創風とは何か──20兆円戦略の「入口」に置かれた新制度
IP360は、日本のマンガ・アニメ・ゲーム・音楽・映像といったコンテンツを、海外で稼げる基幹産業へ育てるための包括支援パッケージだ。政府が掲げる「コンテンツの海外展開を20兆円規模へ」という長期目標を背景に、企画の種づくりから大規模製作、流通・開発基盤、海外展開まで、9つのメニューで一気通貫に支える設計になっている。
その9メニューの先頭に置かれたのが、メニュー1「IP新規創出支援(スタートアップ支援:創風)」である。既存のヒット作を後押しするのではなく、まだ形になっていない初期段階のIPを、個人クリエイターや小規模スタジオの単位で直接支援する。いわば20兆円戦略の「入口」にあたる制度だ。
IP360全体で見ると、9メニューの第1回採択は次のような規模感になっている。創風がいかに競争率の高い「狭き門」だったかが浮かび上がる。
| メニュー | 申請 | 採択 | 倍率 |
|---|---|---|---|
| 1. IP新規創出支援(創風/スタートアップ) | 819 | 34 | 24.0倍 |
| 2. IP新規創出支援(新規IP企画) | 417 | 22 | 19.0倍 |
| 3. 大規模作品製作支援(一般) | 90 | 27 | 3.3倍 |
| 4. 大規模作品製作支援(ロケ誘致) | 4 | 1 | 4.0倍 |
| 5. 流通プラットフォーム拡大支援 | 42 | 15 | 2.8倍 |
| 6. 開発プラットフォーム構築支援 | 105 | 15 | 7.0倍 |
| 7. 海外展開支援(IPエコシステム世界展開) | 36 | 21 | 1.7倍 |
| 8. 海外展開支援(ローカライズ) | 86 | 20 | 4.3倍 |
| 9. 海外展開支援(プロモーション) | 110 | 7 | 15.7倍 |
大手が名を連ねる大規模作品製作支援(メニュー3)の倍率が3.3倍だったのに対し、無名の個人でも手を挙げられる創風は24.0倍。裾野の広さと注目度の高さが、そのまま数字に表れている。
24倍の狭き門──申請819件が語るもの
創風の第1回公募は2026年3月31日から5月13日まで。わずか1カ月半の募集期間に、819件・676者の応募が集まった。1者で複数の企画を出したケースもあるため、申請件数と申請者数にはズレがある。
採択されたのは34件・34者。採択率にすると4%あまりで、5%に届かない。
無名の個人クリエイターが、経産省の審査を通って国の支援対象になる。これまでのコンテンツ政策では珍しかったこの構図が、819という申請数の熱量を生んだと言える。
採択34組の全体像──ジャンル別の内訳
採択された34組を分野別に見ると、ゲームが15組と全体のほぼ半分を占めた。次いで音楽が9組、アニメが7組、実写が3組と続く。マンガはこの回の採択には含まれなかった。
法人だけでなく、屋号やプロジェクト名、個人名義での採択が目立つのも創風の特徴だ。株式会社や合同会社に混じって、「むつむつプロジェクト」「Rabbit Trigger」「ZAKI」といった小さな座組みが、大手と同じ土俵で採択されている。ここからは分野ごとに顔ぶれを見ていく。
ゲーム15組:ホラー・格闘・JRPG──尖った15本
最多の15組を占めたゲーム分野は、ジャンルの振れ幅が大きい。協力型の配達ホラー「ハコアタマ」(むつむつプロジェクト)、メタフィクションを取り込んだJRPGボスラッシュ(高荒大明)、対戦要素を掲げる「DEATH A LIVE」(Rabbit Trigger)など、一言では説明しづらい実験的なタイトルが並ぶ。
海外での評価を得た開発者の続編プロジェクトも見られる。忍者アクション「Ninja or Die」の系譜を継ぐ「Ninja or Die 2 Die」(Nao Games)は、その代表格だ。個人開発者から少人数スタジオまで、インディーゲームの厚みがそのまま反映された15組と言える。
| 開発者・スタジオ | 作品/事業名 |
|---|---|
| 岸 健児 | ロクジョーヒトマ 現代版リメイク開発事業 |
| 高荒 大明 | JRPGボスラッシュ×メタフィクションゲーム制作 |
| 株式会社ハンドサム | 「にんじんおうこく!」ゲーム開発事業 |
| むつむつプロジェクト | 協力型配達ホラーゲーム「ハコアタマ」 |
| 株式会社ロココ | 新作ゲーム「王子さまと妖精」 |
| 株式会社Black Beard Design Studio | 朱鴉~AKEGARASU~Journey to the Underworld |
| Cocoro Software株式会社 | PC向け新作「Spell Fragments」 |
| 株式会社Gino | 「Bless You Again」開発事業 |
| 株式会社Nao Games | Ninja or Die 2 Die |
| NERDY PENGUIN | Project PET |
| Prank Maker | Haunted Streamer |
| puqu | TETE |
| Rabbit Trigger | DEATH A LIVE |
| STUDIO909合同会社 | 「クワイエット急行909号室」 |
| ZAKI | PONKOTS |
音楽9組:越境するアーティストIP──アジアからUS/UKへ
音楽分野の9組に共通するキーワードは「海外」だ。事業名からして越境志向がはっきり読み取れる。
苺りなはむや東京電脳といったキャラクター性の強いアーティストの海外ライブ展開(合同会社弥勒)、韓国・台湾での実証公演を足がかりにUS・UKへ広げる基盤構築(HATIHATI PRO.)、ワールドツアーそのものを事業に掲げるプロジェクト(TTT)まで、国内で完結しない設計が並ぶ。実験的な音楽性で知られる長谷川白紙の海外向け映像・ライブ制作(モーメントスケール)のように、作家性の強いアーティストの世界展開を後押しする案件も採択された。
| アーティスト・法人 | 事業名 |
|---|---|
| 浜野はるき | 浜野はるきのアーティスト活動 |
| 合同会社弥勒 | 苺りなはむ・東京電脳from電音部の音楽IP創出・海外ライブ展開 |
| モーメントスケール合同会社 | 長谷川白紙 海外展開用動画・海外ライブ制作 |
| bed | 活動圏の拡張 |
| Exciter株式会社 | Rol3ert グローバルブレイクアウト事業 |
| 株式会社HATIHATI PRO. | 韓国・台湾実証公演を起点としたUS・UK展開基盤構築 |
| iVy | iVy creative project 2026 |
| PROMPTS合同会社 | 新作EP&アルバム・MV制作およびツアー |
| 株式会社TTT | TAKASE TOYA WORLD TOUR 2026-2027「INFINITY∞」 |
アニメ7組:VR・AI・短編──映像表現の実験場
アニメ分野は、7組それぞれが表現手法から攻めている点が印象的だ。VR空間での映像体験を掲げる「DreamachineVR」(Augmented State Project)、戦中・戦後の暮らしの記憶をたどる短編(佐藤美代)など、尺も届け方も従来のテレビアニメの枠に収まらない。
YouTubeを主戦場にショートアニメを量産してきたPlottの新規プロジェクトや、GRAPHENAUTの「AIRBORN ARENA」のように、配信・ゲーム的な文脈と地続きの企画も入っている。長編一本勝負ではなく、短編やシリーズ、新技術を織り交ぜた「映像表現の実験場」としての7組だ。
| スタジオ・プロジェクト | 作品名 |
|---|---|
| 佐藤 美代 | 「原っぱで」戦中・戦後の記憶をもとにした短編アニメーション |
| ダイナマイトクリエイターズ | Sparklers |
| 株式会社ノリ | モリトークンプロジェクト |
| Augmented State Project | DreamachineVR |
| 株式会社GRAPHENAUT | AIRBORN ARENA(エアボーンアリーナ) |
| 株式会社Plott | 新規ショートアニメプロジェクト |
| SUKIMAKI ANIMATION | LUNATIC PLAN(e)T part1 |
実写3組:記憶と身体をめぐる作家性
採択数こそ3組と最少だが、実写分野は作家性の濃さが際立つ。量子をモチーフにした「量子経(Quantum Sutra)」(後閑広)、自分の分身を探す物語「もうひとりのわたしを探して(仮)」(森あらた)、身体と感情の記憶をテーマにした作品(野上勝己)。
いずれも大規模なエンタメ大作というより、個人の作家が抱える問いを起点にした企画だ。商業的なヒットを狙う大規模作品製作支援(メニュー3)とは性格が異なり、初期段階の尖った表現をすくい上げる創風らしい3組と言える。
| 作家 | 作品名 |
|---|---|
| 後閑 広 | 量子経(Quantum Sutra) |
| 森 あらた | もうひとりのわたしを探して(仮) |
| 野上 勝己 | 身体の記憶・感情の記憶 |
創風が映す「日本コンテンツ×テック」の次の一手
創風の34組を並べて見えてくるのは、二つの流れだ。ひとつは、VRやAI、配信を前提とした「テック起点の表現」が当たり前に混ざっていること。もうひとつは、企画の初期段階から「海外」を織り込んだ設計が、特に音楽で顕著だったことである。
これまで国のコンテンツ支援といえば、すでに実績のある作品や大手企業が中心になりがちだった。創風はその手前、まだ何者でもない個人やプロジェクトに国が資金と後ろ盾を与える。819件という申請数は、そうした「入口」を求めていた作り手が、想像以上に多かったことを示している。
第1回で選ばれた34組が、この先どれだけ世界に届くIPへ育つのか。20兆円という目標の現実味は、この小さな34の種がどこまで芽吹くかにかかっている。あなたが次に熱中する作品は、この34組のなかから生まれるかもしれない。
出典・参考
- 経済産業省「採択結果:IP360 -Toward 20 Trillion Yen-」(2026年7月22日更新)
- 経済産業省 コンテンツ産業政策
