月に五ポンドの意味
年60ポンド、月5ポンド。日本円にすると月あたり千円前後の増加になる。
数字だけ見れば小さく感じるかもしれない。ただしこれは平均的な使用量の世帯の話で、家が古かったり在宅時間が長かったりすれば上振れする。
この上限が守るのは、標準料金プランで契約している約2200万世帯である。固定料金プランを選んでいる約1100万世帯、全体の35%ほどは今回の改定の影響を受けない。
影響を受ける側と受けない側が、ほぼ2対1で分かれている形になる。
「上限」が守らないもの
ここで誤解されやすいのが、価格上限という言葉である。
オフジェムが決めているのは、電力とガスの単価と基本料金の上限であって、請求総額の上限ではない。たくさん使えば、その分だけ払う金額は上限を超えて増えていく。
「上限があるから安心」という説明は、この点で正確ではない。寒い冬に暖房を長く使えば、上限が据え置かれていても請求書は膨らむ。
今回の改定にはもうひとつ、ややこしい要素がある。英政府が家庭向け電気料金から付加価値税を撤廃したため、電気側の負担は下がっている。
それでも全体が4%上がるのは、ガス側が8%上昇するためである。値上げの正体は電気ではなくガスにある。
中東から届く請求書
そのガスの卸価格を押し上げているのが、中東の紛争だとオフジェムは説明している。
同当局は、変動の激しい世界のガス市場が価格を動かす最大の要因であり続けていると述べた。ホルムズ海峡の通航が細り、液化天然ガスの流れが読みにくくなっている状況が、欧州の卸市場に乗ってきている。
戦場から数千キロ離れた家庭の請求書に、紛争のコストが分割で計上されていくという構図である。
もっとも、水準を歴史的に見れば話は少し違ってくる。今回の1723ポンドは、2022年のエネルギー危機時に政府が2500ポンドで介入した水準より3割以上低い。
ブルームバーグはこれを2024年1月以来の高さと報じており、直近では厳しい数字だが、過去最悪ではない。どちらの物差しを使うかで印象は変わる。
払えない世帯は増えている
数字の裏側で進んでいるのが、未払いの積み上がりである。
6月末時点で、英国の家庭が電力・ガス会社に対して抱える債務はおよそ60億ポンドに達したとされる。年末には70億ポンドに届くという見方も出ている。
上限が据え置かれても、あるいは小幅な引き上げにとどまっても、払えない世帯が減るとは限らない。ここ数年の値上がりが累積した結果として、分割払いの残高が消えないまま冬を迎える家庭が増えている。
オフジェム自身も体制の変わり目にある。ジョナサン・ブレアリー氏が最高経営責任者を退き、市場担当ディレクターのティム・ジャービス氏が職務を代行している。
日本の家庭はどうか
日本の電気・ガス料金にも、同じ経路が効いている。
日本は液化天然ガスの大半を輸入に頼っており、欧州の需給と価格は無関係ではない。欧州がスポット市場で買い付けを増やせば、アジア向けの調達価格も押し上げられる。
ただし日本の料金には、燃料費調整制度と政府の補助が挟まっている。卸価格の変動がそのまま請求書に出る英国とは、伝わり方の速さも形も違う。
英国の事例が示しているのは、価格そのものよりも、上限という制度が何を守り何を守らないかという線引きの話なのかもしれない。単価の上限は請求総額を保証しない。この区別は、日本の制度を読むときにも使える。
まとめ
- オフジェムが10月からの価格上限を4%引き上げ、標準世帯で年1663ポンドから1723ポンドになると発表した。対象は標準料金の約2200万世帯である
- 電気側は付加価値税の撤廃で負担が下がったが、ガス側が8%上昇したため全体が上がった。オフジェムは中東紛争による卸ガス価格の上昇を主因に挙げている
- 価格上限は単価と基本料金の上限であって請求総額の上限ではない。家庭の電力・ガス債務は6月末で約60億ポンドに積み上がっている
出典・参考
- Ofgem – Energy price cap will rise by 4% from October 2026
- MoneySavingExpert – Energy Price Cap to RISE 4% from 1 October even after VAT cut
- Transport + Energy – Ofgem announces 4% rise in energy price cap
- IBTimes UK – Higher Energy Bills to Hit Millions of Britons from October: Ofgem Cap Reaches 3-Year High



