2022年の制度開始から4年
ガソリン価格の激変緩和措置は、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけとした原油高騰への対応として2022年1月に始まった。
最初の補助上限は1リットルあたり5円だった。それが段階的に引き上げられ、今回51円に達した。制度発足時の10倍だ。
補助の原資は石油石炭税の一部と一般会計で、年間1兆円を超える規模になっている。この財源は最終的に税として国民全体が負担している。
当初から補助制度は時限的な措置として設計されていた。ただ、エネルギー高が長期化する中で「暫定」は常態化し、政府は毎年末に延長の判断を迫られてきた。
ホルムズが直接乗っている
補助金が最高値を更新した最大の要因は、中東情勢だ。
9月上旬に起きたサウジアラビア東西パイプライン(ペトロライン)のフーシ派ドローン攻撃が、原油市場を一時1バレル99ドル台まで押し上げた。補助がなければその上昇分が直接ガソリン価格に乗っかる。
日本の石油輸入の約90%は中東からだ。そのほぼ全量がホルムズ海峡を通る。イランの革命防衛隊が「地理を変える」と警告した状況は、日本の家計コストに直結する問題だ。
「170円の感覚」が危ない
店頭では169.9円と表示されているが、補助なし換算での実態は220円超だ。
ドライバーの感覚は170円前後に慣れているが、それは補助ありの数字だ。もし補助制度が縮小または廃止された場合、一気に50円以上の値上がりが表面化する。
政府の補助制度は「激変緩和」が目的なので、いつまでも続ける設計にはなっていない。縮小や終了を議論するタイミングは、選挙後の政治日程や原油相場次第だ。
現在の家計が補助ありの価格に慣れきっている点は、政策転換時に注意が必要だ。
秋の値上げ列車
ガソリンだけではない。
電気代は10月から再エネ賦課金の引き上げで月数百円の値上がりが予定されている。食料品は為替(ドル円)と輸送コストの影響で、秋に改定価格が出そろう商品が多い。
こうした値上がりが重なる中で、ガソリン補助金の最高値更新は「中東の問題が日本の生活コストに乗っている」ことを数字で示している。
仮にホルムズ情勢が悪化してブレント原油が110ドルを超えた場合、補助の上限が51円のままでは全国のガソリン価格が180円台に入る可能性がある。
農業・漁業・運輸では、燃料コストが経営に直結する。農林水産省の調査では、2024年の農家の燃料費は1農家あたり平均45万円で、2020年比で2.3倍に膨らんでいる。ガソリン補助が縮小すれば、トラック輸送の運賃にも転嫁される可能性があり、食料品の小売価格への波及は避けられない。
「補助をやめる」シナリオ
補助金制度は恒久的なものではない。「激変緩和」が目的なので、理論的には中東リスクが落ち着いた時点で縮小・廃止する設計だ。
しかし実態としては、一度定着した補助を縮小するのは政治的に難しい。2023年に補助を一時縮小しようとした際、ガソリン価格が160円台後半まで上昇したことで政治的圧力が強まり、縮小は即座に撤回された。
補助を維持し続けるためのコストは年間1兆円超だ。これが今後も続けば、国債残高のさらなる積み上がりか、他の予算の削減かを選ぶことになる。
「補助のある値段と補助なしの値段の差が広がるほど、やめるタイミングがなくなる。これは財政的な罠だ」と、エネルギー政策の研究者は述べている。
まとめ
補助金51円という数字は、日本のエネルギー調達の脆弱さをそのまま映している。
中東の地政学リスクが続く限り、この補助は縮小しにくい。縮小すれば価格は跳ね上がる。維持すれば財政コストが積み上がる。その選択を先送りにしている間にも、補助額の最高記録は更新され続けている。
「169.9円で給油できている」のは、水面下で51円の国家支援が入っているからだ。中東の緊張がこの秋どう動くかが、日本の家計コストを直接左右する。






