「今のところ計画はない」
Axiosが9月11日に報じたところによると、皇太子が電話をかけたのは木曜日のことだ。フーシ派がイエメン南西部の要衝を制圧し、バブ・エル・マンデブ海峡に手が届く位置まで前進した直後だった。
米当局者は、フーシ派に対して直接的な軍事行動を取る計画は現時点でないという立場を繰り返している。ただし何もしないわけではない。
米国はサウジアラビアに対し、フーシ派に関する情報と標的データを提供する方針だという。すでに約200人の米軍要員がサウジ国内に入り、戦闘を伴わない支援にあたっている。
同じ木曜日、中央軍司令官のブラッド・クーパー海軍大将がサウジアラビアへ飛んだ。緊急の調整協議のためである。
断りながら、深く関与する
この構図は分かりにくい。爆撃はしない、けれど標的情報は渡す。部隊は置くが、撃つのはサウジ側だ。
米国の側から見れば、これは新しい選択ではない。中東で自国の兵士が死ぬ絵を避けながら、同盟国の作戦を成立させる。イエメンでの空爆は2015年以降、何度も繰り返されてきたが、戦況を決定づけたことはない。
一方でサウジ側から見ると、話は切実である。バブ・エル・マンデブは同国の原油輸出が通る通り道であり、紅海側の港湾都市はミサイルの射程に入っている。
皇太子が一日に二度も電話をかけたという事実そのものが、リヤドの焦りの度合いを示している。
原油価格はその日のうちに動いた
木曜日、フーシ派が沿岸の要衝を押さえたというニュースが流れると、原油価格は上昇した。
市場が反応したのは戦闘の激しさではなく、地図である。バブ・エル・マンデブはホルムズ海峡と並ぶ海上の細い場所で、ここが不安定になるとスエズ運河経由の航路全体が揺らぐ。
日本にとっては、原油そのものよりも輸送コストの側で効いてくる。欧州向けのコンテナ船が喜望峰回りに切り替われば、航海日数は10日前後伸びる。その分の燃料費と用船料は、最終的に商品の値札に乗る。
2024年の紅海危機のときも、同じ経路で日用品の輸入価格が押し上げられた。今回はそれが、産油国の輸出港のすぐ隣で起きている。
「同盟国の要請」が通らない
ここで注目したいのは、断られたという事実のほうである。
サウジアラビアは米国にとって、中東における最重要のパートナーのひとつだ。その最高実力者が緊急に求めた軍事行動が、二度続けて退けられた。
背景には、米国内で中東への新たな軍事関与を嫌う空気が強まっていることがある。トランプ政権は在任中、イエメン、イラン、ガザをめぐって繰り返し「関与の縮小」を掲げてきた。
同時に、米軍の戦力配分が西半球に寄っていることも無関係ではない。カリブ海での作戦に部隊と艦艇が張り付いている状況で、紅海に新しい戦線を開く余裕は乏しい。
結果として、湾岸諸国は「米国が来ない前提」で自国の安全保障を組み立て直す必要に迫られる。それは中東の勢力図が静かに書き換わるということでもある。
日本の商社と海運が見ている場所
日本の海運各社は、紅海航路の運航可否を週単位で判断している。バブ・エル・マンデブの通航リスクが上がれば、迂回の判断はほぼ自動的に下される。
問題は、迂回が長期化したときだ。喜望峰回りが常態化すると、船腹が不足して運賃全体が押し上げられる。輸入に頼る食品や日用品の価格は、そこから2〜3か月遅れて動く。
米国が動かないという判断は、遠い外交の話に見えて、日本の店頭価格に届くまでの距離はそれほど長くない。
まとめ
- サウジアラビアのムハンマド皇太子は木曜日にトランプ大統領へ二度電話し、フーシ派への空爆を求めたが、大統領は二度とも断った
- 米国は直接介入を避けつつ、情報と標的データの提供、約200人の要員派遣、中央軍司令官の訪問という形で関与を続けている
- バブ・エル・マンデブ海峡の不安定化は原油価格と海上運賃の両方に効き、日本の輸入コストには数か月遅れで届く
出典・参考
- Saudi crown prince urged Trump to strike Houthis amid Red Sea threat(Axios)
- Trump declines Saudi crown prince's call for US strikes on Houthis(Yahoo News)
- Trump declines Saudi's MbS call for US strikes on Houthis(The New Arab)
- Donald Trump declines Saudi crown prince's call for US strikes on Houthis(The Jerusalem Post)



