ダムが決壊した夏
台風が連れてきた大雨は、単純な増水を超えていた。
山間部では、貯水池と本流が同時に水位を上げ、それが下流のダムにかかった。いくつかのダムが決壊した。農地を飲み込んだだけでなく、川沿いの集落が下流へ押し流された。
「これほどの規模で複数の地点が同時に被害を受けるのは記憶にない」
広西チワン族自治区の防災担当者は、現地の復旧作業のさなかにそう語った。
被害は広西だけではない。南に接する貴州省、東の湖南省でも記録的な大雨が降った。当局は人民解放軍と武装警察を投入して救助活動を行ったが、山岳地帯での捜索は今も続いている。死者数が増え続けているのは、行方不明者の確認が追いついていないためだ。道路が流された集落では、重機が入るまで孤立状態が続いた地域もある。
水が引いた後に始まる問題
洪水の恐ろしさは、水が引いた後にも続く。
泥が家の内部まで入り込んだ住宅は、乾くまで使えない。農作物は壊滅する。道路と橋が損傷した集落は、物資の搬入が止まる。
中国当局は毎年、雨季の初めに「防汛(洪水防止)」体制を敷く。今年は台風と梅雨前線が時期を重ねて同時に到来し、例年より手に負えない規模に広がった。
政府は復旧支援の予算を早期に承認すると発表したが、被害の全貌はまだ見えていない。
アジア全体で起きていること
| 地域 | 確認された死者・状況 |
|---|---|
| 広西チワン族自治区 | 159人(8月21日時点) |
| 貴州省 | 数十人(当局発表) |
| 湖南省 | 調査継続中 |
これは中国だけで起きていることではない。
今年の夏、フィリピン、ベトナム、バングラデシュでも記録的な洪水が繰り返されている。専門家たちは「南アジア・東南アジアのモンスーンの強度が変わっている」と指摘する。海水温が高いほど、大気が運ぶ水蒸気の量が増える。それが地上に落ちるとき、以前より多い雨になる。
気候の話は遠い未来のことに聞こえやすい。だがダムが決壊するのは、今の夏の話だ。
同じ時期、バングラデシュでは大規模なモンスーン洪水が5,000万人以上に影響した。インドのアッサム州でも130万人が避難し、インドネシアのカリマンタン島でも断続的な大雨が続いた。これほど広い範囲で同時に記録的な洪水が起きるのは、温暖化と海水温の上昇が背景にある。気象研究者は「今年の夏は気候システムの一つの転換点だった可能性がある」と指摘する。
日本への効き方
台風が中国を直撃した後、残った湿った空気と低気圧が東に流れてくる。
先週、千葉を中心に5人が亡くなった大雨も、同じ気流の連鎖の一部だ。今週末に沖縄に接近している台風18号(ソウデル)も、南シナ海の熱を吸いながら発達している。
気象のつながりは国境を超える。
中国の被災地からの農産物供給が減れば、輸入食料品の価格に影響が出ることもある。砂糖やゴムの国内最大の産地を持つ広西チワン族自治区の被害が長引くほど、素材市場への影響も無視できない。今年の洪水被害は、遠い国の問題として片付けられない局面に来ている。
9月に向けて
台風シーズンの本番は9月だ。
今年はすでに8月に台風が6つ発生しており、台風19号、20号も続けて発生している。中国当局は今後、ダムの補強と山間部の集落の避難計画の見直しを急ぐ見通しだが、山岳地帯への即効策は打ちにくい。
159人という数字は、今日も動いている。
捜索が続く山間部では、斜面崩落の二次リスクが残り、救助活動も難航している。広西当局が最終的な被害全体像を公表するのは、まだ先になりそうだ。被害の深刻さは、これから数週間かけてゆっくりと明らかになる。
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