「二部制」で始まる教室の現実
レバノン教育省の計画では、今年の新学期は「二部制」で運営する学校が軸になる。
午前は授業、午後は避難民を受け入れる。しかし現場はそれほど整然としていない。レバノン全土で約八十校の公立学校が避難所として機能しており、そのうち約三十校が二部制を予定している。残る九校については避難民の移送先がまだ確保できておらず、学校として再開する見通しが立っていない。
二部制でさえ、課題は積み重なる。午前に使った机や椅子を午後の別の配置に変えなければならない。体育館は避難民用に開放するため、授業には使えない。実技やスポーツの授業は不可能な状態が続く。トイレや水回りの衛生状態も、避難民との共用で管理が難しくなっている。
南部スール地区の公立学校に子どもを通わせているレイラ・ムラードは「九月から普通の学校生活が戻ると思っていた。でも実際には去年と何も変わっていない。子どもたちはもう一年以上、まともな授業を受けていない」と語った。
十万人が就学できない
ユネスコは九月十三日時点で、レバノンの子ども約十万人が学校に通えない状態にあると推計している。
南部レバノンやビカ峠などの国境付近では、イスラエル軍とヒズボラの散発的な衝突が続き、一部地域では今も帰還が難しい状況にある。昨年十一月の停戦合意後に故郷に戻ろうとした家族の一部が、インフラの破壊や不発弾の残存を理由に再び移動を余儀なくされた。
レバノン南部では五十校以上が完全破壊または深刻な損傷を受けている。修復工事が始まった学校もあるが、完成は来年以降になる見通しが多い。学校が物理的になくなったことで、近くの別の公立校への通学を強いられている子どもも少なくない。
停戦から十か月が経過しても、子どもたちの日常はまだ回復していない。
十月以降に延期された和平協議
停戦の先にある最終的な和平合意については、九月十二日に協議が十月以降に延期されたことが発表された。
仲介役の米国とフランスは当初九月末をめどに枠組みを確認しようとしていたが、ヒズボラ側の条件と、レバノン軍の南部展開をめぐるイスラエルとの調整が難航している。
国連のUNIFIL(国連レバノン暫定駐留軍)の広報担当は「現在の状況では、九月中の包括合意は現実的ではない」と述べた。
合意が遅れるほど、学校が避難所から解放される時期も先送りになる。停戦から十か月近くたって、子どもたちが段ボールの壁の向こうで暮らし続けている現実は、合意なき停戦が何をもたらすかを示している。
積み上がる「教育のロス」
レバノンでは紛争に伴う教育の中断が繰り返されてきた。
二〇〇六年のレバノン侵攻、二〇一二年以降のシリア難民の大規模流入、二〇一九年の経済崩壊、二〇二〇年のベイルート港爆発、そして二〇二四年から二〇二五年の南部侵攻。こうした出来事が重なる中で、学校教育の継続が何度も断ち切られてきた。
ユニセフの推計では、レバノン国内で何らかの形で教育の機会が損なわれた子どもは、二〇二五年末時点で九十万人を超えている。
南部ナバティエの避難民センターで生活するファリダ・ハジは「昨年も同じことを言っていた。学校が始まる、普通に戻ると。でも何も変わらなかった」と語った。
まとめ
- 九月十五日のレバノン新学期開始時点で、国内約八十校の公立学校が三十四万人以上の避難民の受け入れ場所になっており、ユネスコは約十万人の子どもが就学できない状態にあると推計している
- 二部制での再開を予定している学校が約三十校あるが、九校は再開の見通しが立たず、南部では五十校以上が損傷または破壊されたままだ
- 九月十二日に和平協議が十月以降に延期されたことが明らかになり、学校が避難所から解放される時期も見通せない状況が続いている
出典・参考
- ユネスコ「Lebanon education crisis update」(2026年9月13日)
- レバノン教育省発表(2026年9月13日)
- UNIFIL広報担当声明(2026年9月12日)
- AP通信・ロイター通信(2026年9月13〜14日)
- レイラ・ムラード(南部スール地区保護者)発言
- ファリダ・ハジ(ナバティエ避難民センター)発言



