何が起きたのか
支持33%、不支持64%
ロイターとイプソスは8月18日、共同世論調査の結果を公表した。
調査は8月14日から17日にかけて、全米の成人1,166人を対象に実施された。
誤差はプラスマイナス約3ポイントである。
主な数字は次のとおりだ。
- 支持: 33%
- 不支持: 64%
- 8月上旬の前回調査: 支持35%
- 過去最低との比較: 2017年12月に記録した水準と並んだ
- 1月の就任時: 47%
就任から7か月で14ポイント下がった計算になる。
この下げ幅そのものは、歴代政権と比べて異常というほどではない。
目を引くのは、下がり方の中身のほうだ。
支持を失った層が、もともとの支持層と重なっている。
外交や人事をめぐる批判で下がったのなら、失うのは中間層だ。
今回はそうなっていない。共和党支持層の内側で数字が動いている。
不支持64%という数字も見ておきたい。
支持33%との合計は97%で、態度を保留している人がほとんどいない。
賛否が固まりきった状態である。
こうなると、支持率を戻す余地は限られる。
新たに説得できる層がすでに薄いからだ。
第1期の同時期と比べても、この固まり方は進んでいる。
2017年12月に記録した水準と並んだとはいえ、当時は保留層がもう少し厚かった。
同じ33%でも、動かしやすさが違う。
経済で民主党に逆転された
調査では、争点ごとにどちらの政党を信頼するかも聞いている。
経済では民主党が38%、共和党が35%だった。
インフレ対応については、登録有権者の71%が不支持と答えている。
移民は共和党40%、民主党38%で、ほぼ並んだ。
そしてトランプ氏に投票した人の54%が、物価高を最重要課題に挙げた。
経済で民主党が共和党を上回ったのは、約10年ぶりだという。
共和党にとって、経済は長く優位を保ってきた争点だった。
そこが崩れた意味は小さくない。
とはいえ38%対35%の3ポイント差は、誤差の範囲に近い。
逆転が定着したと断じるには、もう何回か調査を重ねる必要がある。
それでも「共和党が明確に優位」ではなくなったことは確かだ。
長く続いた優位が消えた、という言い方が実態に近い。
移民についても変化がある。
2025年1月の時点では、共和党が26ポイント差でリードしていた。
それが2ポイント差まで縮んだ。
強硬な移民政策そのものへの支持が消えたわけではないだろう。
ただ、優先順位が下がった。
家計が苦しいときに、有権者が最初に見るのは値札である。
トランプ氏に投票した人の54%が物価高を最重要課題に挙げた、という点も同じ話だ。
自分が投じた候補の政権下で、生活費が上がっている。
その事実は、政党への信頼とは別の回路で効いてくる。
支持を取り下げるところまでは行かなくても、投票所へ行く動機は弱まる。
中間選挙で効いてくるのは、こうした熱量の低下のほうかもしれない。
世論調査の支持率は、投票率の差までは捉えない。
2018年の中間選挙でも、熱量の差が議席の動きを左右した。
同じ構図が繰り返される可能性はある。
争点別の純支持率
支持と不支持の差を争点ごとに見ると、傾向がはっきりする。
- インフレ対応: マイナス42.4ポイント
- 経済全般: マイナス29.6ポイント
- 通商・貿易: マイナス25.7ポイント
- 政府による民間企業への出資: 58%が不支持
インフレのマイナス42.4は、他の争点から大きく離れている。
政権の看板政策だった関税も、マイナス25.7で沈んでいる。
輸入品への課税が価格に転嫁される、という説明が有権者に届いてしまった。
関税は本来、国内産業を守る政策として説明されてきた。
雇用が戻り、工場が国内に回帰する、という筋書きである。
その効果が出るには数年かかる。工場は一朝一夕には建たない。
設備を発注し、人を雇い、稼働させるまでの時間が要る。
一方、輸入品の値上がりは数か月で店頭に出る。
時間差のあるこの2つを、有権者は同時に評価することになる。
先に届くのは値上がりのほうだ。
マイナス25.7という数字は、その順番が生んだ結果とも読める。
30社以上の民間企業に政府が出資した件も、58%が支持していない。
ミシガン大学の消費者態度指数も同じ方向を向く。
8月の数値は51で、7月の55.2から下がった。
調査を率いるジョアン・シュー氏によれば、下げ幅が最も大きかったのは共和党支持層だった。
支持基盤の内側で、景気の見方が悪化している。
消費者態度指数は、実際の消費支出に数か月遅れて表れる指標とされる。
51という水準が続けば、年末商戦の売上に響く可能性がある。
小売や外食の企業にとっては、支持率よりこちらのほうが直接的だ。
なお、この指数は党派によって回答が大きく振れる特徴がある。
自分の支持する政党が政権にあると、景気の見方が明るくなる傾向だ。
その補正を効かせてもなお共和党支持層で下がっているなら、実感として厳しいということになる。
背景:これまでの経緯
イラン情勢が長引いた
有権者の8割が、イランへの関与が長期化すると見ている。
- 長期化を予想: 80%
- 民主党支持層: 87%
- 共和党支持層: 71%
- 数週間で終わると予想: 16%
- 戦争は正当だったと考える人: 約5人に1人。共和党支持層では50%
共和党支持層でも71%が長期化を見込んでいる点が重い。
戦争そのものへの評価と、終わり方への見通しは別だということだ。
正当だったと考える人が全体の2割にとどまる一方、共和党支持層では半数に達する。
評価は割れているが、疲れの感覚は割れていない。
短期で終わるという説明を、有権者はもう信じていない。
数週間で終わると答えたのは16%にとどまる。
開戦当初の説明が、時間の経過とともに信用を失ったということだ。
米国の世論と戦争の関係には、繰り返されてきた型がある。
開始直後は支持が上がり、長引くにつれて下がる。
ベトナムでもイラクでも、同じ曲線が描かれた。
違いは、今回は経済への波及が早かった点にある。
原油という媒介があるぶん、家計に届くまでの時間が短い。
戦費や戦死者の数が問題になる前に、給油所の価格が動いた。
支持率の下げ方が急なのは、この経路のためだろう。
裏を返せば、原油が落ち着けば支持率も戻りやすい面がある。
戦争の是非そのものが争点になっているわけではないからだ。
政権が停戦や増産に動く動機は、ここにある。
ガソリンが4ドルに近づいた
戦争の影響は、給油所の価格表示に出ている。
全米平均のガソリン価格は、8月中旬に1ガロン4ドル近辺まで上がった。
戦闘が始まってからの上昇率は約30%とされる。
北海ブレント原油は8月19日、1バレル92ドル前後で取引された。
4営業日続けての上昇である。
背景にはホルムズ海峡がある。
この海峡は世界の石油貿易のおよそ5分の1が通る航路だ。
通航に不安が出るだけで、先物価格は動く。
実際に封鎖されなくても、保険料と運賃が上がるからである。
タンカーの戦争保険料は、危険度の評価に応じて日単位で改定される。
航路を迂回すれば日数が延び、傭船料もかさむ。
原油そのものの需給が変わらなくても、届くまでの費用が上がる。
この上乗せ分は、精製を経てガソリンの小売価格に到達する。
通常は2週間から1か月ほどの遅れがあるとされる。
つまり8月中旬の4ドル近辺という数字は、7月時点の緊張を映している。
8月19日のブレント92ドルは、9月の給油所に出てくることになる。
米国は世界最大の産油国のひとつだが、原油価格は国際市場で決まる。
国内生産が多いことは、給油所の価格を守ってくれない。
シェール開発が進み、輸入依存度は大きく下がった。
それでも国内の生産者は、国際価格で売れるなら国際価格で売る。
エネルギー自給と、安い電気やガソリンは別の話である。
この点は、原発や再エネの議論でも同じ誤解が起きやすい。
政権が短期でできる対策は限られている。
戦略備蓄の放出や、精製設備の稼働率を上げる働きかけくらいだ。
どちらも数セント単位の効果しかない。
ガソリン価格は、米国政治では特別な位置を占める指標だ。
公共交通が薄い地域が広く、車なしで生活できない世帯が多い。
週に一度の給油で、値上がりを毎回確認することになる。
スーパーの棚では気づかない上昇も、給油所では数字で突きつけられる。
1ガロン4ドルという水準は、報道でも節目として扱われてきた。
そこを超えて定着すれば、心理的な影響はさらに大きくなる。
30%という上昇率も効いている。
年収が30%増えた世帯はほとんどいない。
差額はそのまま、他の支出を削ることで埋められる。
削られるのは、外食や娯楽といった裁量的な支出が先になる。
サブスクリプションの解約も、この局面で増えやすい。
米国向けにサービスを売る企業には、ここが最初に見える変化になる。
ガソリン価格の推移は、そのまま解約率の先行指標として使える場面がある。
腐敗をめぐる見方
調査では、連邦政府の意思決定に関する認識も聞いている。
- 腐敗が意思決定に影響していると考える人: 約4分の3
- 近年の政権より悪化していると考える人: 51%
- 共和党のほうが腐敗していると見る人: 49%
- 民主党のほうが腐敗していると見る人: 41%
4分の3という数字は、党派を超えて広がっていることを示す。
民主党支持層だけで到達できる水準ではない。
設問が「連邦政府の意思決定」全般を対象にしている点にも注意したい。
大統領個人だけでなく、議会や省庁を含めた見方である。
特定の事件が引き金というより、制度への信頼が下がっていると読める。
近年の政権より悪化していると答えた51%も同様だ。
政権交代のたびに前任者を批判する構図はあった。
それでも過半数が「以前より悪い」と答えるのは、通常の党派対立とは別の話になる。
政府が民間企業に出資した件への不支持58%と、この数字は地続きだろう。
共和党のほうが腐敗していると見る人が49%、民主党が41%という差も興味深い。
8ポイントの差は、誤差の範囲を少し超える程度である。
つまり、どちらの党もあまり信用されていない。
政権への不満が、そのまま野党への期待に変わるとは限らない。
両党とも4割以上から腐敗していると見られている状態は、健全とは言いにくい。
無党派層の割合が増える環境でもある。
既存政党のどちらにも与しない層が、選挙の変数として大きくなる。
経済争点で民主党が3ポイント上回ったという結果も、同じ目で見たほうがいい。
積極的に選ばれたのではなく、消去法で残った可能性がある。
中間選挙の予測を立てるうえで、この違いは大きい。
期待による票と、失望による票では、投票率への効き方が変わる。
世界トップメディアの見立て
- ロイター/イプソス(8月18日): 支持率33%を「これまでで最低」と位置づけた。イラン情勢の長期化予想と物価高を主因として挙げている
- ロイター(8月19日): 経済争点で民主党が共和党を約10年ぶりに上回ったと報じた。中間選挙への影響を論点に置いている
- イプソス(公式サイト): 腐敗をめぐる設問の結果を公開した。約4分の3が連邦の意思決定に腐敗の影響があると答えたとしている
- AAA(全米自動車協会): 8月中旬のガソリン全米平均が1ガロン4ドル近辺まで上昇したと発表した
- ミシガン大学消費者調査: 8月の消費者態度指数を51と発表した。ジョアン・シュー氏は共和党支持層での下げ幅が最大だったと説明している
論調に大きな食い違いはない。
支持率の下落を外交の失点だけで説明する報道は見当たらない。
物価と戦争の長期化が、同じ方向に効いているという整理で揃っている。
ただし、扱いの重心には違いがある。
ロイターは調査結果を数字として並べ、解釈を最小限にとどめた。
イプソスは腐敗という設問を前面に出している。
ミシガン大学は党派による回答の偏りに注意を促した。
同じ現象でも、どの数字を軸に置くかで見え方は変わる。
複数の調査を突き合わせて読むほうが、誤読は減る。
数字で見る
| 指標 | 数値 | 出典・時点 |
|---|---|---|
| トランプ大統領の支持率 | 33% | ロイター/イプソス(8月14〜17日) |
| 同不支持率 | 64% | 同上 |
| 8月上旬の支持率 | 35% | 同上 |
| 1月就任時の支持率 | 47% | 同上 |
| 調査対象者数 | 1,166人 | 同上 |
| イラン関与の長期化を予想 | 80% | 同上 |
| 共和党支持層の長期化予想 | 71% | 同上 |
| 経済で信頼する政党 | 民主38% vs 共和35% | 同上 |
| インフレ対応への不支持 | 71%(登録有権者) | 同上 |
| インフレ対応の純支持率 | マイナス42.4ポイント | 同上 |
| 通商政策の純支持率 | マイナス25.7ポイント | 同上 |
| 腐敗が影響していると回答 | 約4分の3 | イプソス |
| ガソリン全米平均 | 1ガロン4ドル近辺 | AAA(8月中旬) |
| 開戦後の上昇率 | 約30% | 同上 |
| ブレント原油 | 1バレル92ドル前後 | 8月19日 |
| 消費者態度指数 | 51(7月は55.2) | ミシガン大学(8月) |
日本への影響・示唆
- 原油と円安の二重負担: ブレント92ドルは、日本の輸入価格にそのまま効く。円安が続けば円建てのコストはさらに膨らむ。燃料費調整額を通じて電気代とガス代に反映される
- 物流費への波及: 軽油価格の上昇は運賃に転嫁される。EC事業者や小売は、下期の配送コスト見積もりを見直す必要がある
- 通商政策の行方: 関税政策の純支持率がマイナス25.7という数字は、政治的な持続性に関わる。支持率の低下が続けば、追加関税より緩和の方向に振れる可能性もある
- 中間選挙の前倒し効果: 11月の中間選挙が近づくほど、政権は目に見える成果を求める。エネルギー価格を下げる施策や、中東での早期収束を演出する動きが出やすい
- 消費者マインド: 消費者態度指数51は、米国向けに製品やサービスを売る企業には逆風の数字だ。売上計画の前提を確認しておきたい
- SaaS事業者の視点: 米国市場の景況感が落ちれば、ソフトウェアの新規契約は先延ばしになりやすい。既存顧客の維持に軸足を移す判断も選択肢になる
- 情報の扱い方: 支持率は日々動く指標である。単月の数字より、争点別の純支持率の推移を追うほうが実務には役立つ
日本から見て気をつけたいのは、支持率と政策の関係だ。
支持率が下がったから政策が変わる、と単純には言えない。
むしろ支持率が低いときほど、支持基盤に向けた強硬な姿勢が出ることもある。
過去の政権でも、内政が苦しいときに外交が硬化した例はある。
支持基盤を固め直すには、対立軸をはっきりさせるのが手っ取り早いからだ。
関税の追加や、中東での強い姿勢がその手段になりうる。
一方で、物価高が原因である以上、値段を下げる方向の政策が優先される見方もある。
どちらに振れるかは、まだ読み切れない。
複数のシナリオを持って備えるのが現実的だろう。
日本企業にとっての実務的な論点は、大きく2つに整理できる。
ひとつは原油と燃料コストで、これは今すぐ効いてくる。
もうひとつは通商政策で、こちらは中間選挙の結果を見てからでも間に合う。
急ぐべきものと、様子を見てよいものを分けたい。
為替も見ておきたい要素だ。
米国の景況感が悪化すれば、金利の見通しが変わる。
そこから円相場が動けば、原油高の影響が増幅されることも和らげられることもある。
原油と為替を別々に見ていると、輸入コストの読みを外しやすい。
輸出企業と輸入企業で、注視すべき指標が逆になる点にも注意したい。
今後の見通し
- ① 次回のロイター/イプソス調査: 33%が底なのか、さらに下がるのか。9月の数字で傾向が見える
- ② ガソリン価格の推移: 4ドルを超えて定着するかどうか。心理的な節目として報道の扱いも変わる
- ③ ホルムズ海峡の通航状況: 実際の通航量と保険料率を見たい。価格が下がるとすれば、ここが起点になる
- ④ 11月の中間選挙: 経済争点での民主党優位が投票行動に結びつくか。世論調査と結果のズレも検証点になる
- ⑤ 追加関税の判断: 通商政策への不支持が続くなかで、新たな関税に踏み切るかどうか
- ⑥ 消費者態度指数: 9月に51を下回れば、実際の消費支出への波及が見えてくる
支持率33%という数字だけを追っても、あまり得るものはない。
見るべきは、その内訳が示す優先順位の変化である。
有権者は安全保障より値札を見ている。
もうひとつ、単一の調査に依存しない姿勢も要る。
1,166人という標本は、争点別に分解すると各層の人数がかなり小さくなる。
3ポイント差のような結果は、誤差の範囲に収まる可能性がある。
複数の調査機関の数字が同じ方向を向いたときに、初めて傾向として扱いたい。
その意味で、9月の調査が実質的な確認になる。
ガソリンが下がれば支持率は戻る、という単純な話でもないだろう。
一度離れた実感は、値段が戻ってもすぐには回復しない。
それでも、値札が起点だったことは押さえておきたい。
戦争が支持率を下げたのではない。戦争が値段を上げ、値段が支持率を下げた。順番を間違えると、次の展開を読み違える。


