「制裁を解け、賠償をよこせ」
ガリバフが示した条件は3点だ。第一に米国と欧州による対イラン経済制裁の全面解除。第二に、制裁によってイランが受けた経済的損失への賠償。第三に、イランの核プログラムを標的にした攻撃の停止保証だ。
「最大圧力をかけてわれわれの経済を傷つけてきた国々の船を、われわれが通させる理由はない」とガリバフは述べた。
交渉の余地を残した表現ではなく、条件が満たされない限り現状を維持するという姿勢を強調した形だ。
原油価格への即時の影響
ガリバフの発言が伝わるとニューヨーク商業取引所の原油先物は1バレル当たり約2ドル上昇した。市場関係者は「発言そのものは既知のポジションの繰り返しだが、大統領が明示的に条件を列挙したことが材料視された」と分析した。
国際エネルギー機関(IEA)によれば、ホルムズ海峡の完全封鎖が続けば、加盟国の戦略備蓄を放出しても数十日で需給が逼迫するとされる。
2026年に入ってホルムズ海峡を通過するタンカーの数は例年比で約35%減少しており、保険料の高騰と迂回ルートへの切り替えが続いている。日本の石油輸入においても中東依存度が高く、長期化した場合の影響は小さくない。
ガリバフとはどんな指導者か
モハンマド・バゲル・ガリバフは元革命防衛隊航空部隊司令官で、テヘランの市長を長く務めた実務家として知られる。2024年に大統領選に当選し、ライシ前大統領の死去後に就任した。
保守強硬派に位置づけられるが、交渉そのものを否定する立場ではなく、条件を高く設定して交渉を優位に進める戦術家とみる向きもある。ただし今回の発言では条件の具体性が増しており、交渉相手に選択を迫る意味合いが強い。
米国とEUの反応
ホワイトハウスは「海峡の通航の自由は国際法によって保障されており、いかなる条件も課すことはできない」と述べた。欧州連合は「対話の扉は開いているが、核合意の枠組み外での追加交渉に応じる立場にない」とした。
外交筋は「双方が歩み寄るための足がかりを探している段階」との見方もある一方、制裁解除のハードルは米国議会の承認を要するため、短期での進展は難しいと見る専門家が多い。
日本への影響を考える
日本の石油輸入に占める中東依存度は2025年時点で約95%に達する。ホルムズ海峡を経由する輸入量は1日あたり約300万バレルで、国内消費の大半をまかなっている。
経済産業省は「現時点でのホルムズ通航に即時の支障はない」としながらも、リスク評価を続けていると述べた。日本は石油戦略備蓄として約180日分を保有しており、短期の封鎖には一定程度対応できる。しかし半年以上の封鎖が続いた場合は、企業の生産活動や電力供給にも影響が出始める。
「ガリバフの発言は選挙後の国内向けの引き締めとみるべきかもしれない」と外務省OBは指摘する。一方でイランが実際に商船の通行を制限し始めた事例は2026年に入っても複数報告されており、発言を単純なブラフとは見なせない状況もある。
核合意との関係
ホルムズ問題は核合意の交渉とも連動している。2015年のJCPOA(包括的共同作業計画)はトランプ政権が2018年に離脱し、バイデン政権下での再交渉も合意に至らなかった。2026年時点でのイランの核濃縮活動は90%近いウラン濃縮にまで達しているとされ、欧米との立場の溝は深い。
ガリバフが海峡問題と制裁を結びつけることで、核合意の議論を迂回しようとしているとみる専門家もいる。一方でイスラエルや米国はイランの核能力をまず制限することが先決という立場を崩していない。
まとめ
ガリバフが列挙した条件は高いが、条件を明示したこと自体は交渉の可能性を完全には閉じていない。問題は制裁解除に米議会の承認が必要な構造的なハードルだ。石油市場は発言に即座に反応した。エネルギーを武器に使う外交の緊張感は、しばらく続きそうだ。






