「通信網とデータを、同じ夜に焼く」
本社ビルへの直撃弾により、キーウスターは西部と南東部の一部地域で通信が不安定になった。同社は「バックアップ回線で接続を維持している」と発表したが、詳細な復旧スケジュールは示さなかった。
ドローンはデータセンターも標的にした。ウクライナ当局によれば、27日夜から28日未明にかけて少なくとも2か所の民間データ施設が被弾した。データセンターの周辺では16歳の女性2人が建物の破片を受けて負傷した。
物理的なインフラへの打撃は、ネットワーク内部への侵入と性質が異なる。設備の修復には時間とコストがかかり、バックアップで補える範囲には限界がある。
ウクライナ全土で8人が死亡
9月27日から28日にかけての一連の攻撃で、ウクライナ全土で少なくとも8人が死亡し、数十人が負傷した。アル・ジャジーラの報道によれば、攻撃は首都にとどまらず、ハルキウ、ザポリージャ、クリヴィー・リフなどの都市にも及んだ。
住宅地と民間インフラが繰り返し標的になっている。国連のウクライナ人権監視団は、民間人への攻撃がジュネーブ条約に違反する疑いがあると改めて指摘した。
停戦の翌朝に問われたもの
9月25日のゼレンスキー・トランプ電話会談では、双方が発電所や送電網などのエネルギーインフラを標的にするのを当面止める「エネルギー停戦」が合意された。トランプ政権の特使が仲介した枠組みで、次の課題はプーチンの同意をとりつけることだった。
その翌日に通信大手が燃えた。欧州の外交当局者は「これは偶然ではない。交渉プロセスそのものへのロシアからのメッセージだ」と語った。
ゼレンスキーは「世界は答えを目の当たりにした」と述べ、ロシアの誠意に疑問を呈した。ウクライナ側は交渉のテーブルを離れないとしながらも、攻撃が続く限り停戦への見通しは厳しいとみている。
キーウスター、2度目の大型被害
キーウスターは2023年12月にもロシアと関係するハッカー集団によるサイバー攻撃を受け、通話とデータが数日間にわたって使えなくなった。当時は数千万人が影響を受け、ウクライナ史上最大規模のサイバー攻撃と呼ばれた。
今回は物理的な打撃だ。建物を再建するには時間がかかるが、通信機能そのものは分散型のバックアップで部分的に補える。それでもインフラへの繰り返しの攻撃はウクライナの国民生活と経済に累積的なダメージを与え続けている。
停戦交渉と軍事攻撃が並走するという構図は、2022年の開戦以来、何度も繰り返されてきた形だ。
インフラ攻撃がもたらす累積的なダメージ
ウクライナの電力・通信・交通インフラは2022年以来、数百回の攻撃を受けてきた。国際復興開発銀行(IBRD)の試算では、2026年9月時点のウクライナのインフラ被害総額は5,600億ドル(約80兆円)を超える。
キーウスターの本社が被弾したことで、通信インフラへの攻撃は新段階に入ったと受け止める専門家もいる。「物理的に建物を焼くのは、ネットワークを乗っ取るより原始的に見えて、復旧に時間がかかる」とサイバーセキュリティ研究者のカーリン・ガーシュは指摘した。
欧米諸国は防空システムや通信インフラ保護のための追加支援を検討していると複数のメディアが報じている。ウクライナ政府は「停戦の条件としてインフラへの攻撃停止を最優先に求める」と重ねて表明した。
まとめ
停戦合意の発表から24時間以内に最大手通信会社が燃えた。ロシアが「エネルギー停戦」の枠内にとどまると考えていたとすれば、その読みは外れたことになる。冬に向けてウクライナは通信・電力・輸送のインフラを守りながら、同時に交渉の糸口を探し続けなければならない。プーチンの次の動きを、世界は注視している。






