「複数の大型案件が消えた」夜
クリシュナは7月14日のレターに、こう書いた。
「複数の大型案件が予定のタイミングでクローズできず、それが今四半期の大半のミスの原因になった。我々は適応が十分速くなかった」。
Q2の売上高は171.6億ドル(約2.4兆円)で、市場予想の173.2億ドルをわずか1.6億ドル下回った。
差の絶対額は小さいが、インフラ部門の売上が前年比7%減少した。 なかでもIBM Zメインフレーム関連の収入は42%落ちた。 当初の見通しに対してこれほど大きくずれると、「想定外」では済まなくなる。
企業のIT設備投資が「優先順位の組み替え」に入っており、大型のメインフレーム更新が後ろ倒しになったというのが会社側の説明だ。 早い話が、腰が重くなっているのだ。
Zは死んでいるのか、止まっているのか
42%減という数字は衝撃的だが、補足が1つある。
IBMが今年展開している新世代メインフレーム「z17」は、前世代「z16」と比べてプログラム対プログラムで130%のペースで受注が進んでいる。 クリシュナはそう投資家に伝えている。
つまり構造は2通りに読める。「大型商談が3ヶ月ずれただけで、そのうち戻ってくる」という読みと、「AIクラウドへの移行でメインフレーム需要そのものが消えつつある」という読みだ。 クリシュナは前者の立場を取るが、市場は後者を疑い続けている。
IBM Zは銀行・保険・行政の基幹システムの中核を担う。 日本でも大手金融機関の勘定系システムにIBM Zが使われている。 「AI投資を増やすためにメインフレーム更新を1〜2年先送りする」という意思決定は、現実的な選択肢として浮上しやすい環境だ。
これが本当に「タイミングの問題」なら、Q3の決算に大型案件が戻ってくる。 戻ってこなければ、話はまた変わる。
アナリストの中には株価目標を375ドルと見る強気の向きもいる一方、現在の236ドル前後はそこから見て「底打ちを確認した程度」という立ち位置だ。
「証券詐欺」という別の焦点
7月27日、暴落から2週間後に最初の法律事務所が動いた。
ブライヒマー・フォンティ&オールド法律事務所(BFA Law)は同日、「IBMが投資家に対しIBM Z製品の見通しを虚偽または誤解を招く形で伝えた可能性がある」として証券詐欺の調査を開始すると発表した。 ヘーゲンス・バーマン(Hagens Berman)、スーウォールスト(SueWallSt)が続き、8月21日時点でBFA Lawの調査は「継続中」のままだ。
焦点は1つの問いに収束する。IBMは大型案件が失速しつつあることを事前に把握しながら、投資家には楽観的な見通しを示し続けたのかどうか。
クリシュナはQ2発表後のアナリスト向けコールで「z17の受注は順調だ」と語っている。 しかし同時に「この失速への対応が十分速くなかった」とも言った。 この2文がどう整合するかを、3つの法律事務所は掘り下げようとしている。
集団訴訟に発展するか却下されるかは今後数ヶ月かかる判断だ。ただし調査が続く間、それが株価に別の重みを乗せることは変わらない。
底値から15%戻した根拠
底値の201.6ドルから、株価は8月中旬に233〜236ドルまで戻した。
戻りを支えているのは主に3つの柱だ。
ソフトウェア収入が前年比5%増と、AI競争の中でも安定して伸びている。 Red Hatが11%成長を維持しており、クラウドネイティブの需要を着実に取り込んでいる。 そしてクリシュナが主張する「AIはIBMの既存ソフトを壊さない」という論理が、とりあえず市場に受け入れられている。
CNBCのインタビューで彼はこう言い切った。 「我々のソフトウェアのうち、AIに置き換えられるのは2%に過ぎない。ハイブリッドクラウドの世界では、AIはアプリケーションを動かすものになる」。
この主張が正しければ、IBMのソフトウェアビジネスは競合AIツールに食われない。 正しくなければ、今の株価もまだ高すぎる、ということになる。
| 株価(USD) | |
|---|---|
| 7月14日(暴落前日) | 約305 |
| 7月14日(暴落当日終値) | 約227 |
| 底値(7月14日) | 201.60 |
| 8月中旬の水準 | 233〜236 |
| 底値からの回復 | 約+15% |
| 暴落前からの乖離 | 約-23% |
通年の売上高成長率見通しも、従来の「5%超」から「4〜5%」へと引き下げられた。 数字としての差は小さいようで、ガイダンスとしての意味は大きい。
次の答えは10月
クリシュナはレターにこう書いた。 「この四半期の結果で終わったことを、深く申し訳なく思っている」。
Q3の決算は10月の予定だ。 「ずれていた大型案件が戻ってきた」という数字が出れば、株価の議論も証券調査の議論もトーンが変わる。 戻っていなければ、「capexの組み替え」は言い訳だったと確定する。
「複数の大型案件が消えた」夜から40日、次の答えは10月に出る。
ソース:
- Arvind Krishna's Letter to IBM Investors — IBM Newsroom(2026-07-14)
- IBM Stock Recovery: Bouncing From $201 Toward 50 EMA — TradingKey(2026-07-29)
- IBM Ongoing Investigation — BFA Law / GlobeNewswire(2026-08-21)
- Resilient IBM stock holds in the mid-$230s — Ad-Hoc-News(2026-08)
- IBM's Krishna tries to reassure investors that AI won't disrupt company's software unit — CNBC(2026-07-23)


