四百隻が動けない
IMOのアルセニオ・ドミンゲス事務局長によれば、足止めされている船員は約6000人。紛争が始まった当初は2000隻・2万人規模だったので、一部は脱出できたことになる。
それでも、20%の石油が通る国際航路が実質的に閉じたままであることに変わりはない。
被害も積み上がっている。IMOの集計では、8月26日時点で船舶への攻撃が70件確認され、船員19人の死亡が確認された。
「戦闘の訓練は受けていない」
ドミンゲス氏の言葉は率直である。
「彼らは戦闘の訓練を受けていないし、船はミサイルやドローンから身を守るようにはできていない」
商船の乗組員は軍人ではない。貨物を運ぶために乗っている人たちが、交戦地帯の真ん中で身動きが取れなくなっている。
同氏はさらに、こう続けている。「彼らがいなければ、船で運ばれる物資の90%は最終目的地に届かない」
IMOの広報担当者も、この地域の船員が「高いリスクと不確実性の中で暮らし、働き続けている」と述べた。
置き去りにされた船
足止めよりも深刻なのが、放棄された船の存在である。
伝えられているところでは、少なくとも9隻・93人の乗組員が、船主に見捨てられた状態でイランの港に留め置かれている。帰国の手配もなく、賃金も支払われていない。
これは事故ではなく、選択の結果として起きている。船を動かせない期間が長引けば、運航コストだけがかさむ。採算が合わないと判断した所有者が手を引けば、残されるのは乗組員だけになる。
海運の世界では、船籍と船主と用船者と乗組員の国籍がすべてバラバラであることが珍しくない。責任の所在が曖昧になりやすい構造が、こういう局面で表に出てくる。
8月に入ってからも、17日にミノアン・ディグニティ号で死者が出た。15日にはリヤン・スター号、3日にはミノアン・パイオニア号で乗組員が行方不明になっている。
一日百三十五隻に戻すまで
ドミンゲス氏が示した当面の目標は、具体的である。
「段階的に運航を再開し、1日135隻が通航する水準まで戻す」
裏を返せば、いまはその水準に遠く及ばないということでもある。復旧は一夜にして進むものではなく、保険料率と船員の確保という2つの現実的な壁がある。
戦争リスク保険の料率が高止まりすれば、船主は迂回を選ぶ。喜望峰回りは日数が伸び、燃料費が増える。その増分は運賃に乗り、最終的には商品の値段に混ざっていく。
日本の食卓との距離は、ここでつながる。輸入食品や飼料の価格には、こうした海上運賃の上振れが数か月遅れで効いてくる。
もっとも、円安や国内の人件費のほうが値上げの主因になっている品目も多い。海運だけを犯人にするのは正確ではないだろう。
それでも、レジで払う金額のどこかに、いまペルシャ湾で降りられずにいる6000人の時間が含まれている。そのことは覚えておいていい。
まとめ
- IMOによれば、中東の紛争開始から半年で最大400隻・約6000人の船員がペルシャ湾から安全に出られずにいる。当初は2000隻・2万人規模だった
- 8月26日時点で船舶への攻撃は70件、船員19人の死亡が確認されている。少なくとも9隻・93人は船主に放棄され、賃金も帰国手配もないままイランの港に留め置かれている
- ドミンゲス事務局長は1日135隻の通航水準への回復を目標に挙げた。保険料率と船員確保が壁になり、迂回による運賃上昇は輸入品の価格に遅れて効いてくる
出典・参考
- The Peninsula Qatar – UN Maritime Agency says 6,000 seafarers stranded in the Strait of Hormuz
- The Maritime Executive – IMO: 400 Ships and 6,000 Seafarers Are Still Unable to Depart Persian Gulf
- IMO – Secretary-General condemns new attacks on ships in the Strait of Hormuz
- Marine Insight – 6,000 Seafarers And 400 Ships Remain Trapped In Persian Gulf As US-Iran War Enters Sixth Month



