「韓国への直電」の意味
翌日、ゼレンスキーはソウルに電話をかけた。
韓国の指導部に、防空システムの融通を求めた。無人機の分野でも連携できると伝えた。
なぜ韓国なのか、という問いへの答えは単純だ。北朝鮮の隣だからだ。
現代の戦場を経験した北朝鮮の兵士たちが帰国する。防空システムの穴を突く方法、歩兵の塹壕戦の動き、砲撃のタイミング。それを体で覚えた状態で、日本海を越えて戻ってくる。
ゼレンスキーは「アジア諸国にとっても脅威になる可能性がある」と述べた。韓国への協力要請の言葉を選んだ外交ではあるが、警告の意味はそこにある。
ロシアが「払う」もの
北朝鮮が兵士を出す対価に、ロシアは何を渡しているか。
ウクライナ国防省情報総局は「ミサイル技術」と断言している。弾道ミサイルの推進系、誘導システム、核搭載に関連する技術だとされる。北朝鮮がずっと必要としてきたものが、ウクライナの戦場を通じて流れ込んでいる。
情報総局が把握する最新の動きでは、北朝鮮はすでに弾道ミサイル40発とミサイル部隊約90人をロシアに送り込んだ。発射機は6基、西部に展開済みとされる。
兵士の派遣と、武器の移転が並走している。
兵士をどこに置くか
ロシアが北朝鮮兵の配置場所として検討しているのが、ウクライナと国境を接する西部3州だ。
クルスク州、ブリャンスク州、ベルゴロド州。この3州に北朝鮮兵を置いて、そこにいたロシア正規軍を前線に回す構想だ。後方警備を担わせてロシア兵の前線投入を増やす計算である。
11月末までに5万人規模にする方針とされており、追加の移送がすでに動いているとの情報もある。
| 区分 | 規模 |
|---|---|
| ロシアに展開済みの北朝鮮兵(現時点) | 1万人以上 |
| 計画拡張後の目標 | 最大5万人(11月末) |
| 供与済みの弾道ミサイル | 40発 |
| 展開済みの発射機 | 6基 |
ロシアと北朝鮮の軍事協力は、侵攻開始以降ゆっくりと、しかし着実に深まってきた。今のペースが続けば、規模の話だけでは収まらなくなる。
ウクライナ側の試算によると、北朝鮮がロシアに供与した砲弾は2023年以降で累計600万発を超えるとされる。弾薬が尽きかけるロシア軍にとって、北朝鮮の在庫は前線を維持するための補給線になっており、兵士の派遣はその延長線上にある。
日本への地続き
5万人という数は、ウクライナの戦場の話だけでは終わらない。
北朝鮮の兵士が現代戦を経験し、ロシアのミサイル技術を持ち帰る。その北朝鮮と、日本海を挟んで向き合っているのが日本だ。
日本政府はこれまで、北朝鮮のミサイル能力の向上を最大の安全保障リスクの一つに位置づけてきた。ロシアとの取引が続く限り、その能力は着実に上がっていく。
ゼレンスキーが韓国に防空システムの支援を求めたという行動は、アジアの安全保障の再編を促す動きの端緒として読む見方がある。韓国が動けば、日米韓の連携の質も変わってくる。
日本政府は北朝鮮のミサイル発射のたびに「強く非難する」との声明を出してきた。だが、ミサイルの精度と射程がロシアとの技術交換で上がり続ける以上、声明だけでは対応が追いつかなくなる時点が来る可能性を、防衛省の内部文書は想定し始めている。
「時間の問題」の正体
記者会見の最後でゼレンスキーは言った。
「これは時間の問題です。北朝鮮の軍は現代戦を学んでいます」
「時間の問題」が何を指しているか、彼はそれ以上説明しなかった。
ウクライナで何が起きているかは、今後数か月で明確になる。北朝鮮が何を学んだかは、もっと時間をかけてわかってくるだろう。
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