1日は24時間、1時間は60分、1分は60秒。この時間の区切り方は、メートル法のような10進法の世界では異質に見える。なぜ1日は10時間や100分ではなく、24と60という中途半端な数字で分割されているのか。その答えは、約4,000年前のバビロニアにある。
60進法の起源——古代バビロニア
紀元前2000年頃、メソポタミアのバビロニア人は60を基数とする数体系を使っていた。なぜ60なのか。その理由には複数の仮説があるが、最も有力なのは60の「割り切りやすさ」だ。
| 数 | 約数の個数 | 約数 |
|---|---|---|
| 10 | 4個 | 1, 2, 5, 10 |
| 12 | 6個 | 1, 2, 3, 4, 6, 12 |
| 24 | 8個 | 1, 2, 3, 4, 6, 8, 12, 24 |
| 60 | 12個 | 1, 2, 3, 4, 5, 6, 10, 12, 15, 20, 30, 60 |
| 100 | 9個 | 1, 2, 4, 5, 10, 20, 25, 50, 100 |
60は1から6までのすべての整数で割り切れる。これは取引や分配の場面で圧倒的に便利だった。60個の穀物を5人で分けても、6人で分けても、12人で分けても余りが出ない。10進法の世界で暮らす現代人にとっては「なぜ60?」と首をかしげるが、古代の商人にとっては「なぜ10?」の方が不思議だっただろう。
エジプトが24時間を定めた
1日を24分割したのは、紀元前1500年頃の古代エジプト人だ。彼らは昼を12区分、夜を12区分に分けた。
なぜ12なのか。有力な説のひとつは「指の関節」による計数法だ。片手の親指を除く4本の指には、それぞれ3つの関節がある。親指で関節を順番に数えると、片手で12まで数えられる。さらに反対の手の5本の指で12の倍数を記録すれば、両手で60まで数えることができる。
| 時代 | 時間の定義 | 特徴 |
|---|---|---|
| 古代エジプト | 昼12 + 夜12 = 24時間 | 季節により1時間の長さが変動 |
| 古代ギリシャ | 24等時間(ヒッパルコス提唱) | 均一な1時間の概念が登場 |
| 中世[ヨーロッパ](/tag/europe) | 不定時法(日の出〜日没を12分割) | 修道院の祈りの時間に使用 |
| 14世紀以降 | 機械時計による定時法 | 24等分が標準に |
古代エジプトでは、夏の昼の「1時間」と冬の昼の「1時間」では長さが違った。日の出から日の入りまでを常に12分割するため、季節によって1時間の実際の長さが伸び縮みしていた。現代人が当たり前と思っている「1時間 = 一定の長さ」という概念が定着したのは、機械時計が普及した中世以降のことだ。
フランス革命は時間を10進法にしようとした
1793年、フランス革命政府は「革命暦(共和暦)」とともに10進法の時間を導入した。1日を10時間、1時間を100分、1分を100秒とする制度だ。
| 項目 | 従来の時間 | 革命時間 |
|---|---|---|
| 1日 | 24時間 | 10時間 |
| 1時間 | 60分 | 100分 |
| 1分 | 60秒 | 100秒 |
| 1日の合計秒数 | 86,400秒 | 100,000秒 |
この制度はわずか17ヶ月で廃止された。メートル法やリットルは定着したのに、10進法の時間が失敗した理由は単純だ。長さや重さの単位は国や地域で異なっていたが、24時間制はバビロニア以来4,000年間、文明を超えて共有されていた。あまりにも深く根付いた慣習は、革命でも変えられなかった。
コンピュータの世界でも60進法は生きている
UNIXタイムスタンプは1970年1月1日からの「秒数」で時刻を表す。10進法の整数だ。だがそれを人間が読める形式に変換するとき、結局は24と60で割り算をする。プログラマーなら誰でも書いたことがあるだろう——hours = totalSeconds / 3600; minutes = (totalSeconds % 3600) / 60——この計算のたびに、バビロニアの数学者が微笑んでいるかもしれない。
GPSの座標は度・分・秒で表現される。60進法だ。天文学の赤経・赤緯も60進法だ。4,000年前の数体系は、宇宙を観測する技術の根幹にまで染み込んでいる。
あなたは毎日「なんとなく」24時間を過ごしている。だがその24という数字は、古代エジプトの天文学者が星空に見出し、バビロニアの商人が市場で使いこなした知恵の結晶だ。次に時計を見たとき、文字盤に刻まれた12の数字にどんな歴史を感じ取るだろうか。