今日が「締め切り」だった
6月17日、トランプとイランのペゼシュキアン大統領が覚書に署名した。
内容はシンプルだった。米国はホルムズ周辺の「海軍封鎖を解除」する。イランは「商業船の安全な通航を保証」する。期間は「60日だけ」という文言が明記されていた。
60日を数えると、今日がその日になる。
だが現実は、覚書の外を走ってきた。
7月8日、米国がイランへの空爆を再開した。イランはイラク、バーレーン、クウェートにある米軍施設に報復攻撃した。トランプは「停戦は終わりだ、イランと交渉するのは時間の無駄だ」と宣言した。
その後、パキスタンが仲介に入った。
8月12日、「延長で合意した」という報道が出た。
しかしイランの外務省スポークスマン、エスマイルバギは即日これを否定した。
「延長に関する話し合いは行われていない」
どちらが正しいかは、今日の動きが答えを出す。
ホルムズが閉まっている間に
海峡を通る石油の量が、6月の最盛期から大きく落ちた。
6月の月初、中東からのタンカー積荷量は1日あたり2,000万バレルに達していた。
それが現在は1,200万バレルほどに減っている。
差し引き800万バレル。これが毎日、世界から消えている分だ。
IEA(国際エネルギー機関)は8月12日の報告書で、今年第3四半期の世界の石油供給不足を1日あたり180万バレルと見積もった。
7月の予測の2倍以上に修正された数字だ。
ブレント原油の価格は1バレル87ドル台に乗っている。米エネルギー情報局(EIA)は今年の年間平均を79ドルと見直した。1か月前の予測58ドルから、35%の上方修正だ。
「桁が違う」という話ではないが、スピードが手に負えない。
「合意した」「していない」の正体
報道が食い違っている背景には、交渉の特殊な構造がある。
米国とイランは、直接の外交チャンネルを持ちたがらない。間にパキスタンが入り、両国の意向を行き来させている。
「パキスタンが延長を確認した」という報道が出た。
しかしイランの外務省は「そのような交渉はない」と否定した。
ロイターに話したイランの「上級当局者」は、「米国がまず6月の覚書に戻ること」を前提として要求した。7月の軍事行動がそれを壊したという認識だ。
米国は、覚書が「米国の軍事行動を縛るものではない」という立場だ。
話が噛み合っていない。
アラグチー外相はこう言った。「米国がまず自分たちの義務を果たさなければならない」
| 項目 | 6月17日覚書 | 現在の実態 |
|---|---|---|
| 海峡の通航 | 商業船は安全に通過できる | 事実上の封鎖が続く |
| 米軍の行動 | 封鎖を解除する約束 | 7月に空爆を再開 |
| 有効期限 | 60日(今日で終了) | 延長の有無が不明 |
日本のガソリン代への直撃
ホルムズ海峡は日本にとって、外せない道だ。
日本が輸入する原油の約9割は中東産で、そのほぼすべてがホルムズを通る。
原油価格が現在の水準で推移した場合、家庭のガソリン代は6月初頭と比べて1リットルあたり30〜40円ほど上昇するという試算がある。
しかしガソリンだけの話ではない。
エネルギーコストは食料品の物流費、工場の電力費、航空燃料の価格を通じて全品目に波及する。
石油化学業界への影響はすでに出ている。国内エチレン設備の稼働率が70%台まで低下し、好不況の目安とされる90%を大きく下回ったままだ。この稼働率は3月から改善していない。
円安と原油高が重なる状況が続けば、秋以降のインフレ圧力は収まらない。
この先で何を見るか
今日の期限が過ぎた後、三つの分岐がある。
海峡が「事実上の延長状態」のまま何も宣言されず、曖昧なまま続くケース。
双方が公式に期限切れを認め、交渉が改めて始まるケース。
どちらかが軍事的な行動に出て、状況が急変するケース。
市場は現状、「曖昧なまま続く」をメインシナリオとして織り込んでいる。それがブレント87ドルという水準に表れている。「完全な封鎖」でも「完全な開通」でもない、中途半端な均衡だ。
この均衡が崩れる方向は、どちらにも開いている。
次の48時間で、今日という日が「転換点だったか」「ただの通過点だったか」が見えてくる。
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