フーシ派が「サウジを封鎖する」と宣言した日
7月の声明でフーシ派はこう言った。「サウジアラビア関連の全船舶を封鎖対象にする」。
これはホルムズとは別の封鎖宣言だ。
ホルムズはイランが実質的に管理している。紅海はフーシ派が拠点とするイエメン沖を通る。2つの海峡が同時に機能不全を起こすと、中東からの石油輸出ルートは選択肢が消え始める。
今回のタンカー攻撃は、フーシ派がその宣言を実行に移したものだ。7月の声明から約1ヶ月、フーシ派はすでに複数回の攻撃実績を積み上げていた。
フーシ派とイランの「使い方」
フーシ派はイランから武器・資金・訓練を受けてきた組織だ。しかし完全な代理ではない。
フーシ派は「パレスチナ支持」を掲げて2023年末から紅海の商船を攻撃し、独自の国際的な存在感を作り上げた。イランの指示を待たずに動くことがある。
今回のサウジへの封鎖宣言も、フーシ派主導の動きとみられている。イランにとって都合が良い結果になるが、イランが指示したとは限らない。「プロキシ」と呼ばれる組織が、いつも本体の意向通りに動くわけではない。
2本のルートが同時に詰まる
これまで中東の石油リスクの議論は「ホルムズか、スエズか」という2択で行われてきた。
ホルムズが使えなければ、アフリカ南端の喜望峰を迂回する。スエズが使えなければ、タンカーは紅海を通る。どちらかが使えれば、もう一方は代替になれた。
しかし今は、ホルムズがイランに、紅海がフーシ派に、それぞれ別の理由で圧迫されている。喜望峰経由は距離が長く、輸送コストが跳ね上がる。特に大型タンカーには喜望峰ルートが物理的・経済的に割に合わない場合がある。
英海運大手クラークソンのデータによると、紅海経由のコンテナ輸送は2026年の初頭に比べて40%以上減少した状態が続いている。
日本への波及経路
日本はサウジアラビアから輸入原油の約30%を調達している。
サウジが自国タンカーへの攻撃に対してどう応答するか。輸出量を絞れば、日本の調達先は代替を探さなければならない。
原油価格は8月25日時点でWTI79ドル前後で推移している。昨年のピーク(126ドル)からは下がったが、低下はホルムズ停戦交渉への期待を織り込んでいる部分が大きい。その期待が崩れると、価格は再び動く。
日本はサウジ以外にも調達先を分散してきたが、紅海経由の輸送コスト上昇自体は分散で解決できない問題だ。どの産地から買っても、最終的にはこのルートを使う可能性がある。
保険と輸送費が先に動く
タンカーが攻撃された直後、海上保険の保険料が動いた。
紅海を経由する船舶の戦争リスク保険料は、2023年末の攻撃再開以降で数倍に跳ね上がっており、今回のサウジ籍タンカー攻撃でさらに上がる見通しだ。保険料が上がれば運賃に転嫁され、最終的に輸入品の価格に届く。
コンテナ船会社の一部はすでに紅海ルートを避け、喜望峰経由に固定している。輸送日数は通常の15〜20日から40日前後に延び、在庫管理と発注計画のサイクルが変わっている。「ちょうど必要な時に届く」サプライチェーンの前提が崩れつつある。
外交が追いつかない速度
フーシ派との交渉窓口は実質的にオマーンだけが持っている。米国は2024年末にフーシ派をテロ組織に再指定しており、直接交渉できない。
サウジアラビアはイエメン内戦での直接軍事介入を2023年に停止した。フーシ派と水面下の交渉を続けているとも言われているが、今回のタンカー攻撃後に公式コメントは出ていない。
海が燃えている間、外交は遅い。そしてタンカーは燃えた後も、次の目的地へ向かわなければならない。
まとめ
- フーシ派が7月に「サウジ関連全船舶の封鎖」を宣言し、8月24日にサウジ籍タンカーへの攻撃を実行した。これはホルムズとは別の封鎖宣言の実行だ
- ホルムズ(イラン)と紅海(フーシ派)が同時に圧迫されると、喜望峰迂回しかなくなり輸送コストが大幅に上昇する
- 日本の原油調達の30%を占めるサウジアラビアのタンカーが標的になる状況は、代替調達と価格上昇の両方で日本の家計に届いてくる
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