二百人を超えた累計
数字の積み上がり方が独特である。
1回あたりの死者は3人から4人が多い。ニュースとしては小さく、翌日には流れていく。ところが68回分を足すと227人になる。
ある国が別の国の民間人を200人以上殺したとすれば、通常は国際問題になる。1回3人ずつだと、そうならない。
これは意図された効果ではないかもしれない。ただ、結果としてそう機能している。
「証拠は出せない」
国防総省は、対象の船が麻薬密輸に関与していたと繰り返し述べてきた。だが、その根拠となる情報は機密扱いのままである。
映像の公開についても、ピート・ヘグセス国防長官は明言を避けてきた。一部の攻撃については映像が出たが、そこから積み荷を特定できるわけではない。
アムネスティ・インターナショナルはこの作戦を「超法規的殺害」と呼び、国際法上の犯罪にあたると主張している。裁判も、警告も、投降の機会もないまま殺している、という指摘である。
麻薬の密輸は犯罪だが、犯罪の疑いがある人間を海の上で爆殺してよい、という法体系は基本的に存在しない。米国が戦争状態にある相手でもない。
議会はどこにいるのか
もう一つの論点は、誰がこれを承認したのかである。
米国憲法では、宣戦布告の権限は議会にある。大統領は緊急時に部隊を動かせるが、事後に議会へ報告し、承認を得る手続きが定められている。
1年間、68回の攻撃が続いていて、議会の明示的な承認はない。批判する側が「議会はどこにいるのか」と問うのは、そういう意味である。
ヘグセスの国防総省は、この1年で民間人被害を防ぐための内部手続きを次々に削ってきた。軍の法務トップを更迭したことも報じられている。武力行使が国際法に適合するかを助言する立場の人間である。
「民間人はゼロ」という報告
8月に出た国防総省の報告書は、一連の船舶攻撃で民間人の死者はゼロだったとしている。
227人全員が麻薬密輸犯だった、という主張になる。
報道機関からは「完全な粉飾だ」という評価が出た。攻撃対象を全員「敵」と分類してしまえば、定義上、民間人の犠牲は発生しない。ベトナム以降、繰り返されてきた数え方でもある。
外部の検証は入っていない。遺族が異議を申し立てる窓口もない。
日本から見て遠い話か
カリブ海は日本から遠い。それでも、この件が示している論点は遠くない。
一つは、証拠を出さないまま武力を使う前例が積み上がっていることである。前例は輸出される。同じ論理は南シナ海でも東シナ海でも使える。
もう一つは、被害の数え方である。「敵」と分類すれば民間人はゼロになる、という手法が国防総省の公式報告で通ってしまった。この基準が標準になれば、他の地域の犠牲者数も同じように消える。
日本の海上保安庁は、密輸容疑の船に対して停船命令と立ち入り検査で対応する。撃沈はしない。当たり前のことだが、その当たり前がどこまで当たり前でいられるかという話でもある。
まとめ
- 8月25日のカリブ海での攻撃で4人が死亡し、約1年間で68回、累計227人が米軍の船舶攻撃で殺された
- 対象船が麻薬を積んでいたことを示す証拠は公開されていない。アムネスティ・インターナショナルは超法規的殺害だと批判している
- 議会の明示的な承認はないまま作戦が続いている。国防総省は民間人の犠牲をゼロと報告した
- 1回3〜4人ずつという規模がニュースの単位を小さくし、累計の重さを見えにくくしている
出典・参考
- 'Where Is Congress?' US Kills 4 More Bombing Another Boat in the Caribbean — Common Dreams
- Pentagon Says It Killed 4 People in Latest Strikes on Alleged Drug Boats — Democracy Now!
- US military strikes suspected drug boat in Caribbean, killing 4 — Stars and Stripes
- "Total Whitewash": New Pentagon Report Claims U.S. Killed No Civilians in Boat Strikes — The Intercept
- US military says it killed four in strike on alleged drug-smuggling boat in the Caribbean — Jamaica Gleaner



