「サウジの船だけは通さない」
フーシ派の軍事報道官ヤヒヤ・サリーは十一日夜、通航の扱いについて言葉を残している。
「海上航行はすべての企業にとって安全だ。すでに禁止されているサウジの船を除いては」
この一文は、封鎖の宣言ではない。むしろ「選別する権限が自分たちにある」という通告に近い読み方ができる。誰を通し、誰を止めるかを決める側に回った、という主張である。
海運会社にとっては、安全の保証が交戦当事者の口約束に依存する状態になる。保険料の算定は、その約束をどこまで信じるかで変わってくる。
一日前にはモカ港が落ちていた
ペリム島の掌握は、単発の出来事ではない。
その前日、フーシ派は紅海沿岸の港湾都市モカを制圧している。沿岸の拠点を押さえ、翌日に海峡中央の島へ渡るという順番だった。
イエメン政府軍側の撤退が続いた背景には、補給と士気の問題があるとみられる。ただし現地からの情報は限られており、撤退の経緯についてはまだ確定的なことが言いにくい。
いずれにせよ、地図の上では紅海の入口が一つの勢力に囲まれた形になった。
両側から挟まれるアラビア半島
視点を引いて見ると、もう一つの海峡が見えてくる。
アラビア半島の東側にはホルムズ海峡があり、イランによって事実上閉ざされている。西側にはバブエルマンデブがあり、こちらはイランと連携するフーシ派の支配下に入った。
湾岸の産油国は、東西どちらの出口も自力では確保できない状態に置かれている。九月十日から十一日にかけてサウジの東西パイプラインが無人機攻撃を受けたのは、その内陸の迂回路まで塞ぎにいく動きだった。
三つの経路が同時に細っている。偶然が三度重なったと見るのは、やや無理があるかもしれない。
喜望峰を回ると十日増える
海運各社の判断は、すでに一部で分かれている。
紅海を避けてアフリカ南端の喜望峰を回る場合、アジアと欧州の間の航海日数はおおむね十日前後増えるとされる。燃料費と傭船料が上がり、船腹の回転が落ちる。
日本にとっては、欧州向けの輸出と欧州からの輸入の双方でリードタイムが延びる。自動車部品や機械のように在庫を薄く持つ品目ほど、影響が出るのが早い。
一方で、二〇二四年以降の紅海回避をすでに織り込んでいる荷主も多い。今回の島の掌握が新たな運賃上昇につながるかどうかは、フーシ派が実際に何隻を止めるかを見てからでないと判断しにくい面がある。
誰も海峡を取り返しに行っていない
もう一つ気になるのは、奪還の動きが見えないことだ。
紅海には各国の海軍が展開してきたが、島そのものを地上戦で取り返すという話は今のところ出ていない。海上の護衛と、陸の支配は別の問題である。
イエメン政府軍を支えてきたサウジは、自国のインフラへの攻撃対応で手一杯になっている。米国はイランとの直接対峙を抱えている。
小さな岩の島が誰の手にあるかは、地図の上ではごく小さな変化に見える。ただしその島の左右を通る船の運賃は、世界中の棚に並ぶものの値段に少しずつ乗っていく。
まとめ
- フーシ派が九月十一日、バブエルマンデブ海峡を二分するペリム島に到達した。前日にはモカ港を制圧しており、海峡の両岸と中央を押さえた形になっている
- 軍事報道官のヤヒヤ・サリーは「サウジの船を除いて航行は安全だ」と述べた。封鎖の宣言というより、通航の可否を決める立場に回ったという主張に近い
- ホルムズ海峡の閉鎖、サウジ東西パイプラインの停止と合わせ、アラビア半島の東西と内陸の三経路が同時に細っている。喜望峰回りの増加は運賃と納期に跳ね返る可能性がある
出典・参考
- Houthis seize key Yemeni island in Bab el-Mandeb, taking control of the strait — Euronews(2026年9月12日)
- Houthis reportedly advance to key Red Sea island, further threatening crucial oil choke point — CNBC(2026年9月11日)
- Iranian allies captured a strategic Red Sea island in a vital waterway — CNN(2026年9月10日)
- Houthis Seize Strategic Perim Island and Tighten Grip on Red Sea Shipping — Time News(2026年9月)



