「西アフリカより悪くなる」
アフリカ疾病予防管理センター(アフリカCDC)の事務局長、ジャン・カセヤ氏は繰り返し警告を発してきた。
「この流行を近いうちに止められなければ、西アフリカと東部コンゴで起きたものより悪くなる」
比較対象として挙げられている西アフリカの流行は、1万1000人以上が亡くなった史上最悪の事例である。カセヤ氏はまた、感染した可能性がありながら追跡できていない人が数万人規模で存在するとも述べている。
9月9日には新たに99人の感染と39人の死亡が報告された。内訳はイトゥリ州で47人、北キブ州で46人、オー・ウエレ州で4人である。震源地のイトゥリ州だけで累計5508人が感染し、2501人が亡くなった。
ワクチンが効かない型
エボラウイルスには複数の型がある。世界に流通している2種類のワクチンは、いずれもザイール型を対象に開発されたものだ。
今回流行しているのはブンディブギョ型(BDBV)で、この型に対して承認された予防手段も治療手段もない。動物実験で部分的な有効性を示した報告はあるが、人への使用が認められている段階ではない。
2018年から2020年にかけての東部コンゴの流行では、ザイール型向けのワクチンを大量に投入することで封じ込めに成功した。その最も強力な道具が、今回は最初から手元にない。
国境なき医師団は1700人を超えるスタッフをイトゥリ、北キブ、南キブ、オー・ウエレ、チョポの各州に投入している。それでも8月初旬の時点で、記録上もっとも速く拡大した流行になっていた。
追跡が追いついていない
数字のなかで最も重い意味を持つのは、死者数ではないかもしれない。
イトゥリ州の新規感染者のうち、8割以上が既知の感染者とのつながりを特定できていない。誰からうつったのか分からない患者が、大半を占めているということである。
さらに、死者の6割以上が治療センターではなく地域社会のなかで亡くなっている。医療機関にたどり着けないまま自宅で亡くなり、その葬儀でまた感染が広がるという循環が生まれる。
カセヤ氏は流行拡大の要因として、発見の遅れ、紛争、地域の初動の遅さを挙げている。東部コンゴは武装勢力の活動が続く地域で、医療チームが安全に入れない場所が残っている。
国際社会の対応が薄い理由
この流行の速さと規模に比べて、国際的な報道量も支援の動きも小さい。
ひとつの理由は、2020年代に入ってから公衆衛生の国際予算が縮小していることである。米国を含む主要ドナーが感染症対策の拠出を絞り、緊急時に動かせる資金の余地が減っている。
もうひとつは、ワクチンがないという事実そのものだ。打つ手が明確な流行には資源が集まりやすく、そうでない流行は「見守る」形になりやすい。
ただし、感染症の広がり方に国境は関係ない。周辺国への波及が起きれば、渡航者を通じた域外への持ち込みは現実的な想定になる。日本の検疫所も、コンゴ民主共和国からの入国者に対する健康監視をすでに実施している。
いま確認できること
現時点で、日本国内での感染例は報告されていない。
外務省は該当地域に対する渡航情報を出しており、業務渡航を計画している場合は最新の水準を確認する必要がある。エボラは空気感染せず、体液との接触で伝播するため、通常の渡航で感染するリスクは高くない。
とはいえ、致死率が高くワクチンのない型が、追跡不能の状態で4か月広がり続けている。この事実の重さは、日本での感染例の有無とは別に測るべきものだろう。
まとめ
- コンゴ民主共和国のエボラ流行は9月10日時点で死者3349人に達し、6つ目の州へ拡大した
- 流行しているブンディブギョ型には承認されたワクチンも治療薬もなく、過去の流行で有効だった手段が使えない
- イトゥリ州の新規感染者の8割以上が感染経路不明で、死者の6割以上が治療センターの外で亡くなっている
出典・参考
- Ebola outbreak in DR Congo could become worst in history, Africa CDC warns(Al Jazeera)
- Ebola outbreak has spread to new province in Congo, the head of Africa CDC says(PBS News)
- Africa CDC chief says 'no magical solution' for intensifying deadly Ebola outbreak(CIDRAP)
- Ebola Outbreak: Current Situation(US CDC)



