「縮小」という言葉が持つ意味の重さ
今回の縮小が前例と違うのは、「誰が、どのように決めたか」という点だ。
2018〜2019年にも演習規模は縮小された。金正恩北朝鮮総書記との首脳会談が実現した後、「外交環境への配慮」という名目で戦闘訓練を主とした大規模演習は事実上停止され、机上演習(コンピューターシミュレーション)に置き換えられた。
あの時は米韓が事前に調整したうえでの決定だった。今回は違う。韓国側が報道で内容を把握する前に、米国大統領がSNSで宣言した。
防衛計画の立案は複数年の積み上げで成り立つ。演習で確認・修正するのは戦時作戦の手順であり、参加する米韓双方の兵士の練度だ。これが「一晩で前提が変わる」状況に置かれると、昨年積み上げた計画の見直しが迫られる。
李大統領の「最悪」が意味するもの
李在明大統領は就任以来、自主国防と戦時作戦統制権(OPCON)の返還を一貫して主張してきた。
OPCON返還とは、有事に韓国軍を指揮する権限を米国が持っている現状を改め、韓国が自ら指揮を執る体制に移行することだ。2010年代から議論されているが、「条件が整うまで」という但し書きによって先送りされ続けている。
李大統領が「最悪のシナリオに備えよ」という言葉を閣僚に向けて発した文脈は、「在韓米軍が縮小するかもしれない」という前提でもある。自主国防の加速は、これまでの議論の延長線上にある話だが、実現には時間がかかる。
原子力潜水艦の保有や弾道ミサイルの射程延長——李政権が言及してきた選択肢——は、どれも数年から10年単位のプロジェクトだ。「最悪のシナリオに備えよ」と言っても、明日の体制が変わるわけではない。
北朝鮮の反応は「静か」だった
8月6日、北朝鮮は弾道ミサイル1発を発射した。8月に入って2発目だ。
通常、米韓合同演習の前後には北朝鮮が「反発」として発射や声明を出すことが多い。ところが今回は、規模縮小の発表後に大きな軍事的行動は確認されていない。この「静けさ」をどう読むかは難しいが、複数のアナリストは「縮小を受け入れる理由がある側がわざわざ動く必要はない」という見方をしている。
一方で韓国軍の分析機関は8月18日の発表で「北朝鮮は引き続き挑発の準備を維持している」と述べた。具体的な動きが表面化していないことは、状況が改善しているという意味ではない、という立場だ。
| 演習名 | 時期 | 2018年以降の推移 |
|---|---|---|
| キー・リゾルブ→ドンマエン | 3月 | 2019年以降停止・再開を繰り返す |
| ウルチ・フリーダム・シールド | 8月 | 2022年に大規模再開、今回縮小 |
| フリーダム・エッジ | 6月 | 日米韓3カ国、2024年初実施 |
日本の「仮定の影響」を整理する
米韓演習の縮小は、直接的に日本の防衛体制を変えるわけではない。在韓米軍の規模は変わっておらず、日米同盟の枠組みも現時点では変化していない。
ただし「変わらない」ことへの確信が揺らぐ、という影響は出ている場合がある。
日本の防衛省は「インド太平洋の抑止力は多層的に成り立っている」という立場を繰り返しているが、米韓同盟が「SNS一本で変わり得る」ことが示されれば、日米同盟の信頼性への疑問も生じやすくなる。
外務省筋は「同盟管理は常に動態的だ」と述べ、個別のコメントを避けた。防衛省も「日本への直接的な影響は現時点でない」という声明にとどめた。ただし水面下では、今年末に向けた日米協議の日程が前倒しで設定されたとの情報が複数の関係者から伝わっている。
来年の演習が「実際の答え」になる
今回の演習縮小が単発のものか、トレンドになるかを判断するには、来年の演習計画を見る必要がある。
2018〜2019年に演習を縮小した後、完全な規模に戻すまでに3年近くかかった。北朝鮮との外交が行き詰まり、核問題が再び緊張したことで、2022年に大規模演習が再開された。今回も同じパターンをたどる可能性がゼロではないという見方もある。
一方で異なる点もある。2018年当時は米朝交渉が進んでいる「外交プロセスの一環」だった。今回は外交交渉の進展が確認されないまま、突発的に縮小が決まった。背景として「駐留費用の分担問題」があるとも報じられているが、確認できる事実ではない。
李大統領が言う「最悪のシナリオ」は、在韓米軍の大幅削減あるいは撤退だ。そのシナリオが現実になるかどうかは今後の動向次第で、今の段階では「可能性の一つとして計画に織り込まれている」という状況だ。
来年のUFSが今年と同規模で行われるか、あるいはさらに縮小されるかが、朝鮮半島の安全保障をめぐる最も確かな指標の一つになるだろう。
