寄港なし200日、現代記録の洋上
リンカーンは2025年11月21日にサンディエゴを出港した。当初の帰還予定は2026年5月だった。
行き先も途中で変わった。太平洋・南シナ海方面に向かっていた艦隊は、2月28日の米・イスラエルによる対イラン攻撃を前に中東へ回された。
以来、展開日数は250日を超えた。寄港なしの連続日数は200日を超え、米空母の現代記録を更新し続けている。
ある時期には5週間、休みのない戦闘作戦が続いたと家族たちは証言する。帰還日は今も公表されていない。
「不名誉除隊になると思って怯えている」
異変を最初に詳報したのは Military Times だ(8月11日付)。乗組員の家族たちが実名で証言した。
アナベル・ロマさんの夫は、艦から飛び降りようとして保護され、医療観察下に置かれた。「彼は怯えている。不名誉除隊になると思い込んでいる」とロマさんは語る。
マリア・ロドリゲスさんの夫は、当直中に海へ飛び込もうとする同僚に遭遇した。腕をつかんで甲板に引き戻し、駆けつけた3人と一緒に押さえた。
「あんなアドレナリンは人生で感じたことがない、と夫は言っていた」。
海軍は未遂の件数を公表していない。CNN(8月13日付)は、今月に入って乗組員1人が実際に海へ転落したと報じている。
家族に届くのは、短いメールだけ
艦上の5,000人と家族をつなぐ回線は細い。家族たちが受け取るのは、途切れがちな短いメールだ。
娘が乗艦しているシェルビー・サンダースさんは言う。「メールをくれるとき、娘は明らかに落ち込んでいる」。
息子を送り出したマヌエル・ゲバラさんの言葉は、もっと直接的だ。「心配したくない。息子が家に帰ってこないことを」。
誕生日も、祝日も、帰還の日取りも、何ひとつ確定しない。その宙づりの状態が9カ月続いている。
ヘグセスは「完全に歪められた報道」と反論した
ピート・ヘグセス国防長官は8月13日、記者団に語った。「報道は完全に歪められている。我々はすべての艦、すべての乗組員に、提供できるものをすべて提供している」。
議会は納得していない。ブルメンソール上院議員の指摘は具体的だ。
「基本物資の不足、水の汚染、配管の故障、メンタルヘルスの悪化、郵便の途絶が広く報告されている」。
マーク・ケリー上院議員は海軍パイロットの出身だ。そのケリーが問題視したのは、任務の終わりが定義されていないことだった(Washington Post、8月13日付)。
いつ帰れるか分からない。それが士気を削る最大の要因だという指摘だ。
現場の司令部も対応を迫られている。水上戦部隊を率いるジョセフ・カヒル中将は「家族への影響を、我々ははっきりと聞いている」と述べた。
そのうえで、カウンセラーや聖職者の配置を強調した。
交代に来るのは「横須賀の空母」だ
交代の動きは始まっている。ただし、その中身が別の問題を生む。
リンカーンと交代するのは空母ジョージ・ワシントンだ。8月5日にベトナム寄港を終え、中東へ向かっている。
ジョージ・ワシントンは横須賀を拠点とする、米海軍唯一の前方展開空母だ。中東へ回れば、日本周辺と西太平洋から常駐空母が消える。
対イラン戦争が長引くほど、太平洋の抑止力が薄くなる。北朝鮮と中国を横目に置く日本にとって、リンカーンの疲弊は遠い海の話ではない。
「戦争を続ける力」は船と人でできている
2月に始まった対イラン戦争は、空母1隻を250日以上も洋上に縛りつけた。
米軍はこの戦争でMQ-9リーパー無人機を約45機失ったとも報じられている。保有数の4分の1にあたる(Washington Post、8月13日付)。
失われた機体の価値は13億ドルを超える。
戦争の費用は兵器の値段だけでは測れない。海に飛び込もうとした水兵の存在は、その見えない費用の一部だ。
帰還日が発表されない限り、リンカーンの5,000人は今日も同じ海の上にいる。
ソース:
- Multiple USS Abraham Lincoln sailors have tried to go overboard amid extended deployment, families say — Military Times(2026年8月11日)
- Sailor went overboard from the USS Abraham Lincoln this month as conditions prompt lawmakers' demand for answers — CNN(2026年8月13日)
- 'Completely misrepresented': Hegseth disputes reports of poor conditions aboard USS Abraham Lincoln — The Hill(2026年8月13日)
- Early Edition: August 14, 2026 — Just Security(2026年8月14日)




