スペインの地図を塗り替えた火
マドリード周辺から西、アビラ、トレドにかけての山地で複数の山火事が合流した。焼失面積は8万ヘクタールを超え、マドリード州として観測史上最大の規模になった。アビラ県の単独の火だけで5万ヘクタール、スペインの歴史上最大の単独山火事として記録された。
フランスでは年初来の焼失面積が11万5,000ヘクタールに達し、こちらも国内最高記録だ。フランス全土での最高気温は7月、1947年の測定開始以来の最高値を更新した。
ギリシャとトルコでも火が走り、ギリシャ・クレタ島では消防士2人が殉職した。EUの危機管理担当コミッショナー、ヤネス・レナルチッチは「今こそ気候への投資を加速する時だ。対応できている国は一つもない」と訴えた。
「1万人が死んだ」6月の統計
人的被害の数字は気候研究者たちを衝撃させた。
欧州疾病予防管理センター(ECDC)の推計によると、6月だけで1万人を超える超過死亡が記録された。ドイツ単独で5,000人以上、フランス・スペイン・ベルギー・オランダを合わせて4,700人超だ。
超過死亡とは、例年の死亡数との差分を指す。心疾患の悪化、熱中症、睡眠障害からの体力低下など、死因は複合的で直接カウントは難しい。しかし実態を捉えるには超過死亡が正確だとされる。
30万人が自宅を追われ、避難所や親族宅に身を寄せた。経済的な損失は8月3日時点で300億ユーロを超えた。日本円で約4.7兆円だ。
| 国 | 超過死亡(6月推計) |
|---|---|
| ドイツ | 5,000人超 |
| フランス | 約1,500人 |
| スペイン | 約1,200人 |
| ベルギー | 約500人 |
| オランダ | 約500人 |
「毎年12兆円」という請求書
欧州環境機関(EEA)は昨年、「まだ来ていない気候災害への適応費用として欧州全体で年間700億ユーロが必要だ」と試算した。日本円で11兆円。日本の防衛費に近い額を、「予防」に毎年使い続けなければ追いつかないという試算だ。
今夏の被害はその試算を現実に引き寄せた。
世界気象帰因(WWA)のシニア科学者フリデリケ・オットーは「今年の熱波強度は、気候変動がなければ起こり得なかったレベルにある。欧州は現在、世界で最も速く温暖化が進む大陸だ」と述べた。
日本にとっての「来年の問題」
欧州の熱波は、エルニーニョが終息した翌年の高温が続く現象と重なった。気候学者の多くは「今年は始まりにすぎない」という表現を使うことを避けるが、傾向としての方向性は変わっていない。
日本では2024年の夏が観測史上最も暑い夏として記録されたが、2026年はそれを上回るペースで進んでいる。欧州の事例が参考になるとすれば、「超過死亡」という形でしか見えてこない被害の全容を、予防に変えられるかどうかという問いだ。
火が来る前の費用と、来た後の費用を足したとき、「予防に投資しない」という選択肢の代償はどこかで計算されることになる。
ソース:
- Europe heat waves kill 10,000, displace 300,000 in 2026 — Quartz(2026年7月29日)
- EU crisis chief urges tougher climate action amid France, Spain wildfires — Al Jazeera(2026年7月29日)
- Wildfires Across Europe in 2026 — Mappr
- 2026 Extreme Heat Hammers The Northern Hemisphere — Climate Adaptation Center(2026年8月3日)




