七十二時間の作業
パレスチナの市民防衛の隊員は、この三日間ほど、同じ現場で掘り続けていた。
作業の多くは手で行われている。ハンマーと鉄の棒。鉄筋の入ったコンクリートを、人の手で割っていく。
市民防衛は国際的な人道機関に向けて、緊急の要請を出した。求めているのは重機である。掘削用の機械、ポンプ、ブルドーザー。
ガザには元々それらがあった。だが二年近い戦闘のあいだに壊れ、燃料も部品も入ってこなくなった。残った車両を動かすための軽油さえ足りない。
道具がなければ、遺体は出てこない。 出てこなければ、家族は葬式を出せない。
「数千人」という数字の意味
ガザ全域で、まだがれきの下にいる人の数はきちんと分かっていない。
市民防衛や国連の関係機関は、数千人規模という言い方をしてきた。推計の幅は大きく、確定した数字を出せる状態にない。
なぜ数えられないのか。理由はいくつも重なっている。倒壊した建物の数が多すぎること。避難でその家に誰がいたか分からないこと。記録を残す役所そのものが機能を失っていること。
今回のマラカ家も、亡くなった人の全員が元の住人だったわけではない。避難してきた人が含まれる以上、「この家には何人いたか」を確定するのは難しい。
だから「55人分」という数字は、確認できた分の数である。
掘り出すことが後回しになる理由
戦闘が続く場所では、生きている人への支援が先に来る。水、食料、医療、燃料。これは当然の順序だ。
その結果、遺体の回収はいつも後ろに回る。優先順位が低いからではなく、手が足りないからである。
一方で、掘り出す作業には別の意味もある。埋葬は宗教的な義務であり、遺族にとっては区切りでもある。死亡が確認されなければ、相続も、行政上の手続きも止まったままになる。
支援の議論は、どうしても物資の量で語られやすい。だが必要なものの中には、重機のように「量」で測りにくいものもある。
停戦後に残る仕事
戦闘がいつ完全に止まるかは、ここでは書けない。
ただ、止まったとしても仕事は残る。がれきの量は数千万トン規模と見積もられており、その中には不発弾もアスベストも混ざっている。
撤去には重機と、それを動かす人と燃料と、そして時間がいる。復興の話が住宅の再建から始まるとすれば、その前に置かれるのがこの工程だ。
日本を含む各国の支援がどこに向かうかは、これから決まっていく。テントや食料と並んで、機械と燃料が話題に上るかどうか。そこが一つの見どころになる。
土曜日、ザイトゥーンの現場では最後の一体が運び出された。 同じ作業を待っている場所が、ガザにはまだいくつも残っている。
まとめ
- ガザ市ザイトゥーン地区で、2023年11月に壊れた家のがれきから55人分の遺体が回収された。マラカ家の人びとと、避難で身を寄せていた人たちである
- 作業がここまで遅れた直接の理由は重機の不足。掘削機やブルドーザー、それを動かす燃料が入ってこない
- がれきの下にはまだ数千人規模がいるとされる。停戦後の復興は、住宅再建の前にがれき撤去という長い工程を抱えている
出典・参考
- Gaza teams recover remains of 55 people nearly 3 years after Israeli strike — Al Jazeera / Yahoo News Canada(2026年9月5日)
- 55 bodies, remains of Malka family recovered from rubble in Gaza's Zeytoun — Middle East Eye(2026年9月5日)
- Rescue teams recover remains of 55 Palestinians from destroyed home in Gaza — WAFA(2026年9月5日)
- Recovery of 55 martyrs from the Malaka family in Al-Zaytoun — Al-Quds(2026年9月5日)



