「幹線を断てばバマコは孤立する」
RN7はコートジボワールのバウアケ市とバマコを結ぶ約800キロメートルの幹線で、マリ南部の生命線だ。食料・燃料・工業製品のほとんどがこのルートを通り、別の回廊道路はギニアを経由するルートしかないが、路面状況が悪く大型タンカーの通行は難しい。
マリ経済省の発表によると、バマコの燃料消費量のうち約80%がRN7経由で輸入されている。9月22日以降、幹線沿いの検問所でJNIMの戦闘員がタンク車を止めており、マリ軍が確保を試みたが奪還できていない区間がある。
ムサ・ジャラ(38)は首都バマコで小型バスの運転手をしている。「昨日まで満タンにできたのに、今日は2リットルしか買えなかった。仕事にならない」と地元紙に語った。バマコでは燃料不足のため、一部のタクシーが路線を縮小している。
「5倍になったガソリンは市民の足を奪った」
バマコの人口は約300万人とされ、公共交通は発達していない。多くの市民が生活のためにバイクや小型車を所有しているが、燃料費の急騰は直接家計を圧迫する。月収200ドル程度の低所得者層にとって、ガソリンが5倍になることは実質的な移動の自由の剥奪に近い。
食料品の輸送コストも上昇しており、市場では野菜や穀物の価格が3〜4割上がり始めている。物流業者は燃料のプレミアムを運賃に転嫁しており、物価上昇の連鎖が始まっている。
WFP(世界食糧計画)バマコ事務所の担当者は「この状況が1週間以上続けば、人道支援の輸送コストにも直撃する。支援物資の配給が遅れる可能性がある」と警告した。ガソリン価格の急騰が市民生活に与える影響については、他地域の事例も参照してほしい。
「マリ軍はJNIMを押さえられていない」
マリは2021年のクーデター以降、アシミ・ゴイタ大佐率いる軍事政権が支配している。フランス軍バルカン作戦の撤退後、ロシアの民間軍事会社の後継組織「アフリカ軍団」と連携する形で対JNIM作戦を展開してきた。しかしJNIMの勢力圏は縮小どころかむしろ拡大しつつある。
JNIMはマリ北部・中部を実効支配し、最近は南部のシカソ州方面にも活動を広げている。バマコとコートジボワール国境の間に位置するRN7沿いは今年に入って小規模な攻撃が散発していたが、今回のように幹線を組織的に封鎖する事態は初めてとされる。
国連PKO(MINUSMA)は2023年末にマリ政府の要請で撤退しており、現在は独立した国際監視機能がない。EUのトレーニングミッション(EUTM Mali)も同年に活動を終了しており、外部からのチェック機能が極めて限定的だ。
「サヘル全体の連鎖崩壊が続く」
マリだけでなく、ニジェール・ブルキナファソもここ数年で軍事クーデターを経験し、それぞれで武装勢力の活動が活発化している。3か国はかつてフランスと安全保障協力を結んでいたが、いずれも関係を断絶した。
2024年から「サヘル同盟(AES)」と呼ばれるマリ・ニジェール・ブルキナファソの3か国同盟が発足し、EUや旧宗主国フランスとの関係を断って独自の安全保障路線を進めている。しかし3か国の軍は連携が取れていないことも多く、武装勢力への対処に苦慮している状況が続く。
人道支援機関によれば、サヘル地域全体でJNIMやイスラム国関連グループの影響を受ける住民は約1,200万人に上る。バマコへの幹線封鎖はその中心部に波及した象徴的な事件として、欧米の外交筋に衝撃を与えた。首都へのアクセス路を武装勢力が断てる状況は、マリの政治的安定にとって新たな段階が来たことを示している。
「フランスの影響力が後退した後の空白をJNIMが埋めた」
フランスはサヘル地域でバルカン作戦(2013〜2022年)を通じ、長年にわたってJNIMなどの武装勢力に軍事的な圧力をかけてきた。しかし2022〜2023年にかけてマリ・ニジェール・ブルキナファソがフランス軍の撤退を求め、サヘルにおけるフランスのプレゼンスは事実上消えた。
その空白を埋めたのがJNIMだった。フランス軍による情報収集・攻撃能力が消えたことで、JNIMは組織の立て直しと勢力圏の拡大に時間を使えるようになった。ロシアのアフリカ軍団がその代替として入っているが、地域の地理と住民への信頼関係においてフランス軍に及ぶ部分は多くない。
西アフリカ経済共同体(ECOWAS)はマリ軍政に対して制裁を発動したが、実効性は限定的だ。コートジボワールやセネガルなど隣国もバマコへの幹線封鎖の影響を注視しており、自国への物流・経済的波及を防ぐための外交調整が水面下で進んでいる。
エネルギー企業や物流会社は代替ルートを探しているが、ギニア経由の迂回路は追加コストが大きく、全量を賄うことは難しい。国際社会はマリ軍政との関係悪化を避けつつ、人道状況の悪化に対処するという難しいバランスを迫られている。
まとめ
武装勢力JNIMがバマコへの幹線RN7を封鎖し、首都のガソリン価格が5倍に急騰している。代替輸送ルートが乏しい内陸都市バマコにとって、燃料供給の遮断は市民生活と人道支援の両方を直撃する事態だ。マリ軍は幹線の奪還を試みているが、JNIMの勢力圏は縮小するどころか拡大しつつある。外部の監視・支援機能が限られるなかで、サヘル全体の安全保障がさらに悪化する構造的な問題が改めて浮き彫りになっている。バマコへのアクセス路を武装勢力が断てる状況は、マリの政治的安定にとって新たな段階が来たことを示している。RN7封鎖の解除に数日以上かかれば、市民生活への影響はさらに深刻になりかねない。JNIMが今後も同様の戦術を使い続けた場合、内陸国マリの都市インフラ全体の脆弱性がより広く認識されることになるだろう。国際社会がこの問題をどう扱うか、まずは幹線封鎖の解決を通じて試されている。
出典・参考
- マリ経済省 発表(2026年9月22〜24日)
- WFP バマコ事務所 警告声明(2026年9月24日)
- RFI(フランス国際放送)報道(2026年9月24日付)
- Africa Intelligence, The Africa Report 報道(2026年9月24日付)
- AP, Reuters 報道(2026年9月24日付)
- WFP マリ国別情報






