「燃料が何より重要になる」
IAEAのラファエル・グロッシ事務局長は、燃料の残量に焦点を当てている。
「原子力発電所が外部電源を失ったとき、ディーゼル燃料が確保されているかどうかが何より重要になる」
同機関の説明では、発電所の敷地内にある燃料は十日分ほどにとどまる。
木曜と金曜には、敷地の外の二カ所から数十トン規模のディーゼル燃料が搬入される様子をIAEAの職員が確認した。
補給が続いているうちは動く。逆に言えば、補給が止まった時点から十日で数え始めることになる。
燃料の輸送には、タンクローリーが前線に近い道路を通る必要がある。天候や戦況で一日止まれば、その分だけ残量が削られていく。
十日という数字は固定された猶予ではなく、補給が途切れるたびに短くなる目盛りだといえる。
停止中でも冷やし続ける
六基ある原子炉はいずれも運転を停止している。
ただし停止していれば安全というわけではない。核燃料は停止後も崩壊熱を出し続けるため、冷却水を循環させるポンプを回し続ける必要がある。
この電力が途切れると、時間の経過とともに炉心や使用済み燃料プールの温度が上がっていく。
非常用ディーゼル発電機は、そのための最後の備えとして設計されている。数日から十数日をしのぐ想定であって、二週間を超えて主電源の代わりを務めることを前提にした設備ではない。
長く回し続ければ整備の周期も早く来る。部品の交換や点検を戦時下の敷地内で行うのは容易ではない。
二〇一一年の福島第一原発の事故でも、外部電源の喪失と非常用電源の停止が重なったことが被害の拡大につながった。国際的な安全基準は、その教訓を受けて電源の多重化を求めている。今回はその多重性が失われた状態にあたる。
職員が撃たれている
同じ週、発電所の敷地内で三件のドローンによる事案が起きた。
IAEAによれば、この過程で職員二人が負傷している。
送電線の復旧作業は、どちらの側からも撃たれない時間帯を作らなければ進まない。修理班が線路沿いに出ていく必要があるためである。
二〇二五年十月にも同発電所は一カ月近く外部電源を失った。このときはIAEAが仲介して現地での局地的な停戦を成立させ、その保護のもとで修理を終えている。
同じ手順がもう一度必要になる局面に近づいている。
停電は数え方が変わってきた
同発電所が外部電源を失うのは今回が初めてではない。
二〇二二年に占領下に入って以降、全系統の喪失は十回近く記録されてきた。当初は数時間から一日ほどで復旧する例が多かった。
それが二〇二五年十月には一カ月近くに延び、今回も二週間を超えている。復旧までの時間が回を追って長くなっている。
送電線が減ってきたことが背景にある。かつて複数あった外部からの経路は損傷を重ねて数を減らし、いまは残った系統への依存が強まっている。予備が薄いほど、一本の切断が長い停止につながる。
「事故は国境で止まらない」
原子力事故の影響は、戦線の内側にとどまらない。
一九八六年のチョルノービリ事故では、放出された放射性物質が北欧から西欧まで届いた。ザポリージャ原発は欧州最大級の規模を持つ。
そのためロシア側の占領地にありながら、事故が起きれば被害を受けるのはロシアとウクライナの双方になる。この構造が、両者に一定の抑制をかけてきた面がある。
ただし抑制は仕組みではなく、その時々の判断に依存している。IAEAが燃料の残量という具体的な数字で発信を続けているのは、判断の材料を外から見えるようにしておくためだといえる。
まとめ
- ザポリージャ原発は八月二十日に最後の外部送電線を失い、二週間にわたって非常用ディーゼル発電機で冷却を続けている
- 敷地内の燃料は十日分ほどで、IAEAは敷地外二カ所から数十トン規模の搬入を確認した。補給が止まればそこから十日で数え始めることになる
- 同じ週に敷地内でドローンによる事案が三件あり職員二人が負傷した。送電線の復旧には局地的な停戦が要る
出典・参考
- IAEA事務局長 ラファエル・グロッシ 声明
- 国際原子力機関(IAEA)ウクライナ情勢アップデート
- World Nuclear News
- Al Jazeera
- The Washington Times



