その日から在留資格が消える
規則案が最終化された場合、対象となる労働者は、資格に該当する雇用が終了した時点で原則として米国を出国しなければならない。ほかに合法的に滞在できる根拠がある場合を除く、という条件がついている。
現行制度では、雇用終了から60日間、または在留許可の残存期間のいずれか短いほうまで、米国内にとどまることが認められている。この期間内に新しい雇用主がビザを申請すれば、出国せずに働き続けられる。
その60日がなくなると、解雇通知を受けた日が、そのまま出国期限を数え始める日になる。
DHSは意見公募を11月10日まで受け付けている。案件番号はUSCIS-2026-0364で、連邦規則制定ポータルを通じて提出する形式だ。
2017年より前に戻す
この猶予期間は、もともと恒久的な制度ではなかった。
2016年にDHSが規則として整備し、2017年初頭に発効したものである。それ以前は、雇用が終わった瞬間に在留資格を失うという扱いだった。
つまり今回の提案は、新しい制限を課すというより、9年前の状態へ戻す性格を持つ。DHS側の説明もその線に沿っている。
ただし、この9年間で米国の労働市場と移民労働者の構成は変わった。テック企業の大規模な人員削減が繰り返され、H-1B保持者が予告なく職を失う場面は珍しくなくなっている。
同じ制度でも、置かれる環境が違えば効き方が違う。
エンジニアだけの話ではない
H-1Bという言葉から連想されるのはインド出身のソフトウェアエンジニアかもしれないが、今回の対象範囲はもっと広い。
L-1は企業内転勤者のビザで、日本企業が本社から米国法人へ社員を送るときによく使われる。E-1・E-2は通商条約に基づくもので、日本は条約締結国である。日系企業の駐在員や、その配偶者・子どもが該当する。
O-1は卓越した能力を持つ人向け、TNはカナダ・メキシコの専門職向けだ。研究者、医師、会計士、デザイナーが含まれる。
扶養家族も対象に入っている点は見落とされやすい。主たる資格保持者が職を失えば、配偶者と子どもの在留資格も同時に切れることになる。学期の途中で子どもの就学が終わる、という事態が起こりうる。
企業側に生じる負担
この変更は、雇用する側にも効いてくる。
米国拠点で外国人を雇っている企業は、解雇の意思決定と入国管理の手続きを同じタイムラインで扱う必要が出てくる。整理解雇のプロセス設計が、実質的に複雑になる。
採用の側でも影響がある。転職候補者が「今の職を辞めた瞬間に出国」というリスクを抱えるなら、内定から入社までの空白を許容できなくなる。移籍の摩擦が上がれば、企業間の人材の流動性は下がる。
日系企業の米国法人にとっては、駐在員の帰任スケジュールと現地採用の設計を見直す論点になる。規則案の段階なので確定ではないが、意見公募が終わる11月以降の動きは追う価値がある。
いま取れる行動
対象となる可能性がある人にとって、確実なのは情報の更新である。
規則案はまだ最終化されていない。意見公募期間中に多数の反対意見が集まれば、内容が修正される余地は残っている。過去にも公示後に大幅に変更された移民規則はある。
現行の60日猶予は、廃止が確定するまで有効だ。ただし、いま転職や退職を検討している場合は、制度が変わる前提での計画も並行して持っておくほうが安全だという指摘もある。
雇用主のスポンサーシップに依存した在留資格は、雇用と生活が同じ一本の糸でつながっている。その糸が細くなるかもしれない、という話である。
まとめ
- DHSは9月10日、H-1B・L-1・O-1・TN・E各種とその扶養家族から解雇後60日の猶予を廃止する規則案を公示した
- 最終化されれば雇用終了と同時に在留根拠が失われ、2017年より前の状態に戻る
- 日系企業が多用するL-1・E-2も対象で、駐在員の配偶者や子どもの在留資格にも波及する
出典・参考
- DHS Proposes to Eliminate the 60-Day Grace Period for H-1B, L-1, O-1, E, and TN Workers(Reddy Neumann Brown PC)
- USCIS Publishes Proposal to Eliminate Discretionary 60-Day Grace Period(Envoy Global)
- NewsFlash! DHS Proposes Eliminating 60-Day Grace Period for Certain Nonimmigrant Workers(Murthy Law Firm)
- DHS Moves to Eliminate the 60-Day H-1B Grace Period(Berardi Immigration Law)



