1期目の決算は「税金の話」ではなく「信用の話」だ
決算を「いくら税金を払うか決める作業」だと捉えていると、判断がすべて後手に回る。
1期目の決算書には、これから数年ぶんの選択肢がぶら下がっている。金融機関は創業融資の2回目以降を、創業計画書ではなく決算書で審査する。取引先が与信を取るときに見るのも、官報や信用調査会社を経由した決算数値だ。
つまり1期目の決算は、社外に対して自社を説明する最初の公式文書になる。
差がつくのは決算日の当日ではない。その3ヶ月前から動いていたかどうかだ。
設立1周年でやるべき12のこと(一覧)
先に全体を出しておく。詳細はこのあと分野ごとに解説する。
| # | やること | 期限の目安 |
|---|---|---|
| 1 | 着地見込みを出し、決算対策を判断する | 決算日の3ヶ月前 |
| 2 | 概算の納税額を別口座に確保する | 決算日の3ヶ月前 |
| 3 | 消費税の課税・免税と簡易課税の選択を決める | 適用したい課税期間の前日まで |
| 4 | 棚卸と残高の実査を行う | 決算日 |
| 5 | 法人税・地方税・消費税を申告し納付する | 決算日の翌日から2ヶ月以内 |
| 6 | 赤字でも法人住民税の均等割を納める | 同上 |
| 7 | 青色申告を継続し、欠損金の繰越を切らさない | 毎期(連続して申告) |
| 8 | 役員報酬を改定する | 期首から3ヶ月を経過する日まで |
| 9 | 定時株主総会を開き、決算公告を行う | 事業年度終了後3ヶ月以内が目安 |
| 10 | 役員任期と登記事項のズレを点検する | 変更から2週間以内 |
| 11 | 労働保険の年度更新と算定基礎届を提出する | 6月1日〜7月10日/7月1日〜7月10日 |
| 12 | 決算書を持って金融機関に決算報告をする | 申告後すみやかに |
決算日の3ヶ月前から動く──設立1周年タイムライン
まず全体像を押さえたい。決算日を起点に、前後6ヶ月で何が起きるかを1本の線に並べるとこうなる。
このうち、後からリカバリーできないものが3つある。
簡易課税の選択届出、役員報酬の改定、そして申告期限だ。順番に見ていく。
【税務】初回決算・申告でやるべき4つのこと
1. 申告と納付の期限は「決算日の翌日から2ヶ月以内」
法人税の申告期限は、事業年度終了の日の翌日から2ヶ月以内。3月31日決算なら5月31日が期限になる。
法人事業税・法人住民税といった地方税、そして消費税も、原則として同じ2ヶ月後だ。
見落としがちなのは、これが申告だけでなく納付の期限でもあること。申告書を出しても、現金が用意できていなければ延滞税がつく。
なお、定款の定めなどにより決算日から2ヶ月以内に定時株主総会が招集されない常況にある場合は、申請によって申告期限を1ヶ月延長できる。ただし延長できるのは申告であって納付ではない。延長期間中の利子税は別途かかる。
2. 赤字でも法人住民税の均等割は発生する
1期目が赤字だったから納税はゼロ、と考えるのは危険だ。
法人住民税の均等割は所得ではなく資本金と従業員数で決まるので、赤字でも払う。東京23区で資本金1,000万円以下・従業者50人以下なら、都道府県分2万円と市区町村分5万円で年間7万円が最低ラインになる。
金額としては小さい。ただ、1期目の期末に現金が数万円しかない状態は珍しくない。「税金はゼロのはず」と思い込んでいると、この7万円で資金繰りが詰まる。
3. 青色申告を切らさず、赤字を10年繰り越す
青色申告書を提出した事業年度に生じた欠損金は、10年間繰り越して将来の所得と相殺できる。資本金1億円以下の中小法人なら、所得の100%まで控除できる。
条件は、欠損金が生じた事業年度に青色申告書を提出していること。そして、その後も連続して確定申告書を提出していることだ。
1期目の赤字は、多くのスタートアップにとって最大の含み資産になる。ここで申告を1年でも飛ばすと、繰越が使えなくなる。
4. 納税資金を別口座に寄せておく
1期目が黒字だった場合、法人税等の納付は決算日から2ヶ月後に一括でやってくる。
売上が伸びている会社ほど、決算日時点の現金は仕入や人件費に回っている。「利益は出ているのに納税できない」は、1期目でいちばんよく聞く失敗だ。
決算3ヶ月前に着地見込みを出し、概算の納税額を別口座に移しておく。それだけで防げる。
【消費税】2期目に課税されるかは、1期目の前半6ヶ月で決まっていた
ここがいちばん誤解されている。
新設法人は基準期間(前々事業年度)がないため、原則として1期目は消費税の納税義務が免除される。ただし事業年度開始の日の資本金が1,000万円以上だと、この免除は使えない。大規模な法人に支配されている「特定新規設立法人」に当たる場合も同様だ。
問題は2期目だ。2期目は「特定期間」で判定される。特定期間とは、原則として前事業年度開始の日以後6ヶ月の期間、つまり1期目の前半6ヶ月を指す。
この6ヶ月の課税売上高が1,000万円を超えると、原則として2期目から課税事業者になる。
給与等支払額でも判定できる
ここが実務で効く。特定期間の1,000万円判定は、課税売上高に代えて給与等支払額の合計で行うこともできる。どちらの基準を使うかは納税者の任意だ。
つまり、前半6ヶ月の売上が1,000万円を超えていても、同じ期間の給与等支払額が1,000万円以下なら、2期目も免税事業者でいられる。
役員報酬を前半に抑えるか、賞与の支給時期を後半にずらすかで結果が変わる。これは1期目のうちにしか打てない手だ。
なお令和6年10月1日以後に開始する課税期間からは、国外事業者について給与等支払額による判定ができなくなっている。
インボイスの2割特例は2026年9月30日で終わる
免税事業者だった小規模事業者が、インボイス登録のために課税事業者になった場合の負担軽減措置が「2割特例」だ。売上にかかる消費税の2割を納めればよい、というもので、事前の届出は不要、申告書に付記するだけで使えた。
この特例の適用対象は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間。つまり2026年9月30日を含む課税期間が最後になる。
適用が切れたあと、法人が取れる選択肢は2つしかない。
| 選択肢 | 計算方法 | 向いているケース | 手続き |
|---|---|---|---|
| 本則課税 | 売上の消費税 − 仕入の消費税 | 設備投資が大きい/課税仕入が多い | 届出不要 |
| 簡易課税 | 売上の消費税 × みなし仕入率 | 仕入が少ないサービス業・情報通信業 | 適用したい課税期間の前日までに届出 |
なお2割特例の後継として、小規模な個人事業者を対象とする軽減措置が令和8年度税制改正で議論されている。法人が使えるかどうかは現時点で確定していないため、2026年内は本則課税と簡易課税の2択で組み立てておくのが安全だ。
注意すべきは簡易課税の届出期限だ。原則として、適用を受けたい課税期間が始まる日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を出す必要がある。期が始まってから気づいても、その期には間に合わない。
2割特例をなんとなく使ってきた法人ほど、この届出を意識してこなかったはずだ。設立1周年のタイミングで、自社の課税期間がいつ終わるかを必ず確認しておきたい。
【役員報酬】改定できるのは期首から3ヶ月以内
役員報酬を損金に落とすには、原則として「定期同額給与」である必要がある。毎月同額を支給する、という要件だ。
そして改定が認められるのは、事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3ヶ月を経過する日まで。
期の途中で「今期は儲かりそうだから役員報酬を上げよう」とやると、増額分は損金にならない。逆に業績が悪化したから下げる、というのも、原則としては認められない。
この3ヶ月の窓が、1年でいちばん短くて、いちばん影響の長い意思決定になる。
決めるべきことは3つある。
| 論点 | 検討すること |
|---|---|
| 金額 | 法人税と、社長個人の所得税・住民税・社会保険料の合計で最適点を探る |
| 社会保険 | 報酬を上げると会社負担分も連動して増える。手取りだけで判断しない |
| 消費税 | 2期目の免税を狙うなら、特定期間の給与等支払額1,000万円のラインを意識する |
役員報酬の設定は、法人と個人を合算した手取りの最大化と、消費税の判定と、融資審査での見え方が絡み合う。1期目の実績が出た直後、つまり2期目の期首から3ヶ月の間に、税理士と一度は数字を突き合わせておきたい。
なお、賞与を出したい場合は「事前確定届出給与」の届出が必要になる。届出期限は株主総会等の決議日から1ヶ月以内、または会計期間開始から4ヶ月以内のいずれか早い日だ。
【労務】人を雇った会社の年間カレンダー
従業員を1人でも雇った時点で、税務とは別系統の年中行事が始まる。
| 時期 | やること | 対象 |
|---|---|---|
| 6月1日〜7月10日 | 労働保険の年度更新 | 労働者を雇用する全事業所 |
| 7月1日〜7月10日 | 算定基礎届の提出 | 社会保険の適用事業所 |
| 12月 | 年末調整 | 給与を支払う全事業所 |
| 1月31日 | 法定調書・給与支払報告書の提出 | 同上 |
労働保険の年度更新は、前年度の概算保険料を実際の賃金で精算し、同時に新年度の概算保険料を申告・納付する手続き。算定基礎届は4月・5月・6月に支払った報酬をもとに、9月からの標準報酬月額を決め直すものだ。
どちらも7月10日が期限で、遅れると追徴金の対象になる。
2026年10月、社会保険の入り口が変わる
小規模法人ほど影響が大きいのが、社会保険の適用拡大だ。
これまでパート・アルバイトの社会保険加入には「月額8.8万円以上(年収106万円相当)」という賃金要件があったが、2026年10月にこれが撤廃され、原則として週の所定労働時間20時間以上の従業員が加入対象になる。企業規模要件についても2027年10月以降、段階的に引き下げられていく予定だ。
また2026年4月からは、健康保険の被扶養者認定における130万円判定が、労働契約に記載された年収見込みを基準とする方式に変わる。
短時間スタッフを複数抱えている会社は、2期目の人件費計画を組む段階で、会社負担分の社会保険料を織り込んでおいたほうがいい。
【法務・登記】1周年に確認しておく3点
決算公告
株式会社は、定時株主総会の終結後に貸借対照表(大会社は損益計算書も)を公告する義務がある。官報、日刊新聞紙、または自社サイトへの電子公告から選ぶ。
小規模法人では実施していないケースが多いのが実態だが、義務であることは変わらない。自社サイトに掲載する電子公告なら、コストはほぼゼロで済む。
役員任期
非公開会社であれば、取締役の任期は定款で最長10年まで延ばせる。設立時に2年としていれば、2年ごとに重任登記が必要になる。
登記を怠ると、会社法976条により代表者個人が100万円以下の過料に処せられる可能性がある。実務上は数万円程度で収まることが多いが、過料には時効の考え方が適用されないとされ、何年前の懈怠でも対象になり得る。
さらに、12年以上なんの登記もない株式会社は、登記官の職権で「みなし解散」の登記をされる場合がある。
登記事項の変更
本店移転、商号変更、目的の追加、役員の住所変更。いずれも変更から2週間以内に登記する必要がある。
1年経つとオフィスを移していることも多い。1周年は登記簿を1回取り寄せて、実態とのズレを確認するいい機会になる。
【資金】1期目の決算書は、次の融資の申込書になる
創業融資の1回目は、実績がないので創業計画書で審査される。
2回目以降は違う。求められるのは直近1〜2期分の決算書と確定申告書で、決算から6ヶ月以上経っていれば最新の試算表も必要になる。創業計画書や企業概要書は不要になるかわりに、決算という事実で判断される。
追加融資を検討するなら、前回の融資から半年以上が経過し、返済を遅れなく続けていることが前提になる。そのうえで1期を終えていることが望ましい、とされる。
つまり設立1周年は、資金調達の選択肢が一段広がるタイミングでもある。
準備しておくとよいのは次の3点だ。
- 直近の試算表を毎月締めて、いつでも出せる状態にしておく
- 「なぜ今この資金が必要か」「その投資がどう利益を生むか」を数字で説明できるようにする
- メインバンク以外に、信用金庫など地域金融機関との接点を1つ作っておく
決算書を提出して終わりにせず、決算報告として金融機関に持参する。それだけで2期目以降の交渉の入口が変わる。
1年目にやりがちな失敗
最後に、1周年前後で判断を誤りやすい論点を挙げておく。
節税商品に順番を間違えて飛びつく
利益が出そうだとわかると、決算前に保険や共済の話が持ち込まれる。
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は掛金を損金にできるが、解約手当金が全額戻るのは加入40ヶ月以上から。それ未満で解約すると元本割れする。
さらに2024年10月1日以後に解約して再加入した場合、解約の日から2年を経過する日までの掛金は損金に算入できなくなった。「解約して利益を出し、すぐ再加入して損金を作る」という使い方が封じられている。
節税より先に、納税資金の確保と運転資金の厚みを優先したい。
少額減価償却資産の特例を期末に思い出す
青色申告の中小企業者等は、取得価額30万円未満の減価償却資産を、年間合計300万円まで全額損金にできる特例がある。ただし適用期限は令和8年(2026年)3月31日までの取得分とされており、この記事の執筆時点ですでにその日付を過ぎている。
令和8年度税制改正大綱では期限の延長と、上限を40万円未満に引き上げる方針が示されている。使うつもりなら、自社の取得日にどの条件が適用されるかを申告時に必ず確認したい。
注意点は「取得して事業の用に供した」ことが要件であること。決算日直前に発注しただけでは使えない。使うなら決算日の1ヶ月以上前に判断する。
決算日を「なんとなく3月」にしたまま放置する
決算月は変更できる。繁忙期と決算作業が重なっているなら、2期目のうちに動かす選択肢がある。
決算月の変更は消費税の課税期間にも影響するため、2割特例や免税期間の扱いが変わる。ただしこれは節税目的だけで動かすと後で扱いづらくなるので、業務の実態に合わせるのが本筋だ。
まとめ──1周年は「振り返り」ではなく「締切」
設立1周年を、会社の記念日として捉えている経営者は多い。
しかし制度の側から見ると、1周年前後の3ヶ月は締切の束だ。役員報酬の3ヶ月、簡易課税の届出の前日まで、申告納付の2ヶ月。どれも過ぎたら次の1年は動かせない。
そして2026年は、2割特例の終了と社会保険の適用拡大が重なる。1期目を終える法人にとっては、判断すべきことが例年より1つ多い年になる。
あなたの会社の決算日は、いつだろうか。そこから3ヶ月前の日付を、いまカレンダーに入れられるだろうか。
出典(2026年8月時点)
- 国税庁 タックスアンサー No.6501「納税義務の免除」
- 国税庁 タックスアンサー No.6503「基準期間がない法人の納税義務の免除の特例」
- 国税庁 タックスアンサー No.5211「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」
- 国税庁 タックスアンサー No.5762「青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」
- 国税庁 タックスアンサー No.5408「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」
- 国税庁「2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要」
- 厚生労働省「労働保険の年度更新」/日本年金機構「算定基礎届」
- 中小機構「経営セーフティ共済」
- 法務省「役員の変更の登記を忘れていませんか?」
- 日本政策金融公庫 各種融資制度の案内
この記事は制度の全体像を整理したものであり、個別の税務判断を保証するものではない。金額や期限は必ず最新の公式情報を確認し、適用の可否は顧問税理士・社会保険労務士に相談してほしい。

