「5〜7%」という要求の正体
世界の原油輸送量の約20%が通過するホルムズ海峡は、今年2月28日から事実上封鎖されている。米国とイスラエルがイランへの軍事作戦を開始したその日から、イランは通航を断続的に妨害し始めた。
開戦前は1日あたり100隻以上が通過していた海峡の通航量は、現在も大幅に落ち込んだままだ。仲介役を担ってきたのはオマーンで、スルタン・ハイサム・ビン・ターリクを擁するオマーンは地理的・歴史的な関係を活かしてイランと米国の橋渡しを続けてきた。
そのオマーンとの交渉でイランが提示したのが、積み荷の価値に対して「5〜7%」を手数料として徴収する案だ。
ホルムズ海峡を封鎖前の水準で通過する貨物の年間価値は1兆ドルを超えるとされる。7%を課すと、イランは年間700億ドル以上、日本円で約11兆円を手にできる計算になる。日本の防衛費2年分に近い額だ。
国際海事機関(IMO)は即座に反論した。「ホルムズ海峡は国連海洋法条約(UNCLOS)上の通過航行権が保証される国際水域であり、一方的な通行料に法的根拠はない」。
イランは「通行料ではなくサービスへのフィーだ」と言い換えたが、実態は変わらない。
原油が1週間で「10ドル」動く
市場はこの交渉に正直に反応している。
8月5日ごろ「合意が今日か明日にもある」との観測が流れると、ブレント原油は一時79ドルを割り込んだ。6日にイランが独自の制限案を公表して「合意はほど遠い」と示すと5%超反発し、10日には87〜88ドル台に戻っている。1週間で往復10ドル近い振れ幅だ。
「このまま来週も決着がなければ、市場の反応は良性ではなくなる」とあるエネルギーアナリストは述べた。
オマーンが提案した3%案とイランの5〜7%の間でまだ埋まっていないギャップは、金額に換算すると年間200〜400億ドルの差になる。互いに後退するには国内向けのメッセージが難しく、交渉はどちらも強気のポーズを維持したまま止まっている。
「俺たちがホルムズを持っている」
トランプ大統領は記者団に向かってこう言い放った。「俺たちはホルムズを完全にコントロールしている。俺たちのものだ」。
外交の言葉とは縁遠いそれに、イラン外務省は「これは交渉ではなく威圧だ」と反発した。
JD・ヴァンス副大統領は「ホルムズを通る石油とガスの量を最大化することが目標だ」と、やや穏当な表現に戻した。しかしトランプとヴァンスの間でトーンが微妙にずれていることが、交渉の難度を上げているという見方もある。
もう一つ、見過ごせない発言がある。トランプはIMOの反対を無視して「通行料を取ってもいい」という趣旨の言及をした。これは国際法上の通過航行権という原則に傷をつけかねない言葉だ。ホルムズで認めれば、マラッカ海峡や台湾海峡での同様の主張を今後否定できなくなる。
日本のガソリン代に直結する理由
日本はイランからではなく、主にサウジアラビア・UAE・クウェートから原油を輸入している。しかしその産油国の原油もホルムズ海峡を通って運ばれる。海峡が詰まると輸送保険料が高騰し、それがガソリン代と電気代に乗る。
経済産業省のデータによると、日本の輸入原油の約9割がホルムズ海峡を経由する。「中東は遠い話だ」と思うのは自由だが、ガソリンスタンドの看板は正直だ。
今週、この交渉が動かなければ、来週の価格は今週より高くなる可能性がある。
合意が出るとすれば、何をきっかけに
現在の交渉の焦点は「米軍の封鎖解除」と「通行料の料率」の2点だ。どちらかが譲歩しなければ前進しない。
米国側は「封鎖を解除するかわりにイランの核開発を止める」という大きな取引を視野に入れているとされる。しかしそこまで話が広がると、交渉は何カ月もかかる。イランの議会や保守強硬派は「譲歩は屈辱」と見ており、交渉当局の足を引っ張りやすい。
ホルムズ海峡の通航が完全に正常化されるのは、早くても年内いっぱいかかるという見方が今のところ優勢だ。
ソース:
- Oil prices climb as Iranian demands cloud outlook for Strait of Hormuz — Al Jazeera(2026年8月10日)
- Hormuz deadlock: Where oil prices could head next — CNBC(2026年8月11日)
- Iran wants a mafia-style 'protection' toll on the Strait of Hormuz — Fortune(2026年8月12日)
- UN maritime agency opposes Hormuz transit fees — CNBC(2026年7月13日)




