「2人に1人は地図の外にいた」
ウェザーニュースが約2万件の被害報告を分析したところ、浸水を経験した人のおよそ半数が「浸水想定区域」の外にいた。
浸水想定区域とは、河川氾濫を前提として国や自治体が定めたリスク地図のことだ。ハザードマップとして住民に配布され、避難の判断基準になっている。
しかし今回の被害の多くは、河川の氾濫ではなかった。 千葉市周辺に多い「谷津地形」という低地に雨水が集中し、側溝や下水道の処理能力を超えた「内水型」の浸水が起きた。これはハザードマップが想定していない経路だ。
下水が「飲み込めなかった」
今回の豪雨では、通常の雨では問題が起きない場所で次々と浸水が発生した。その多くは「内水型」と呼ばれる形態で、河川が氾濫したのではなく、降った雨水を排水しきれなかったことが原因だった。
市内3カ所の下水道処理施設が、浸水によって機能を停止した。
普段なら地面に吸収されるはずの水が、処理を失った下水管から逆流した。アンダーパスや地下に向かう道路に水が溜まり、車ごと水没した事例が相次いだ。
道路脇に乗り捨てられた車は約2,500台。成田国際空港では千葉市内の混乱が波及してバスの運行が止まり、7,000人が空港で足止めされた。
2,500台の車が道に残るということは、2,500人が「ここまでは来られる」と思って進んだ、ということでもある。
なぜ「逃げなかった」のか
災害救助法が適用されたのは千葉県内の21市4町。
多くの人は自分がリスクゾーンの外にいると信じていた可能性がある。ハザードマップを見て「うちは大丈夫」と判断した世帯が、想定外の経路から水に沈んだ。
「内水型の浸水リスクは、現在のハザードマップには十分に反映されていない」と国土交通省は指摘する。 しかし全ての地形パターンをマップに落とし込むには、膨大なコストと時間がかかる。その作業が今も追いついていない。
地図が「正しい」ときに起きること
一方で、想定区域「内」では、ほぼ正確に被害が出ていた。
これはハザードマップの精度が高いことの証明でもある。同時に、マップの外が「安全」ではないことを示してもいる。
被害を受けた人たちが「自分は安全だと思っていた」と口々に言う事実は、地図の精度の話より、地図の「読み方」の話を浮かび上がらせる。「区域外だから大丈夫」という解釈が広まっていたとすれば、地図が安心の根拠に変わっていたことになる。
「次の千葉」を予告するデータ
今回の豪雨は、気象庁が「1万年に1度」の確率と表現するほどの記録的な雨量だった。
だが過去10年間で「記録を更新した」豪雨の頻度は確実に上がっている。2018年の西日本豪雨、2020年の熊本豪雨、2023年の石川豪雨、そして今回の千葉。
それぞれが「想定外」と呼ばれた。 しかし「想定外」が繰り返されるとき、それは「想定」のほうを問い直すべき時期だという意味でもある。
気象庁は今年に入って、局地的な短時間大雨の発生頻度が過去30年の平均の1.5倍に達したと発表している。スーパーセルと呼ばれる積乱雲が巨大化しやすい気象条件が増えており、「1時間に100ミリ以上」の雨が都市部に落ちるケースが増えている。
「個人でできること」という問い
避難情報が出ても逃げない人が多い理由には、行政側の課題だけでなく、個人の行動パターンの問題もある。
避難するには荷物をまとめて移動する手間があり、「大丈夫だと思う」という判断が優先されやすい。国土交通省の調査では、避難しなかった人の理由の第一位が「まだ大丈夫だと思った」だった。
ハザードマップの「外」にいるという感覚は、その判断をさらに後押ししてしまう。行政が何を伝えるかより、住民が何を信じるかが問われている段階に来ている。
千葉の教訓は、ハザードマップの「外」で何が起きるかを示した最新の事例だ。
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