「他の標的を狙えばいい」
トランプ氏がこの発言をしたのは、アイルランド西部ドゥーンベグにある自身のゴルフ場だった。日曜日のことである。
「ゼレンスキー氏がやるべきことがひとつある。ロシアで軽油を叩き落とすのをやめることだ」
そう述べたうえで、こう続けた。
「他の標的を狙えばいい。ただし軽油はだめだ。彼は軽油の不足を引き起こしている」
戦場の作戦指示としてではなく、需給の話として語られているのが目を引く。大統領が口にした「不足」の先には、アメリカの運送業者と農家がいる。
製油所が前線になった
ウクライナはこの数カ月、ロシア国内の製油所と石油関連施設への長距離攻撃を積み重ねてきた。クラスノダール地方やタタルスタン共和国の施設が標的になったと伝えられている。
ロシア国内では燃料の供給制限が各地で出た。七月には政府が軽油の輸出を止めている。国内に回す分を確保するためだ。
ウクライナ政府は、製油所は軍を動かす燃料をつくる施設であり、正当な軍事目標だという立場を崩していない。ロシアの石油産業は侵攻の資金源であり、同時に燃料そのものの供給源でもある、という説明である。
ただ、ロシアの精製能力が落ちると、世界の軽油は品薄に振れる。ロシア産の軽油は欧州向けこそ細っているが、第三国を経由して回る分がある。そこが詰まれば、玉を取り合う相手はアメリカや中東の精製業者になる。
六ドル六セントの重さ
軽油の値段は、ガソリンとは効き方が違う。
トラック、鉄道、農機、建設機械、そして寒冷地の暖房。動かすものが産業側に寄っているぶん、上がった分は運賃と原価に乗って、最後に棚の値札へ回ってくる。
アメリカでは軽油の指標価格が一ガロン六ドル六セントをつけ、過去最高を更新したと報じられた。二〇二二年の混乱期を上回る水準である。
トランプ氏の発言には、国内の物価に対する政治的な配慮も読み取れる。ただ、値段の動き自体は発言の意図とは別に起きている。
止めれば、下がるのか
もっとも、ウクライナが製油所攻撃をやめれば軽油が下がると決まったわけではない。
いま石油製品に上向きの圧力をかけている要因は、製油所攻撃だけではない。ホルムズ海峡、サウジアラビアの東西パイプライン、バブエルマンデブ海峡と、中東側の供給経路も同時に細っている。
逆に言えば、ウクライナにとって製油所攻撃は数少ない戦略的な打撃手段でもある。前線で押し返す力に限りがあるなかで、後方の燃料をやせさせる手を放すのは容易ではない。
ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は、ロシア、ウクライナ、アメリカによる協議の可能性について「そうした可能性を排除しない。見通せる範囲の将来の話だ」と述べている。糸口は残っている、という言い方である。
日本の給油所との距離
日本の軽油価格は国際的な指標に連動しつつ、補助制度である程度は押さえられている。
ただ、押さえられているのは小売の表示であって、原価そのものではない。運送や建設のように燃料費が原価に直結する業種では、見積もりの立てにくさが続く。
九月に入ってから、レギュラーガソリンの全国平均は一リットル百七十円前後で横ばいが続いている。補助の支給単価が縮めば、その線は動く。
ウクライナの無人機が飛ぶかどうかは、日本の冬の暖房費とも、まったく無関係というわけではない。
まとめ
- トランプ大統領がアイルランドのゴルフ場で、ゼレンスキー大統領にロシアの製油所への攻撃をやめるよう求めた。「他の標的を狙えばいい。ただし軽油はだめだ」と述べている
- 背景にはアメリカの軽油が一ガロン六ドル六セントの過去最高を更新したことがある。軽油は運賃と原価を通じて物価全体に回りやすい
- ただ攻撃が止まれば下がるとは限らない。中東側の供給経路も同時に細っており、ウクライナ側にとっては数少ない後方打撃の手段でもある
出典・参考
- Trump Demands Ukraine Halt Refinery Strikes as Diesel Surges — Bloomberg(2026年9月13日)
- Trump calls on Ukraine to halt strikes on Russian diesel, saying attacks are causing a shortage — PBS News(2026年9月13日)
- Trump tells Zelenskyy to stop targeting Russian diesel refineries — Fox News(2026年9月13日)
- Trump Issues Warning to Zelensky Over Strikes on Russia — Newsweek(2026年9月13日)
- 石油製品価格調査 調査の結果 — 資源エネルギー庁



