「一滴も出さない」という線
レザイの警告は具体的だった。
「周辺国が経済戦争で米国に協力するなら、ホルムズ海峡から一滴の油も出さない」。石油が通る他のルートも標的にすると付け加えた。
名指しは避けたが、念頭にあるのは湾岸の産油国だ。サウジアラビア、UAE、カタール。米国の同盟国であり、イランの隣人でもある。
バブ・エル・マンデブ海峡のような迂回路にも言及した。ホルムズを避けて紅海側へ抜ける道も塞ぐ、という趣旨だ。
月曜に来る「最も壊滅的な作戦」
このタイミングは偶然ではない。
トランプ大統領は、週明けにイランへの「史上最も壊滅的な経済作戦」を発表すると予告している。ベセント財務長官は各国にこう迫った。「われわれに付くか、敵に回るかだ」。
この言葉が最も強く向けられているのは中国だ。イラン産原油の8割超を買っているのは中国である。
中国が米国側に付けば、イランの外貨収入はほぼ途絶える。付かなければ、制裁の効果は大きく削がれる。
レザイの「敵とみなす」宣言は、この構図への先回りと読める。米国が各国を勧誘する前に、参加の値段を吊り上げておく動きだ。
3段階のシナリオ
レザイは報復の手順にも触れた。整理すると次のようになる。
- 第1段階: まず対話。経済戦争に加わらないよう各国と交渉する
- 第2段階: 応じない国には、その国の利益を狙う
- 第3段階: 石油輸送路の封鎖。ホルムズに加え、他の輸出ルートも対象にする
オランダのクリンゲンダール研究所のハミドレザ・アジジ氏は、この発言に新しいドクトリンの輪郭を見る。
脅威を先に潰す「先制」と、受けた打撃より大きく返す「不均衡報復」。アジジ氏は「もう一段のエスカレーションへの準備だ」と分析している(アルジャジーラ、8月23日付)。
数字で見る
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| ホルムズ海峡が担う世界の石油・ガス輸出 | 約5分の1 |
| イラン産原油に占める中国の購入割合 | 8割超 |
| 米国の新制裁発表 | 8月24日(月)予定 |
| 世界の石油在庫(IEA) | 約40年ぶりの低水準 |
ホルムズはすでに封鎖状態にある。IEAは今月、世界の石油在庫が約40年ぶりの低水準にあると警告した。
在庫の薄い市場に、新しい供給不安が重なる。価格が動きやすい条件がそろっている。
強気の裏のイラン経済
言葉の強さとは裏腹に、イラン経済は苦しい。
米海軍はイランの港湾を事実上封鎖しており、貿易は細っている。通貨リアルの下落と物価高で、市民生活への圧力は増している。
それでもペゼシュキアン大統領は「イランは世界を驚かせる抵抗の力になった」と語った。「ベネズエラのように崩れる」という米国側の見立てへの反論だ。
譲歩が先か、封鎖の長期化に耐えるのか。専門家の間でも見方は割れている。
日本のガソリンにつながる道
日本の原油輸入は9割超を中東に頼っている。ホルムズの緊張は、遠い国の話では終わらない。
- 原油調達: 中東依存度が9割超の日本にとって、迂回路の確保には限界がある
- 価格: 在庫が薄い今の市場では、供給不安のニュースだけで先物が動く。ガソリンや電気料金への波及も想定される
- 備蓄: 日本には国家備蓄と民間備蓄がある。短期の混乱をしのぐ備えはあるが、長期化すれば話は別だ
- 外交: 日本はイランと対話チャネルを保ってきた。「どちらに付くか」の圧力は、いずれ日本にも向かいうる
次に見るもの
焦点は3つある。
- ①週明けに発表される米制裁の中身。金融か、海運か、二次制裁の範囲はどこまでか
- ②中国の対応。イラン産原油の購入を続けるかどうかで、制裁の実効性が決まる
- ③湾岸諸国の動き。サウジとUAEが米国側に立てば、レザイの警告が試される
「経済のDデー」と呼ばれ始めた週明けが、中東の秋の入り口を決める。
ソース:
- Iran warns of retaliation against countries joining US 'economic war' — Al Jazeera(2026年8月22日)
- Can Iran retaliate against countries that join US 'economic war'? — Al Jazeera(2026年8月23日)
- US-Iran war latest: Iran's hardline new security chief issues stark threat to Gulf states — CNN(2026年8月23日)
- Iran warns neighbors against joining US 'economic war' after Trump threat — The Hill(2026年8月22日)



