許されない、という判断です。
全額でも免除でもなく、中間で線を引いた判断です。回線を管理する立場にある契約者にも一定の責任は残るが、事業者側だけが料金を取り切るのも公平ではない、という判断枠組みと読めます。
この考え方は、家族が共有する端末や回線を通じて課金が発生する場面全般に、いまでも参照される余地があります。子どものアプリ内課金をめぐる論点と、構造そのものはよく似ています。
NTTはどんな対策を積み重ねたのか
対策は一度で完成したものではなく、10年以上かけて段階的に足されていきました。
1991年2月1日には利用規制措置が発表されています。前述のとおり、この措置は同年4月の参議院予算委員会でも取り上げられました。
その後も対策は続きます。2001年4月24日にNTT西日本が公表した資料では、インターネット接続を利用したダイヤルQ2の不正使用への対策として、パスワードゲートウェイやオプトインゲートウェイの導入計画が示されました。
同時に公表された参考資料には、消費者保護の観点からの施策が並んでいます。0990への発信そのものを止める利用制限、未成年者が高額利用した際の保護者への事前通知、パスワード設定、接続チェックといった内容です。
10年前に国会で指摘されていた「親の知らない間に子供が使う」という論点に、明示的に手当てが入っている点が目を引きます。
なぜ2014年に終わったのか
終了は突然ではありませんでした。NTT東日本とNTT西日本は2011年11月15日に連名で報道発表を出し、新規申し込みの受付を同年12月15日で終了し、サービス提供そのものを2014年2月28日で終了すると予告しています。予告から実施まで2年3か月あった計算です。
理由についてNTT東日本は、2014年2月26日の最終告知で、インターネットなど情報提供手段の多様化により利用者が減少したことを挙げています。平成元年7月の提供開始からの歴史にも触れられています。
つまり、ダイヤルQ2を終わらせたのは規制ではなく、代替手段の普及でした。ウェブとクレジットカード、そして携帯キャリア決済が、電話回線を課金インフラとして使う必然性を消していったという流れです。
回線ごとの終了後は、0990の枠組みを使った災害募金サービスへ移行しています。番号帯としての「電話で少額を課金する」機能は、形を変えて残ったことになります。
ダイヤルQ2が残したもの
ダイヤルQ2の設計思想を一言でいうと、「決済手段を持たない個人が、電話番号だけでコンテンツを売れる仕組み」です。
キャリアが課金を代行し、コンテンツ提供者は中身づくりに集中する。この分業は、のちの携帯電話の公式コンテンツ市場や、いまのアプリストアの手数料モデルと共通する構造を持っています。
同時に、課金の主体と支払いの主体がずれたときに何が起きるか、という教訓も残しました。決済が便利になるほど、使う人と払う人が別人になる場面が増えます。
ダイヤルQ2をめぐる10年以上の議論は、その最初期の実例だったと言えるかもしれません。技術より先に、誰が責任を負うのかという設計が必要だったのではないか、という視点は、いまのサービス設計にも通じるところがあります。
よくある質問
ダイヤルQ2はいつからいつまで提供されていたのですか
1989年(平成元年)7月に東京都内で提供が始まり、1990年6月から順次全国へ拡大しました。2011年12月15日に新規申し込みの受付を終了し、2014年2月28日にサービスの提供を終了しています。
0990という番号にはどんな意味があったのですか
0990は情報料を代理徴収するための番号帯として制度上に位置づけられていました。総務省が公開する電気通信番号の指定状況でも「情報料代理徴収機能」として記載されています。
情報料はいくらくらいだったのですか
1991年2月の国会答弁では、情報料のランクが12段階まで拡大され、もっとも高いもので3分300円だったと説明されています。時期によって設定は変わっているため、この数字は1991年時点のものとして読むのが安全です。
子どもが勝手に使った料金は払わなければならなかったのですか
最高裁判所は2001年3月27日の判決で、未成年の子が親に無断で利用した事案について、通話料のうち5割を超える部分の請求は信義則ないし衡平の観念に照らして許されないと判断しました。全額免除でも全額負担でもない中間的な結論です。
ダイヤルQ2はなぜ終了したのですか
NTT東日本の告知では、インターネットなど情報提供手段の多様化によって利用者が減少したことが理由として挙げられています。規制で止められたというより、代替手段の普及によって役割を終えた形です。
いまでも0990にかけられますか
ダイヤルQ2としてのサービスは2014年2月28日に終了しています。終了後は災害募金サービスとして枠組みが引き継がれました。
まとめ
ダイヤルQ2は、電話回線を決済インフラに変えた実験でした。個人でも情報を売れるようにした点は先進的でしたが、課金する人と支払う人がずれる構造を抱えたまま全国に広がりました。
国会での追及、NTTによる段階的な対策、そして最高裁の判断を経て、ルールが後から整えられていきます。最終的にサービスを終わらせたのは規制ではなく、インターネットという代替手段の普及でした。
25年弱の歴史は、便利な決済ほど責任の所在を先に決めておいたほうがよい、という当たり前の話を、かなり高い授業料とともに残しています。いま同じ問いに向き合っているサービスは、少なくないのではないでしょうか。
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出典・参考
- NTT東日本「『ダイヤルQ2』サービスの新規申込受付終了およびサービス提供の終了について」(2011年11月15日 報道発表)
https://www.ntt-east.co.jp/release/detail/20111115_01.html - 同 報道発表資料PDF(NTT東日本・NTT西日本 連名)
https://www.ntt-east.co.jp/release/detail/__icsFiles/afieldfile/2011/11/15/20111115_01_2.pdf - NTT西日本「『ダイヤルQ2』サービスの新規お申し込み受付の終了およびサービス提供の終了について」
https://www.ntt-west.co.jp/news/1111/111115b.html - NTT東日本「『ダイヤルQ2』サービス提供終了のお知らせ」(2014年2月26日)
https://www.ntt-east.co.jp/info/detail/140201_01.html - NTT西日本「『ダイヤルQ2』サービス提供終了のお知らせ」
https://www.ntt-west.co.jp/info/support/dialq2.html - NTT西日本「インターネット接続を利用したダイヤルQ2の不正使用対策について」(2001年4月24日)
https://www.ntt-west.co.jp/news/0104/010424.html - 同 参考資料「現在提供中のダイヤルQ2を安心してご利用いただくための主な施策について」
https://www.ntt-west.co.jp/news/0104/010424_2.html - 裁判所「裁判例結果詳細」通話料金請求事件(平成7年(オ)1659/最高裁第三小法廷 平成13年3月27日判決)
https://www.courts.go.jp/hanrei/52569/detail2/index.html - 同 判決全文PDF
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-52569.pdf - 国会会議録検索システム 第120回国会 衆議院逓信委員会 第2号(1991年2月14日)寺西昇 日本電信電話株式会社常務取締役 答弁
https://kokkai.ndl.go.jp/txt/112004816X00219910214/195 - 同 第120回国会 衆議院逓信委員会 第2号(1991年2月14日)森本哲夫 郵政省電気通信局長 答弁
https://kokkai.ndl.go.jp/txt/112004816X00219910214/41 - 同 第120回国会 衆議院予算委員会第七分科会 第1号(1991年3月11日)井関雅夫 日本電信電話株式会社理事 答弁
https://kokkai.ndl.go.jp/txt/112005271X00119910311/171 - 同 第120回国会 参議院予算委員会 第14号(1991年4月3日)関谷勝嗣 郵政大臣 答弁
https://kokkai.ndl.go.jp/txt/112015261X01419910403/330 - 同 第121回国会 参議院逓信委員会 第2号(1991年9月24日)森本哲夫 郵政省電気通信局長 答弁
https://kokkai.ndl.go.jp/txt/112114816X00219910924/97 - 同 第123回国会 衆議院逓信委員会 第8号(1992年5月13日)澤田茂生 日本電信電話株式会社代表取締役副社長 答弁
https://kokkai.ndl.go.jp/txt/112304816X00819920513/128 - 総務省「電気通信番号指定状況」情報量代理徴収機能(0990)/e-Govデータポータル
https://data.e-gov.go.jp/data/dataset/soumu_20160325_0034/resource/35649122-6fe8-4719-b4aa-13825e09576e



