「85隻が6隻」になった海峡
9月10日時点のデータが、複数のメディアで公開されている。
平常時のホルムズ海峡は1日あたり約85隻の商業船舶が通過していた。今は6隻だ。約7%である。
タンカーの戦争リスク保険料は危機前の40倍に高騰した。それでも通れる船を探すと6隻しかない、ということだ。
ブレント原油の価格は105ドルを超えている。日本エネルギー経済研究所の試算では、100ドルを超えた状態が続くと日本の経常収支は年間で数兆円単位で悪化する。
「日本の家庭に届き始めた」
日本は原油輸入の91%をホルムズ海峡依存国から調達してきた。サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェートをはじめとする7カ国だ。
封鎖が始まった後、日本の対応について三菱UFJ銀行の調査部が試算を出した。石油確保は早ければ2026年春から秋にかけて下振れ圧力が出始め、ナフサやアルミニウム、窒素化合物などの不足が顕在化してくる、というものだった。
実際、4月の原油総輸入量は前年比で約64%減少した。LNGは95%減、尿素は83%減、メタノールは80%減、アンモニアは75%減という数字も出ている。
電力は今のところ石炭で補っているが、IEA(国際エネルギー機関)は9月初旬、世界の石炭消費量が過去最高水準に戻りつつあると報告した。ホルムズ海峡の混乱が石炭需要を押し上げているという構図だ。
ガソリンの話をすれば、全国平均は170円前後で張りついている。補助金がなければもっと高い。補助金自体が予算を食い始めており、どこかで縮小されれば価格は跳ね上がる。
イランが「閉めたまま」の理由
イランは「MoUが完全に履行されなければ、海峡は閉まったままだ」という立場を崩していない。
MoUとは6月14日に仲介者が発表した覚書のことだ。米国とイランがウクライナ危機と連動するかたちで交渉した停戦の枠組みで、60日以内に正式停戦に到達することを目指していた。
しかし7月、イランは「MoUの条件を無視してルートを迂回した」として3隻の商業船を攻撃した。その後、覚書は事実上の死文化が進んだ。
米国との関係において、イランは交渉を完全に打ち切ったわけではない。しかし「停戦の条件が整っていない」という主張を続けることで、海峡を交渉のカードとして保持している。
LNGとナフサ:電力と化学の連鎖
エネルギー危機は電力だけではない。
LNGはそもそも中東産が大きなシェアを占めており、特にカタール産は日本の都市ガスと発電に深く組み込まれている。それが95%減という異常な値になっている。
ナフサはプラスチックや繊維の原料だ。石化産業の川上にある。入荷が滞れば下流の製造業まで連鎖する。
「電気代が上がる」「ガソリンが高くなる」という話は見えやすいが、その裏側では包装材の値段が上がり、建材が上がり、農業資材が上がる。手に届くまでに時間がかかるので「まだ大丈夫」に見える段階でも、波は確かに来ている。
「お高くつく」どころでは済まないかもしれない。
今後の分岐点
海峡が再び開くとしたら、それはイランが納得する何かが動いたときだ。具体的には、イスラエルとレバノンの停戦、または米国からの制裁緩和を含む本格的な外交合意のどちらかが現実的なシナリオとしてある。
どちらも現時点では遠い。
日本政府が代替調達を進めていることは事実だ。西アフリカやノルウェー、カナダなどからの調達を増やすため、すでに交渉が始まっている。ただし代替は完全ではなく、輸送コストは高くつく。
秋冬の需要期が重なれば、価格への圧力はさらに強まる。
家計に届く「請求書」は、まだ全額が出されていない。
まとめ
- ホルムズ海峡封鎖から約3ヶ月が経過し、通過船舶は平常時の7%にとどまっている。原油価格は105ドルを超え、日本の原油輸入は4月比で前年比64%減を記録した
- 電力はLNG不足を石炭で補っているが、LNG・ナフサ・アンモニアなど幅広い素材の調達不足が製造業まで波及し始めている。ガソリン補助金の縮小があれば価格は一段と上がる
- イランは「MoUが履行されるまで閉鎖継続」の立場を維持しており、海峡再開には米国・イスラエル・イランの三角形で何かが動く必要がある






