「名前がある」という数字
これは公式発表ではない。
公開情報から、名前を特定できた戦死者を積み上げた数字だ。地方自治体の記録、地域紙の訃報欄、SNSの追悼投稿、地元の追悼サイト。一人ずつ、名前と確認できる情報が揃ったものだけを数えた。
「下限です。実際の死者数はもっと多い」と、調査チームは発表の文章に書いた。
彼らが試算する実際の死者数は43万〜53万人だ。名前を特定できない死者が、それだけいる計算になる。
戦闘の激しい地域では遺体の収容が追いつかない。家族への通知も遅れる。記録されないまま死んでいく兵士が、その差の分だけいるということだ。
平均年齢が13歳上がった
侵攻が始まったころ、死者の平均年齢は25歳だった。
今は38歳になっている。13歳、上がった。
開戦当初は訓練された若い精鋭部隊が先頭に立った。その部隊が失われた後、予備役が呼ばれた。予備役が足りなくなると、今度は志願兵の募集が始まった。
死者の56%は、元々は軍とは無縁だった人たちだ。刑務所から引き出された受刑者、地方で声をかけられた民間の男性、契約制の傭兵。お高くつく精鋭をなるべく温存し、代わりに民間から補充するという構図だ。
「徴兵圧力は高まり続けており、組織的な兵力の質は低下している」
ロシアの軍事アナリスト、パベル・ルジン氏は独立系メディアのインタビューでそう語った。プーチン政権は2022年秋に30万人規模の動員を実施したが、その後も追加動員に相当する措置を断続的に続けている。公式の発表はない。
ロシア政府の「公式見解」
国防省報道官のドミトリー・ペスコフ氏は「西側の情報機関による工作だ」と否定した。
ロシア国内では独立系メディアへのアクセスが制限されており、メディアゾーナのサイトもVPN無しでは読めない状態が続いている。それでも、海外に逃れたロシア人やVPNを使う市民の間では読まれている。
| 区分 | 人数 |
|---|---|
| ロシア軍の確認済み戦死者(名前特定) | 24万1,088人 |
| ロシア軍の推定戦死者 | 43万〜53万人 |
| ウクライナ軍の死者・行方不明者(推計) | 21万2,974人 |
ウクライナ側も詳細な死者数を公表していない。この数字も独立機関の推計だ。双方とも、国家は死を数えない。
日本への跳ね返り
ロシア軍の損耗が深刻になるほど、北朝鮮との軍事協力は強まる。
今年に入り、ロシアは北朝鮮から砲弾と兵士の補充を受けている。欧米の情報機関の報告によれば、北朝鮮の兵士が1万人以上、ロシア側の前線に展開した。その交換条件として、ロシアは北朝鮮にミサイル技術を渡している。
北朝鮮の軍事技術が上がることは、日本海側の安全保障に直結する。24万という損耗の深刻さは、この取引の動機がどれほど大きいかを示す数字でもある。
次に見るもの
プーチン政権が徴兵対象をさらに広げるかどうかは、冬前の法改正の動きで見えてくる。
もう一つ注目されるのは、この数字が「内側でどう受け取られるか」だ。名前が確認できる死者が積み上がるほど、家族と地域が戦争を身近なものとして感じ始める。それが政治的な圧力になるかどうかは、まだわからない。
だが、名前がある、ということは、生きていた人間がいたということだ。積み上げられた数字が、いつか沈黙を超えて政治を動かすかどうかは、これからの数か月と数年が示してくれる。
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