ドイツが欧州で一番死んでいる
ロベルト・コッホ研究所(RKI)の集計では、ドイツ国内だけで4月以降の超過死亡数が1万2000人に達した。欧州の主要国で最多だ。
スペイン、フランス、英国、スイス、オランダの政府機関・研究機関のデータを合わせると、熱が原因または一因とされる死者は2万5000人を超えたと、Bloombergが8月6日に報じた。
なぜドイツがもっとも多いのか。
ドイツは夏のエアコン普及率が低い。欧州全体の住宅用空調普及率は約19%で、日本の91%、米国の90%とは桁が違う。「ここは地中海ではない」という文化的な前提が、設備投資を数十年遅らせてきた。
「異常」という言葉が使えなくなった
「今年は記録を更新した」は、過去5年で毎年繰り返されている。
ドイツ気象庁(DWD)の主任研究員はこう表現した。「去年の夏が例外だった、そう言い続けられる年数が終わった」。
かつては「50年に1度」「100年に1度」と呼ばれた熱波が、今は「4〜5年に1度」のペースで来ている。研究者たちはこのギャップをどう表現するか、まだ言葉を探している。
誰が死んでいるのか
超過死亡の大半は65歳以上だ。
ドイツでは農村部や旧東独地域の高齢者の独居率が高い。熱中症の初期症状を一人で気づくのは難しく、気づいても自力で対処できない状態になっていることが多い。
フランスは2003年のパリ大熱波(推計1万5000人超が死亡)の後、地域の「高齢者見守りネットワーク」を整備した。あの夏の記憶を持つ人々は今も語り継いでいる。しかし今年の熱波では、そのシステムがある地域でも対応しきれなかった例が出た。
冷房が割に合わない。電気代が高い。設置工事の待ち時間が長い。そうした理由で、高齢者が猛暑の部屋に居続けた結果が数字に出ている。
「適応」に毎年12兆円かかる
欧州委員会は昨年、熱波・洪水・干ばつへの適応コストとして年間700億ユーロ、日本円でおよそ12兆円が必要だと試算した。
この数字を聞いた欧州議会の議員は「防衛費の議論と似ている」と言ったという。まだ起きていない将来のリスクへの巨額の先払い、という意味では確かに構造が重なる。
問題は、この支出が「損失の回避」であって、「何かが増える」投資ではないことだ。選挙のたびに問われる政治家にとって、こうした予算は通しにくい。
日本の夏との接点
欧州の熱波は直接、日本の生活を変えない。
ただ、ドイツの食品産業が熱波で生産能力を落とし、フランスのブドウが煙にさらされてワインの品質が落ちれば、輸入品の価格に出てくる可能性がある。農産物は気候変動の最初の「翻訳者」になる。
そして日本の夏も似た方向に向かっている。2025年の東京の熱帯夜日数は観測史上最多だった。欧州の話は「他所の話」ではなく、5〜10年後の日本が直面する問題の予告編かもしれない。
エアコン普及率が高いから日本は大丈夫、ではない。その電力をどこから調達するかという問題が、次に来る。
「慣れ」が一番怖い
毎年「記録更新」が続くと、人は慣れる。
気象当局が「危険な暑さ」と呼んでも、昨年も同じことを言っていた、という感覚が生まれる。この「警告疲れ」が、対策を遅らせる要因のひとつになっているとも言われている。欧州も日本も、命に直結する警告の出し方を見直す段階に来ている。気温だけでなく、「湿度」「夜間」「孤立した高齢者の数」を合わせた指標を出す自治体も増えてきた。年ごとに「去年より少し暑い」を重ねていくうちに、人間の感覚はいつの間にかその温度を「普通」と呼ぶようになる。それが一番怖い。
まとめ
- 2026年の欧州熱波では2万5000人以上が死亡し、ドイツが単独で1万2000人の超過死亡を出した。エアコン普及率19%という設備格差が、被害を拡大させた
- 「50年に1度」の熱波が4〜5年に1度のペースになりつつあり、「異常」という言葉が機能しなくなっている
- 欧州の適応コストは年12兆円と試算されるが、政治的に通しにくい「損失回避型」支出であり、日本も同様の問題に直面する
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