イランの「草案」が言っていること
草案の骨子は3点だ。
まず、米国とイスラエルの船はホルムズ海峡を一切通れない。 次に、イランに損害を与えたと認定された国の船は、補償が完了するまで通行を認めない。そして、違反した船には積み荷の価値の20パーセントを罰則として科す。
補償の対象が誰で、金額がいくらかは定められていない。 判定はイランが下す、ということになる。
「草案」という言葉は柔らかく聞こえるが、内容は「通行禁止と罰金の組み合わせ」だ。イランが審判を兼ねる形で、世界の原油輸送の要衝を管理する構造になっている。
この文書はまだ最高指導者ハメネイ師の承認を得ていない。承認されれば正式な法的根拠になる。
ホルムズ海峡が閉じて何日目か
今年の2月28日、米軍とイスラエル軍の合同作戦「エピック・フューリー」が始まった日、ホルムズ海峡は事実上の閉鎖状態に入った。
通常、1日あたり73隻の船が通過するこの海峡を、8月2日に通過したのは2隻だった。 封鎖から数えると、記事公開時点で158日目になる。
世界の原油海上貿易の約20パーセントがこの海峡を通る。 日本の原油輸入の9割超は中東依存だ。そのうち大半がこの海峡を通過してくる。閉鎖が続く間、代替ルートのコストが日本の輸入エネルギーコストに上乗せされ続けている。
「最後のチャンス」が届かない理由
8月に入って、トランプ米大統領は「交渉のラストチャンス」という言葉を何度か使った。 8月2日には計画していたイランへの攻撃を取り消し、「合意の枠組みは出来つつある」と語った。
一方でイランは、「交渉の代表団を派遣する予定はない」と公式に否定した。 外務省報道官のエスマイル・バガエイ氏は「直接交渉のスケジュールは存在しない」と述べた。オマーン経由の間接交渉は続いているとされるが、直接対話の実現は見えていない。
原油市場は、この齟齬を正確に読んでいる。 「合意が近い」というシグナルが出るたびに値下がりし、「草案が厳しい」「攻撃があるかもしれない」というシグナルが出るたびに跳ね上がる。8月5日から6日にかけての動きは、その典型だ。
日本のガソリン代につながる話
草案が承認されたとして、日本への影響はどうなるか。
日本は米国でもイスラエルでもない。一見、通行禁止の直接対象ではない。 だが草案の2条件目が問題だ。「イランに損害を与えたと認定された国」という要件は、制裁参加国や対イラン武器供与国が対象になり得る。日本はイランへの制裁に同調してきた歴史がある。
加えて、保険問題がある。 ホルムズを通る船の積み荷に20パーセントの罰則リスクが加われば、保険会社はプレミアムを引き上げる。日本の石油輸入コストは、たとえ「通行が認められた」状態でも上昇する。
レギュラーガソリン1リットルの価格は、8月第1週で全国平均174円台に上昇した。 今後の原油高が加わればさらに上がる可能性がある。
「草案」の次に来るもの
この文書がハメネイ師に承認されるかどうかは、まだ分からない。 交渉のカードとして使う目的であれば、承認せずに「草案」として置き続けることも選択肢だ。
市場は草案の存在だけで動いた。 承認されたとき、あるいはさらに厳しい内容に改訂されたとき、相場は再び跳ねる。
財務省の貿易統計では、2026年上半期の原油輸入額は前年同期比で42パーセント増だった。 その数字は、ガソリンスタンドの看板価格より6カ月先に事態を教えている。
ソース:
- Oil prices jump after Iran publishes restrictive draft plan for Strait of Hormuz — CNBC(2026年8月6日)
- Oil Extends Gains as Iran Strikes Targets in Strait of Hormuz — Bloomberg(2026年8月6日)
- Iran rejects Trump's claim that talks will restart — Washington Post(2026年8月2日)
- Strait of Hormuz Closed, Day 158 — Straits Live
