「未知の海域にいる」
世界気象機関が観測データをまとめている。今回のエルニーニョは、千九百五十年の統計開始以降でもっとも強い規模になる可能性があるという。
七十年以上さかのぼっても比較できる年が見つからない、という言い方をされている。
太平洋赤道域の海面水温は平年を二度以上上回った状態が続いている。十一月から十二月にかけては四度近くまで開く可能性が指摘されている。
さらに気になるのは海面より下である。表層より深いところで、水温が平年を八度上回る海域が観測された。
深くに蓄えられた熱は簡単には抜けない。これが少なくとも二〇二七年二月まで続くという予測の根拠になっている。
海面の水温は風向きが変われば数週間で下がる。だが深いところの熱は、そのまま次の季節へ持ち越される。
今回の警告が「今年の夏の話」で終わらないと見られているのは、この深さの違いによる。
熱は水の下に貯まる
エルニーニョは海の現象だが、影響が出るのは陸である。
赤道太平洋の水温が上がると大気の循環が変わり、雨の降る場所がずれる。インドネシアやオーストラリア東部では乾燥が進み、南米西岸では豪雨が増える傾向がある。
過去の強いエルニーニョでは、この組み合わせが世界の穀物生産に同時に効いた。
一九九七年から九八年の事例では、インドネシアの大規模な森林火災、東アフリカの洪水、ペルー沿岸の漁獲激減が重なっている。国連機関はこの年の世界の被害額を数百億ドル規模と見積もってきた。
今回の規模がそれを上回るのであれば、影響も似た順序で並ぶ可能性がある。
値段は三段階で上がる
家計に届くまでには時間差がある。
最初に動くのは国際商品市場である。小麦、大豆、パーム油、砂糖といった作物の先物価格が、収穫の見通しが崩れた時点で反応する。
次に動くのが輸入価格で、日本の場合は円建ての調達コストが数カ月遅れて上がる。
最後が店頭である。加工食品や外食のメニューに乗るのは、さらにその後になる。
つまり今回の警告が食卓に届くのは、早くても年明け以降ということになる。
食品メーカーは原材料を数カ月から半年先まで手当てしておくのが通例で、その在庫が切れるまでは店頭価格が動かない。裏を返せば、価格が動き始めた時点では原因となった不作はすでに終わっている。
だから消費者の実感と気象のニュースは、いつも半年ほどずれて届く。
「もう予測の話ではない」
グテレス事務総長は今回、対策を具体的な期限とともに語っている。
各国に対しては、洪水と熱波に備えた早期警戒システムの整備を前倒しするよう求めた。国連は二〇二七年末までに世界のすべての人を早期警戒の対象にする目標を掲げてきたが、その進捗が遅れているという認識がある。
早期警戒は災害そのものを止めない。だが避難と収穫の判断を早めることはできる。
被害の総額は、判断が何日早かったかでかなり変わる。国連が期限を切って迫っているのは、そこに理由がある。
日本の冬に効いてくる
日本の気象では、エルニーニョは暖冬と結びつけて語られることが多い。
ただし相関は絶対ではない。過去には強いエルニーニョの年に厳しい冬になった例もあり、気象庁も断定的な表現は避けている。
家計への影響という点では、暖冬か厳冬かよりも輸入食材のほうが大きい。日本は小麦のおよそ九割、大豆のおよそ九割を輸入に頼っている。
主要な産地が同時に不作になれば、調達先を切り替える余地は小さくなる。逆に言えば、産地が分散して被害を受けるなら影響は薄まる。どちらに転ぶかは、これからの数カ月の降雨で決まる。
まとめ
- 世界気象機関の観測では、今回のエルニーニョは統計開始以降でもっとも強い規模になる可能性があり、少なくとも二〇二七年二月まで続くと見込まれている
- 表層より深いところで水温が平年を八度上回る海域があり、そこに蓄えられた熱が長期化の根拠になっている
- 家計には国際商品市場、輸入価格、店頭の順で届く。日本の食卓に反映されるのは年明け以降になる
出典・参考
- 国連事務総長 アントニオ・グテレス 記者会見(2026年9月3日)
- 世界気象機関(WMO)エルニーニョ・南方振動アップデート
- 国連ニュース
- Just Security, Early Edition September 3, 2026
- ロイター



