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「クラウド」という言葉は巧妙な隠喩だ。データがふわふわと空中に浮いているような印象を与える。しかし現実のインターネットは、海底に沈められた光ファイバーケーブルの束——直径わずか数センチの管が、大陸間のあらゆる通信を支えている。その総延長は約45万km。地球から月までの距離を超える。
2026年現在、世界の海底には約550本の通信用海底ケーブルが敷設されている。国際通信トラフィックの99%以上がこれらのケーブルを通過する。衛星通信の割合はわずか1%未満。イーロン・マスクのStarlinkが話題になるが、帯域幅と遅延の両面で海底ケーブルには遠く及ばない。
| 比較項目 | 海底ケーブル | 通信衛星(LEO) |
|---|---|---|
| 帯域幅 | 数百Tbps / 本 | 数十Gbps / 衛星 |
| 遅延 | 数十ms(大陸間) | 20〜40ms |
| コスト効率 | 非常に高い | 低い(大量の衛星が必要) |
| 耐久性 | 設計寿命25年 | 5〜7年 |
| 修理 | ケーブル船で物理修復 | 交換衛星を打ち上げ |
1本の最新型海底ケーブルは、数百テラビット毎秒のデータを伝送できる。これはNetflixの4K映像を数百万本同時にストリーミングできる容量に相当する。
海底ケーブルの敷設は、テクノロジーというよりも冒険に近い。専用のケーブル敷設船が、数千kmに及ぶ光ファイバーケーブルを船倉に積み、数ヶ月かけて海底に沈めていく。
ケーブルの直径は深海部分で約17mm。ガーデンホースより少し太い程度だ。しかし陸揚げ地点に近い浅瀬では、漁船のトロール網やアンカーから保護するために鎧装(アーマー)が施され、直径が数倍に膨らむ。
| 深度 | ケーブル仕様 | 脅威 |
|---|---|---|
| 0〜200m(陸棚) | 二重鎧装+埋設 | アンカー、トロール網、建設工事 |
| 200〜1,000m(大陸斜面) | 単鎧装 | 海底地すべり |
| 1,000〜4,000m(深海平原) | 軽量型(鎧装なし) | 地震、海底火山活動 |
| 4,000m以深(海溝付近) | 特殊強化型 | 極度の水圧、地殻変動 |
深海では水圧がケーブルを保護するため鎧装は不要だが、約60〜70kmごとにリピーター(中継増幅器)を配置する必要がある。光信号はファイバー内で減衰するため、定期的に増幅しなければ太平洋の反対側に届かない。太平洋横断ケーブル1本には数百台のリピーターが連なる。
年間約100〜200件の海底ケーブル障害が報告されている。原因の大半は人間活動だ。
最も多い原因はアンカーの誤投下と底引き網漁だ。2023年には紅海のケーブルがフーシ派の攻撃に関連して損傷し、アジアとヨーロッパ間の通信に影響が出た。
サメによる被害は実在するが、頻度は低い。Googleは太平洋ケーブルにケブラー繊維の外装を追加してサメ対策を施した。なぜサメがケーブルを噛むのかは完全には解明されていないが、ケーブルから漏れる微弱な電磁場がサメのロレンチーニ器官(電場センサー)を刺激するという説が有力だ。
かつて海底ケーブルは通信事業者のコンソーシアムが共同出資して敷設するのが一般的だった。しかし2020年代に入り、Google、Meta、Microsoft、Amazonといったテック大手が自前のケーブルを敷設する動きが加速している。
| 企業 | 主なケーブルプロジェクト | ルート |
|---|---|---|
| Firmina | 米国東海岸〜ブラジル〜アルゼンチン | |
| Meta | 2Africa | アフリカ大陸を周回(全長45,000km) |
| Microsoft | Amitié | 米国〜フランス〜英国 |
| Amazon | Hawaiki Nui | オーストラリア〜NZ〜米国 |
Metaの「2Africa」は全長45,000kmで、アフリカ大陸を完全に周回する世界最長級のケーブルだ。接続される33カ国のインターネット容量を桁違いに拡大する。その動機は利他的ではなく、次の数十億人のユーザーをプラットフォームに取り込むためのインフラ投資だ。
日本は海底ケーブルの要衝だ。太平洋を横断するケーブルの多くが千葉県南房総市や三重県志摩市に陸揚げされる。これらの陸揚げ局は、文字通り日本のインターネットの「入口」であり、その場所は国家安全保障上の重要施設として扱われている。
東日本大震災では、複数の海底ケーブルが海底地すべりにより切断された。日本のインターネットが完全に途絶えなかったのは、複数の経路が冗長的に確保されていたからだ。しかし、もし太平洋側のケーブルが同時に全滅すれば、日本はデジタル的に孤島になる。
「クラウド」の実態は、海底に横たわる45万kmのガラス繊維だ。次にスマートフォンで海外のWebサイトにアクセスしたとき、あなたのデータは深海4,000mの暗闇を光速で駆け抜けている——そのことを想像してみてほしい。
海底ケーブルが切断されたとき、修理は驚くほど原始的な作業で行われる。
まず、陸上局から光を送り、反射が返ってくるまでの時間で障害地点を数十メートル単位まで特定する。次に、世界に数十隻しかないケーブル敷設船が現場へ向かう。船の到着自体に数日から数週間かかることも珍しくない。
現場では、グラップネルと呼ばれる錨状の器具を海底に降ろし、ケーブルを引っ掛けて船上へ引き揚げる。深海4,000mからの引き揚げには数時間を要する。切断部分を切り落とし、新しいケーブルを接続して光ファイバーを融着し、再び海底へ戻す。1本の修理に平均2週間前後、悪天候が重なれば1ヶ月を超える。
修理船の隻数は世界的に不足しており、多くは船齢30年を超えている。障害が同時多発した場合、順番待ちが発生する構造になっている。インターネットの冗長性が経路の多重化に依存しているのは、修理が本質的に遅いからでもある。
Starlinkのような低軌道衛星コンステレーションの登場で、「海底ケーブルは不要になるのでは」という問いが出るようになった。答えは、当面ならないだ。
理由は容量にある。1本の最新海底ケーブルが運ぶ帯域は数百テラビット毎秒に達する。対して衛星コンステレーション全体の総容量は、その一部にすぎない。国際通信の総量を衛星で肩代わりするには、桁が2つ足りない。
コスト構造も違う。海底ケーブルは敷設に数百億円かかるが、一度敷けば20年以上使える。衛星は5年前後で寿命を迎え、継続的に打ち上げ続ける必要がある。単位トラフィックあたりの費用では、ケーブルが圧倒的に有利だ。
衛星が強いのは、ケーブルを引けない場所と、引くまでの空白期間だ。離島、山間部、災害時の臨時回線。両者は競合ではなく、役割の違う層として共存していく。
海底に敷設された約550本の光ファイバーケーブル(総延長約45万km)が支えており、国際通信トラフィックの99%以上がここを通過します。衛星通信は帯域・遅延の面で及ばず1%未満です。
年間100〜200件の障害の大半は人間活動が原因です。最も多いのはアンカーの誤投下と底引き網漁で、近年は地政学的な攻撃による損傷も報告されています。
自社のデータセンター間を結び、次の数十億人のユーザーをプラットフォームに取り込むためのインフラ投資です。Metaの「2Africa」は全長45,000kmでアフリカ大陸を周回します。
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