敵味方が入れ替わっている
この構図が分かりにくいのは、二年前と組み合わせが違うからだ。
二〇二〇年からの戦争では、エリトリアはエチオピア連邦政府の側に立ち、TPLFと戦っていた。北から南下する形でティグライに入り、住民への深刻な加害が国際的に報告された経緯がある。
その両者が今、連邦政府に対して同じ側に立っているという見方が出ている。TPLFは内部で分裂しており、どの派閥がどこまでエリトリアと通じているかは外から確認しにくい。
紅海への出口をめぐる対立が背景にあるという分析もある。内陸国となったエチオピアが港湾へのアクセスを求め、エリトリアがそれを自国の主権への脅威と受け取る構図だ。
「一つの動きで一気に転がる」
国際危機グループは、この状況を火薬庫と表現している。
同グループの分析は、メケレもアスマラも全面戦争を望んではいないだろうという前提に立つ。ただしアディスアベバとの緊張が高いまま続けば、どこかの側の突発的な行動が高速で連鎖する危険が残るとしている。
アフリカ・センターも同様に、地域紛争に発展する危険を指摘した。ヒューマン・ライツ・ウォッチは九月九日、ティグライの緊張の高まりがアフリカ連合の調停能力を試していると警告している。
いずれも、まだ起きていないことについての警告だ。しかし前回の戦争では、警告が出てから全面化するまでの時間は長くなかった。
プレトリア合意が守れていない部分
二〇二二年の合意は、戦闘の停止という点では機能した。
一方で、履行が滞っている項目は残っている。西ティグライの帰属、避難民の帰還、TPLFの武装解除の進め方、そして選挙の実施時期。どれも当事者の利害が正面からぶつかる論点である。
アフリカ連合が主導した枠組みだが、監視と執行の仕組みは強いとは言いにくい。合意の当事者にエリトリアが含まれていなかったことも、いま効いている。
紙に書かれた停戦は、書かれていない部分から崩れる。
干ばつと人道支援の細り
軍事とは別の時計も動いている。
ティグライを含むエチオピア北部は、戦後の復興が途上のまま食料不安を抱えている。援助機関の予算は世界的に絞られており、スーダンやイエメンなど他の危機との取り合いになっている。
戦闘が再開すれば、支援の到達はさらに悪くなる。前回の戦争では、封鎖による食料と医薬品の遮断そのものが大量の死につながったと指摘されてきた。
住民にとっては、砲撃が始まる前から生活が細っているという状態だ。
日本から見えにくい理由
この地域の話題が日本で扱われる機会は多くない。
ただしエチオピアは人口一億三千万人規模で、アフリカ有数の経済圏でもある。紅海に面するエリトリアとジブチは、バブエルマンデブ海峡の北側に位置する。
その海峡は今、イエメンのフーシ派がペリム島まで押さえた状態にある。紅海の両側で同時に不安定さが増せば、スエズ運河を通る海運への影響は重なっていく。
遠い内陸の州の戦車が、船の運賃と無関係でいられる保証はない。
まとめ
- エチオピア北部ティグライで八月から戦闘が再開し、無人機攻撃と民間人被害が報告されている。エリトリア軍が国境を越えて関与したとされ、二〇二二年のプレトリア合意が揺らいでいる
- 二〇二〇年の戦争と異なり、エリトリアとTPLFが連邦政府に対して同じ側に立つ構図が指摘されている。国際危機グループやヒューマン・ライツ・ウォッチは地域紛争への発展を警告した
- 西ティグライの帰属や武装解除など合意の未履行部分が残り、監視と執行の仕組みは弱い。紅海の反対側でも不安定化が進んでおり、海運への影響が重なる可能性がある
出典・参考
- Ethiopia, Eritrea and Tigray: A Powder Keg in the Horn of Africa — International Crisis Group
- Renewed Tensions Between Ethiopia and Tigray Threaten to Draw in the Wider Region — The Soufan Center(2026年8月21日)
- Rising Tensions in Tigray Risk Regional Conflict — Africa Center for Strategic Studies
- Conflict is rising in Ethiopia's Tigray region: 5 steps that could stop a return to full-scale war — The Conversation



