「一隻ずつ」では動かせない
田村社長の説明で目を引くのは、再開の条件の立て方である。
定期的な通航を再開するには、一隻ごとにリスクを見るのではなく、複数の航海にわたって安全な通航が続くという確信が要る。そう述べている。
これは商売の話として理にかなっている。
海運は往復と積み替えの連鎖で回っている。行きは通れたが帰りは通れない、では船が滞留し、次の配船が全部狂う。保険も乗組員の手配も、単発では組めない。
つまり「今日は通れそうだ」では足りない。この先何週間か通れる、という見通しがないと動かせないのだ。
田村社長は今年前半にも、停戦が二週間続いた程度では通航の判断はできない、という趣旨の発言をしている。姿勢は一貫している。
前提が三度ずれた
商船三井の見通しは、この一年で何度か後ろへ動いてきた。
当初は4月末を正常化のめどとしていた。それが7月に延び、決算の前提としては10月からの段階的再開と1月の正常化に置き直された。そして今回、年内は難しいという言い方になっている。
見通しがずれること自体を責めるのは酷だろう。軍事的な緊張の収まり方は、企業に予測できるものではない。
ただ、ずれ続けているという事実は重い。仮置きの前提で立てた業績見通しは、そのたびに引き直しになる。
海運各社は、この間に船をホルムズ海峡から遠ざけてきた。日本の船主が持つ船の多くは、すでに別の航路に回っている。
燃料と電気代に届く
日本の家計に届く経路は、大きく二つある。
一つは原油そのものの価格だ。ブレント原油は9月に入って1バレル95ドル台で推移し、1カ月前と比べて2割ほど、1年前と比べて4割以上高い水準にある。
もう一つが輸送コストである。ホルムズを避けた航路は距離が伸び、戦争保険料も上がる。この分は運賃に乗り、最後は製品価格に乗る。
日本は原油の大半を中東に頼っている。ガソリン、灯油、電気、そして石油を原料にする樹脂や化学製品。値上がりは順番に降りてくる。
冬の暖房需要が立ち上がる前に再開しなかった場合、灯油と電気の負担が去年より重くなる可能性はある。
もっとも、原油価格は需要側の要因でも動く。海峡だけで先行きが決まるわけではない。
迂回が常態になるとき
長引けば、企業は迂回を前提にした体制を組み直す。
調達先を中東以外に分散する。在庫を厚めに持つ。契約に価格の変動条項を入れる。どれも一度やれば、海峡が開いてもすぐには戻さない。
物流の経路は、変えるのに時間がかかるが、戻すのにも時間がかかる。企業が「当分このままだ」と判断した瞬間から、構造が固まり始める。
田村社長の発言は、そのタイミングが近いことを示しているとも読める。
何を見ておくか
分岐は三つある。
一つは、中東の緊張がどこで折り返すか。攻撃の頻度が落ちれば、保険料が先に反応する。
二つ目は、商船三井を含む海運各社の業績前提がいつ改定されるか。決算の前提が動けば、市場の織り込みも動く。
三つ目は、冬に向けた日本の燃料在庫である。備蓄と輸入の積み増しがどこまで進むかで、家計への効き方が変わってくる。
「複数の航海にわたって安全が続くという確信が要る」と田村社長は言った。 その確信が持てる日が、いつ来るかである。
まとめ
- 商船三井の田村城太郎社長が、年内のホルムズ海峡通航再開は考えにくいとの見方を示した。10月からの段階的再開という従来の前提は後ろへずれる
- 再開の条件は「一隻ずつの判断」ではなく「複数航海にわたる安全の継続」。海運の仕組み上、単発の安全確認では動かせない
- 日本への効き方は原油価格と輸送コストの二つ。冬の暖房需要が立ち上がる前に再開しなければ、灯油と電気の負担が重くなる可能性がある
出典・参考
- Mitsui OSK sees disruption of Hormuz shipping extending beyond 2026 — The Japan Times(2026年9月3日)
- Japan's Mitsui OSK Sees Risk to Hormuz Shipping Through Year-End — gCaptain(2026年9月3日)
- Hormuz Disruptions Could Drag Into Next Year, Japanese Tanker Giant Warns — OilPrice.com(2026年9月)
- 商船三井社長「ホルムズ海峡往来、停戦2週間では困難」 — 日本経済新聞(2026年4月)



