「給油所に警察を出す」
上限は今月に始まった話ではない。
オレンブルク州のエフゲニー・ソルンツェフ知事は8月中旬、州内が「燃料をめぐる難しい状況」にあると認めた。その上で、給油所の「状況を整理するため」に警察官を配置すると表明している。
給油の列が長すぎて、現場で揉めるからである。
リペツク州のイーゴリ・アルタモノフ知事は、8月13日からナンバープレートの偶数と奇数で給油日を分ける方式を導入した。オレンブルクとリペツクの上限は、ガソリン30リットル、軽油60リットルだったという。
燃料部門を所管するアレクサンドル・ノバク副首相は8月11日に国内市場の会合を開き、関係省庁と石油各社に供給の調整を続けるよう指示した。ただ政府は、新たな危機が起きているとは公式に認めていない。
給油制限が確認された地域は12を超える。クラスノダール地方、ボロネジ、カルーガ、ロストフ、リャザン、タンボフ、トゥーラ、サラトフ、スモレンスク、ペンザ、ウリヤノフスク、そして沿海地方。ソチやバシコルトスタンでも列ができたと伝えられている。
象徴的な話もある。クラスノヤルスク地方では、プーチン大統領の訪問前日に価格が1リットルあたり24ルーブル下がり、大統領が去ったあとに元へ戻ったという。
貼り紙のほうが、発表より正直だということになる。
八月に二十一回の直撃
原因ははっきりしている。製油所が燃えているからだ。
ウクライナの無人機によるロシア製油所への攻撃は、8月だけで21回に達したと集計されている。単月としては開戦以降で最多である。
8月30日未明にはレニングラード州キリシのキネフ製油所と、南部エイスクの軍用飛行場が狙われた。キネフはロシア有数の処理能力を持つ設備で、ここが止まると北西部の供給が細る。
製油所は原油と違って、代わりがすぐに用意できない。蒸留塔と接触分解装置は特注品で、部品の多くは制裁下では正規に買えない。1発当たると、復旧に数週間から数カ月かかる。
しかも狙われているのは、たいてい装置の一部である。全焼させる必要はない。
改質装置や脱硫装置がひとつ止まれば、ハイオクの製造ラインだけが落ちる。だから在庫が切れるのはAI95から、という順番になる。
前線から1000キロ以上離れた工場が、燃料の値段を決めている。攻める側からすれば、戦車1両を潰すより効率が良いという判断なのだろう。
二十年ぶりの低水準
数字にも出ている。
8月のロシアの精製量は日量380万バレル前後まで落ちた。この20年で最も低い水準だとされる。ガソリンの供給は前年比で約2割減、軽油は2割強の減少である。
ウクライナ側の集計では、国内のガソリンは需要に対して3割ほど足りていない。足りない分は闇値になる。8月には1リットル120ルーブル、日本円でおよそ220円まで跳ねた地域があった。
日本のレギュラーが1リットル175円前後であることを思えば、産油国の店頭価格としては割に合わない。
輸出を止めても足りない
ロシア政府は、軽油と船舶燃料、ガスオイルの輸出禁止を9月末まで延長した。国内に回す量を増やすためである。
ここに二重の痛みがある。輸出は外貨と戦費の源泉だ。国内向けに囲い込むほど、歳入は細っていく。
一方で、ロシアが軽油を出さない分、世界の軽油需給は締まる。トラック、鉄道、船、農機、そして日本の物流もこの油で動いている。産地が減れば、遠く離れた市場の値段が先に動く。
原油そのものは中国とインドが買い続けているので、ロシアの輸出全体が止まったわけではない。詰まっているのは「原油から製品に変える工程」のほうである。
原油を売って製品を輸入する、という逆流も一部で起きている。産油国が精製品の買い手に回るのは、採算の面ではかなり割に合わない。
軍にとっても他人事ではない。戦車も装甲車も無人機の運搬車も軽油で動く。国内向けの配分が軍を優先すれば、民生用の不足はさらに深くなる。
日本の給油所からの距離
日本はロシア産の石油製品をほとんど買っていない。それでも影響を受けにくいとまでは言えない。
軽油と重油は世界でつながった市場で値が決まる。ロシアの精製が2割落ちれば、中東とインドの製品輸出に注文が集中し、アジア向けの卸値が持ち上がる。玉突きは、だいたい数週間から数カ月遅れでやってくる。
冬に向けては灯油の話にもなる。北半球の暖房需要が立ち上がる10月以降も製油所の被弾が続けば、灯油とジェット燃料の在庫はさらに薄くなりやすい。
そしてこの構図は、電力や港湾のような大きな設備を持つ国すべてに当てはまる。壊すのは無人機1機でも、直すには年単位と特注部品が要る。攻める側と守る側で、コストの桁が揃っていない。
まとめ
モスクワ周辺で給油量の上限が設けられ、ハイオクの品切れも出ている。オレンブルクやリペツクでは知事が警察の配置や偶数奇数制に踏み切り、副首相が供給調整を指示した一方、政府は危機を公式には認めていない。
背景は8月だけで21回に及ぶ製油所への無人機攻撃である。精製量は日量380万バレル前後と20年ぶりの低さで、ガソリン供給は前年比2割減。軽油などの輸出禁止も9月末まで延ばされた。
日本はロシア産製品をほとんど買っていないが、軽油と灯油は世界の市場で値が決まる。冬の暖房需要が立ち上がる前に、この工程の詰まりがどこまで戻るかが見どころになる。
出典・参考
- Meduza「Russia's fuel crisis is back, with queues and gasoline rationing returning across the country」(2026年8月12日)
- Ukrainska Pravda「Russia hit by new wave of fuel crisis」(2026年8月12日)
- The Moscow Times(ロシア国内の燃料市場に関する一連の報道、2026年6月〜8月)
- Reuters(ロシア製油所への攻撃と精製量に関する報道、2026年8月)



