「数ミリ」が意味すること
パクシュ原発はハンガリーの電力の約50%を供給する。
ドナウ川からの冷却水なしに原子炉は動かせない。 欧州規模の熱波と干ばつでこの川が記録的な低水位になったとき、原発は選択肢を失った。
深夜1時半に水位がわずかに回復し、その晩の危機は去った。 だが翌日も翌々日も、水位は「ギリギリ」を繰り返した。
「数ミリの差」というのは比喩ではない。 冷却水の取水口がどれだけ水面に近いかの、文字通りの数字だ。
隣国のルーマニアは、制御爆破で川床を掘り直して冷却水を確保した。 スロベニアのクルシュコ原発は、サバ川の水温と水量が下限に近づいたとして出力を80%に落とした。 クルシュコはクロアチアにも電力を供給しており、両国がこの一基に依存している。
8月初旬の時点で、英国・ハンガリー・ルーマニアの3カ国の原発が影響を受けた。
欧州の熱波がどれほど人を殺したか
今年6月末から7月にかけての「超過死亡」は、EuroMOMOの集計でEU全域の1万人を超えた。
超過死亡とは、例年の同時期と比べた「余分な死者数」だ。 熱中症と診断された死亡だけではなく、心臓発作や腎不全など、暑さが引き金になったと疑われる死亡全体を含む。
6月22〜28日の1週間で、27カ国合計の超過死亡が1万人を超えた。 フランスの通信社AFPはこの1週間だけで少なくとも1万2千人が死亡したと分析している。
高齢者が特に脆弱で、イタリアでは80歳以上の超過死亡が例年比の3倍を超えた地域がある。 欧州のエアコン普及率は20%前後にとどまり、熱波に対する住宅の構造的な脆弱さが被害を拡大している。
1万2千人という数字は、東京ドームを1.5回満たす人数だ。 それが1週間で死んだ。
「燃えている地図」が毎日書き換えられる
欧州山火事情報システム(EFFIS)によると、EU全体の今年の焼失面積は8月6日時点で49万9千ヘクタールを超えた。 昨年同日の37万9千ヘクタールを大きく上回る。
49万9千ヘクタールは、北海道の面積の約6割に相当する。 それが今年の夏だけで燃えた。
スペインのアルメリア州では、1ヶ所の火災で14人が命を落とした。 フランスのジロンド県では、地中から第二次大戦中の不発弾が発見され、消火活動が一時中断した。 ギリシャでは首都アテネ近郊の西アッティカと、クレタ島で大規模火災が同時に続いている。
オーストリアは8月5日に国内最高気温41.2度を記録した。 前日のウィーンは41.0度だった。 イタリアは主要27都市のうち25市に最高水準の熱中症警戒情報を出した。
電力網が綱渡りになっている理由
「燃えているから暑い。暑いから電力を食う。電力を食うから発電所に負荷がかかる。負荷がかかった発電所が川の水位低下で止まりかける」。
この連鎖は火力発電所でも起きている。 多くの火力発電所も川の水で冷却しており、水温が高すぎると排出規制に引っかかる。
「夏が来るたびに、これが繰り返される」とウィーンのエネルギーアナリスト、アンナ・ライトナーは言った。 「問題は今年に限らず、来年も再来年も同じ構造が続く」
パクシュ原発が「数ミリの差」で止まりかけた翌朝、ブダペストの気温は34度だった。 冷房をかけなければ、老人は死ぬ。 電気が止まれば、冷房もかけられない。
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