「彼は殺されると思う」
米海兵隊のザカリー・シュミット大佐は、ハリールを知る立場からこう述べている。
「ハリールがアフガニスタンに送り返されたら、彼は殺されると私は考えている」
送還先は中央アフリカ共和国であってアフガニスタンではない。ただ、第三国に置かれた人がそこから本国へ移されない保証は、どこにもない。渡航後の身柄がどう扱われるかを米国が追い続ける仕組みも用意されていない。
ハリールの代理人であるアルマ・デイビッド弁護士は、一連の措置についてこう語っている。
「目的は、世界の難民保護の仕組みそのものを消し去ることにある」
強い言葉である。ただ、裁判所の保護命令が出ている人が別の大陸へ渡っているという事実は残る。
「送還の差し止め」は、難民認定とは別の制度である。難民として認められなくても、本国に返せば拷問や迫害を受ける可能性が高いと判断されれば、移民裁判官が本国への送還を止める。ハリールが得ていたのはこれだ。
条文の上では、止まっているのは「本国への送還」である。第三国へ移すことまでは明示的に禁じていない。この隙間が、今回の運用の根拠になっているらしい。
十日で三便、百人超
CBSによれば、この10日間でICEのチャーター便が3便飛んだ。乗っていたのは100人を超える。
行き先は8カ国。ブルンジ、カメルーン、中央アフリカ共和国、赤道ギニア、エスワティニ、リベリア、ルワンダ、シエラレオネである。
送られた人の国籍はアフガニスタン、キューバ、ニカラグア、イラン、ネパール、トルコ、ベネズエラなど。いずれもアフリカとは縁のない国々だ。
中央アフリカ共和国には米国務省の渡航危険情報でレベル4、つまり渡航中止勧告が出ている。米国民には「行くな」と言っている国へ、保護を求めた人を置いてくる形になっている。
同国は長く内戦が続き、首都バンギの外では武装勢力の活動が残る。米国は現地での領事支援も限られると案内している。
10日で3便という頻度も目を引く。チャーター機の運航には受け入れ国の着陸許可が要るので、事前の取り決めがなければ組めない。個別の事案というより、仕組みとして走っていることになる。
「法律で求められている」
国土安全保障省の説明はこうである。
「不法な外国人が本国への帰還を拒む申し立てを裁判所に行った場合、我々は法律により、その人物が行ける安全で確実な国を見つけることを求められている」
理屈としては筋が通っている。本国へ返せないなら、別のどこかへ、という論法だ。
争点になるのは「安全で確実な国」の中身だろう。渡航中止勧告が出ている国が、その定義に入るのかどうか。そして受け入れた側の国が、その人の身分と生活をどう扱うのか。
第三国送還そのものは以前から存在した手続きである。ここ数カ月で変わったのは、規模と速さ、そして送り先の選び方に見える。
受け入れる側の事情
なぜアフリカの8カ国が受け入れるのか。
公表された合意文はほとんどない。ただ、この種の取り決めでは受け入れ国に資金や関税、査証の扱いといった見返りが伴うのが通例である。
送られた人にとっては、言葉も通じず、身寄りもなく、就労資格も定かでない土地に降ろされることになる。難民保護というのは本来、迫害から距離を取るための仕組みだ。距離だけを稼いで保護が付いてこなければ、名前だけが残る。
受け入れ国の側にも、支援の受け皿があるとは限らない。エスワティニやリベリアの難民行政は、自国からの避難民を抱えるだけで手一杯だという指摘もある。
米国内では複数の訴訟が続いている。裁判所の命令と実際の運用がどこまで噛み合うかは、今後の判断待ちである。
日本の議論との距離
日本の入管制度にも、送還忌避と第三国の議論はある。
2023年の入管法改正で、難民認定申請中の送還停止に例外が設けられた。運用の是非は今も議論が続いている。米国の事例が直接あてはまるわけではない。
ただ共通する問いはひとつだ。裁判所が「返すな」と言った人を、行政がどこへ動かせるのか。その線引きを誰が決めるのか。
もうひとつ、日本にとって近い論点がある。米軍やNATOに協力した現地スタッフの処遇は、自衛隊の海外活動でも同じ形で起こりうる。協力者をどこまで守るのかという約束は、部隊が引き揚げたあとに試される。
ハリールの一家は、米軍と一緒に戦った側だった。協力した相手国の裁判所が保護を認め、その同じ国の行政機関が別の大陸へ送った。制度の内側で二つの判断が食い違ったとき、割を食うのは当人である。
そして次に協力を求められた誰かは、この件を見ている。
まとめ
米軍への協力歴がある家族を持つアフガニスタン出身の24歳が、移民裁判官の送還差し止め命令を得ていながら中央アフリカ共和国へ送られた。同国には米国務省の渡航中止勧告が出ている。
CBSによれば、10日間で3便、100人超がアフリカ8カ国へ渡った。国籍はアフガニスタン、キューバ、イラン、ネパール、トルコなど多岐にわたる。
国土安全保障省は「安全で確実な国を見つけることを法律で求められている」と説明する。争点はその定義と、渡航後に誰が身柄を追うのかにある。日本の送還忌避をめぐる議論とも、問いの形は重なる。
出典・参考
- CBS News「Afghan man whose family helped U.S. forces deported to Central African Republic」(2026年8月30日)
- 米国務省 渡航情報(中央アフリカ共和国・レベル4)
- 米国土安全保障省(DHS)のコメント(2026年8月30日)



