島は逃げ道が細い
火が出たのは土曜日である。乾いた森と低木を焼きながら、およそ三千五百ヘクタールに広がったと伝えられている。
風は西のミルナ方面へ向いていた。ミルナは入り江の奥にある小さな港町で、夏の終わりまで観光客が残る場所だ。
島の道路は、山を越える細い一本に集約されやすい。火がその道にかかると、車での脱出は一気に難しくなる。
そのとき残る方向は海である。
「危険な状況にある人がいる」
海上救難調整センター・リエカと、スプリット港長事務所が動いたのは、土曜夜の九時五十六分だった。
島の西側に危険な状況の人がいるという通報を受けての判断である。子ども、高齢者、自力での移動が難しい人を含め、最初の見積もりでおよそ二百人が対象とされた。
投入された船は雑多だった。港長事務所の救助艇四隻、海上・空港警察の船三隻、沿岸警備隊の艦艇一隻と小型艇二隻。深夜零時を過ぎてクロアチア軍の艦艇「オミシュ」と高速艇二隻が加わった。
そこに民間のタグボート二隻、水先案内艇二隻、観光船二隻、そして数えきれない数の個人所有のボートが並んだ。
結果として、港長事務所の船が百八十五人を運び、観光船が日曜の午前四時までに五百人を運んだ。山岳救助隊の艇と、スプリット・ダルマチア郡の救急隊も現場に入っている。
観光船が主力になった夜
数字を並べ替えると、この夜の救助のかなりの部分を担ったのは、公的な救助艇ではなく観光船だったことが見えてくる。
夏の島には、遊覧やシャトルのための船が常に係留されている。定員があり、桟橋に慣れた乗員がいて、すぐ出せる。
災害時に使える資源が、平時の観光インフラとして先に存在していた形だ。もっとも、これは偶然に頼った面もある。季節が二カ月ずれていれば、港にいる船の数は違っていただろう。
消火の側では、二百二十人を超える消防隊員と六十九台の車両が夜を通して対応し、朝になってカナデア四機が空から水を落とした。
地中海の夏が長くなっている
南欧の山火事は、近年その季節が後ろへ伸びている。
九月半ばは、かつては火災シーズンの終わりに近い時期だった。それでも今回のように、強風と乾燥が重なれば大規模化する。観光客が残っている時期と重なる分、避難対象の人数も読みにくい。
一方で、今回の対応は人的被害の報告が出ていない段階で完了しつつある。夜間の海上避難としては、機能した部類に入るという見方もできる。
日本の島しょ部にとっても、他人事とは言いにくい。逃げ道が一本しかない地形で、海から出す準備がどれだけあるか。ブラチ島の一夜は、その問いをそのままの形で見せている。
まとめ
- クロアチアのブラチ島で山火事が拡大し、およそ七百人が真夜中に船で島外へ避難した。焼失面積は約三千五百ヘクタールと伝えられている
- 避難は海上救難調整センター・リエカとスプリット港長事務所が主導したが、実際に人数を運んだ主力は観光船と個人のボートだった
- 消火には二百二十人超の消防隊員と六十九台の車両、朝にはカナデア四機が投入された。人的被害の報告は現時点で出ていない
出典・参考
- Around 700 people evacuated by sea due to major wildfire on Brač island — Croatia Week(2026年9月13日)
- Wildfire forces evacuation of more than 200 on Croatian island of Brac — Xinhua(2026年9月13日)
- Nearly 700 evacuated from Croatia's Brač island due to fire — UA.NEWS / DW(2026年9月13日)
- Croatia Island Wildfire Forces Evacuation — News Central TV(2026年9月13日)



