ガーメント工場が止まる
バングラデシュは世界第2位の衣料品輸出国だ。
主要な工場地帯があるナラヤンゴンジ、ガジプル、チッタゴン周辺でも道路冠水が発生した。工場への原材料搬入と完成品の搬出が止まり、一部のメーカーは出荷遅延を取引先に通知した。
日本はバングラデシュ産衣料品の主要輸入国のひとつだ。ユニクロをはじめ日本の衣料品流通の相当部分がバングラデシュの工場に依存している。洪水による工場稼働の停止が長引けば、秋冬商品の入荷に影響が出てくる可能性がある。衣料品だけではない。バングラデシュは製薬原料、レザー製品、水産物の輸出でも重要な位置にあり、洪水が物流を止めるたびにサプライチェーンの細い部分が切れる。
ハシナが去ってからの洪水
バングラデシュの現在の政権は、ユヌスが率いる暫定政府だ。
2024年8月、シェイク・ハシナ元首相は大規模な反政府デモを受けてインドに脱出した。15年以上にわたる強権的な統治が、若者主導の「学生革命」によって終わった。ノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行の創設者であるユヌスは、政治経験のないまま首相に就いた。
政治的な過渡期に大規模な自然災害が重なった。暫定政府は行政機構を掌握しながら、洪水対策と政治改革を同時に進めなければならない状況に置かれている。支援配分の透明性はハシナ時代より高まるとの期待がある一方で、危機対応の経験の浅さを懸念する声もある。
| 県名 | 被害の状況 |
|---|---|
| シレット | 主要道路が膝上まで冠水 |
| スナムガンジ | 農地の70%超が浸水 |
| ネトロコナ | ダム決壊の恐れで住民3万人が避難 |
| コックスバザール | ロヒンギャ難民キャンプへの影響を調査中 |
排出していない国が最初に沈む
バングラデシュの洪水は「毎年のこと」だ。モンスーンと山岳地帯の融雪水が重なり、平野を水で覆う。住民はそれを前提に生活を組み立てている。
だが近年の傾向は、従来の「毎年のこと」の枠に収まらなくなっている。2022年には6月の洪水が例年の倍の規模になった。2024年には10月の洪水が予想外の時期に200万人に影響した。2026年の今回は、8月上旬の段階で1400万人という数字が出ている。
バングラデシュのCO2排出量は世界全体の0.5%未満だ。一方、気候変動に最も脆弱な国のひとつとして、世界の気候科学者が繰り返し挙げてきた国でもある。海抜の低さ、人口密度の高さ、モンスーン依存の農業という三重の条件が重なる。「排出していない国が、最も先に影響を受ける」という非対称性が、今年もまたバングラデシュで現れている。
日本はJICAを通じてバングラデシュへの防災インフラ支援を続けてきた。堤防強化、排水システムの改善、早期警戒体制の整備に資金を投じてきた。洪水が来るたびにその投資効果が問われる。気候変動への適応策を「支援」ではなく「義務」として捉え直すべきだという議論が強まっている。水害が繰り返されるたびに、被災者は立て直しにかかるコストと時間を奪われていく。
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