「最も速く温暖化する大陸」の夏
欧州の今夏は記録的な暑さが続いている。
ハンガリーでは首都ブダペストの最高気温が40度を超えた日が8月に入って4日あった。同国のペーテル・マジャール首相は8月17日の閣議後に「今後最も厳しい5日間に備えるよう各省庁に指示した」と述べ、熱波対策の非常措置を発令した。
ルーマニアでも電力需要の急増と輸入コスト上昇への対応で、イリエ・ボロジャン首相が8月18日に緊急の予算措置を承認した。この夏、東欧各国の電力系統運営者は互いに電力の融通を増やしており、欧州全体の電力市場が通常より高度に連動している状態だ。
フランスのエネルギー大手エンジー(Engie)のニコラ・ゴールドバーグ最高経営責任者は8月18日のインタビューで「今夏の教訓を次の冬の準備に生かす」と述べながら、「原子力の安定供給能力は依然として欧州のエネルギー安全保障の柱だ」と強調した。ただし足元の状況については「前例のない複合的な課題が重なっている」と認めた。
熱波で「水が足りない」
原子炉を冷やすには大量の水が必要だ。
フランスの原発の多くはロワール川やローヌ川などの河川に隣接しており、冷却水をそこから取水している。熱波が続くと河川の水位が下がり、水温が上がる。
これが問題になる理由は2つある。1つは「取水量の制限」。水位が下がると物理的に取り込める水が減る。もう1つは「放水温度の制限」。原発が放出する温排水の温度は河川の生態系保護のため上限が定められており、もとの川の水温が高いと放水できる温度の許容幅が狭まる。この2つが同時に課題になるのが今夏の状況だ。
欧州委員会のエネルギー統計局は7月末時点で「フランスの原子力発電の平均稼働率は例年比18ポイント低下」という数字を公表している。例年であれば85〜90%台のはずが、今夏は70%前後にとどまっている。
その穴を埋めているのは、一部はガス火力と再生可能エネルギー、そして電力輸入だ。フランスはかつて電力輸出国だったが、今夏は一転して隣国からの輸入に頼る時間帯が増えている。
クラゲという「最後の一手」
グラヴリーヌで何が起きたかを、もう少し具体的にたどる。
海岸沿いの原発は海水を冷却水に使う。北海に面したグラヴリーヌは海水冷却方式で、取水路に大量のクラゲが流入した場合、フィルターが詰まって水量が確保できなくなるリスクがある。このため安全規程に従い、出力を絞る対応を取った。
この種の「生物由来のトラブル」は珍しいものではない。欧州各地の沿岸原発は過去にも海洋生物による取水口詰まりを経験しており、夏場に多発する傾向がある。ただし今夏はもともと複数の基が熱波対応で出力を落としている中での追加的な停止だったため、影響が大きく出た。
| 原因 | 影響基数 | 失われた設備容量(概算) |
|---|---|---|
| 河川水温上昇による冷却制限 | 7基 | 約6,500MW |
| 定期点検・補修延長 | 4基 | 約4,400MW |
| クラゲ流入(グラヴリーヌ・一時) | 5基 | 約4,500MW |
| その他 | 2基 | 約1,900MW |
再生可能エネルギーが「ない」時間に電力は届くか
今夏の欧州は、再エネの「弱点」も同時に浮き彫りにしている。
熱波のさなか、南欧は猛暑で日照は多いが風が弱い。太陽光は発電できても風力が止まる。中央・北部欧州では猛暑で電力需要が高いが、夏場は日照が長くても風が弱い日が続く傾向がある。
欧州内の電力融通は2000年代以降に大きく進んでいるが、「全土が同時に熱波に見舞われる」という状況には対応しきれていない面がある。送電線の容量にも限界があり、「隣国から買える」状況に全員がなれるわけではない。
ゴールドバーグ氏が言う「前例のない複合的な課題」の実態はそこにある。単一の問題ならば対処できる設計になっているが、熱波・水不足・生物障害が同時に起きたときの組み合わせは、既存の想定を超えている場合がある。
日本が学べる「欧州の夏」
欧州の今夏が日本にとって他人事でない理由は、似た構造的課題を抱えているからだ。
日本の原発も多くが河川または海水冷却方式を採用している。国内でも夏場の水温上昇による原発の出力制限事例は過去に複数ある。再稼働が進む国内原発のほとんどは西日本に集中しており、電力融通の観点からも東日本はまだ課題を抱えている。
今夏の欧州が示しているのは「個々の発電所の問題」ではなく「システム全体の想定外」だ。電力システムは平常時の効率に最適化されており、複数の非常事態が重なったときの余裕が薄い。
グラヴリーヌのクラゲは、電力インフラの複雑系としての脆弱性を象徴している。問題を1つ解決しても、隣に別の問題が待っているというのが今夏の欧州の実態であり、それは日本も例外ではないという見方もある。フランスが今夏経験していることは、来年以降の日本の電力政策を考える上での一つの参照点になるかもしれない。
