「6月合意後で最大の死者」
今年6月、米国とイランのあいだで停戦に関する覚書が結ばれた。
その後も散発的な衝突は続いていたが、今回の攻撃による死者数は「合意以降で最も多い」とレバノン政府は述べている。
ネタニヤフ首相は攻撃の理由をこう説明した。「ヒズボラは前日、イスラエル兵3人を負傷させた。あれへの報復だ」。
レバノン政府と住民の受け止めは別だ。空爆で死んだ11人のうち、非戦闘員が何人いたかは発表されていない。子ども3人の名前もまだ公表されていない。
ヒズボラが「まだいる」理由
アブ・ハッサン・アラー氏はどんな人物か。
ヒズボラはその役割の詳細を公式には明らかにしていないが、欧米の情報機関は同氏をヒズボラ南部戦線の作戦立案に関わる幹部と位置づけていたとされる。
イスラエルはこれまでも、ヒズボラの幹部を一人ずつ殺害する作戦を続けてきた。それでもヒズボラが衰退しないのには理由がある。
ヒズボラは2006年のレバノン戦争以降、イランの支援を受けながら組織を再編した。幹部が倒れれば補充する仕組みが整っており、特定の指揮官の死が組織の機能を止めるわけではないとアナリストは言う。
イスラエルは2024年9月に最高指揮官ナスラッラー師の殺害に成功した。当時の楽観論では「これでヒズボラは崩壊する」とも言われた。だが組織は機能し続けた。今回の殺害は、その経験と同じ文脈に置かれている。
米国が動いている背景
今回の空爆と並行して、米国はイランへの追加制裁を準備していると複数のメディアが報じた。
6月にトランプ政権とイランが結んだ14項目の覚書(MOU)では、イランの核活動に関する制限とアメリカによる制裁の段階的解除が盛り込まれていた。しかし「イランがヒズボラへの支援をやめていない」という指摘が米議会の一部から続いており、追加制裁の準備はその圧力に応えた側面がある。
制裁が実際に発動されれば、6月合意の枠組みに亀裂が入ることになる。
イランとの「和平」と、レバノンでの「報復」は、矛盾する方向に動いている。
「止まらない」構造
なぜイスラエルとヒズボラの衝突は止まらないのか。
根本には、両者ともに「止める理由」が乏しいという問題がある。
ヒズボラにとって、イスラエルへの攻撃はガザ連帯の示威行為であり、支持者への見せ場でもある。一方のイスラエルには、ヒズボラの軍事力の蓄積を抑えるという長期的な動機がある。今回の司令官殺害も、その文脈の中にある。
「6月合意」はイランとアメリカの話であって、ヒズボラとイスラエルの間に直接の合意はない。停戦の枠組みが存在しないまま、双方が報復の連鎖を続けている。
次に見るもの
焦点は2つある。
一つは、ヒズボラが今回の司令官殺害にどう応えるかだ。大規模な報復に踏み切れば、レバノン全土を巻き込む展開になりかねない。
もう一つは、米国がイランへの追加制裁を本当に発動するかどうかだ。制裁が発動されれば、イランが覚書の合意を見直す可能性もある。それはホルムズ海峡の緊張につながり、原油価格を再び動かすことになる。
中東の火種は、1カ所だけで燃えているわけではない。
レバノン政府は国連安全保障理事会に書簡を送り、即時停止を求めている。だが拒否権を持つ国が複数いる安保理で、レバノン側の要求が実効的な行動につながった前例は多くない。制度と現実のあいだで、南部の住民は選択肢のないまま夏を過ごしている。
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