「交渉する気がある」とトランプが言った
9月21日、トランプ大統領は記者団の質問に対してこう答えた。「イランとは話せる。私は交渉が得意だ。彼らもそれをわかっている」。
具体的な日程も条件も示さなかった。ただ、交渉の可能性を否定しなかった。
それが市場には十分だった。
イランは現在、制裁の影響で原油の公式輸出が大幅に制限されている。しかし実際には中国向けを中心に「抜け道」輸出が続いており、1日あたり100〜150万バレルが市場に出ているとされる。トランプがイランと交渉して制裁を緩和するなら、さらに100万バレル以上が合法的に市場に加わる可能性がある。
「交渉する気がある」という一言は、「原油がもっと増えるかもしれない」に翻訳された。
OPECプラスが増産した週だった
タイミングが重なった。
9月19日、OPEC+は10月から1日あたり50万バレルの段階的増産を再開すると発表した。サウジアラビアとロシアを中心に、2024年以降続けてきた減産の縮小を進める方針だ。
OPEC+の増産とイランとの交渉期待。2つの「供給増加シグナル」が同じ週に出た。
原油価格は単純な需給だけでなく、「将来の供給」への期待で大きく動く。この2つが同時に来たとき、どちらかが否定されるまで売りが続く。
OPECプラスのバスケット価格は年初から見て約15%下落している。
イランはなぜ交渉に応じうるか
イランのペゼシュキアン大統領は今年1月の就任以来、外交的な開放路線を示してきた。核合意(JCPOA)の復活交渉再開に前向きとされ、欧州各国との接触も続いている。
イランにとって制裁解除は、経済的に切実だ。インフレ率は年率30%超、通貨リアルは記録的な安値に沈んでいる。原油輸出が正式に解禁されれば、外貨収入は年間数百億ドル規模で増える。
ただし、核開発の完全停止という条件が実現可能かは別問題だ。イランはウラン濃縮を現在も進めており、90%近い高濃縮ウランの製造も行っているとされる。これはトランプ政権が飲める条件ではない。
「交渉する気がある」と「合意できる」の間には、大きな溝がある。
10ドル下落の「持続性」を市場はどう見るか
今回の急落は短期的な過剰反応の可能性が高い、と複数のアナリストが指摘した。
理由は2つある。1つは、トランプとイランの交渉が実際に合意に至るには数ヶ月から1年以上かかる。その間、市場は別の材料で動く。2つ目は、中東の地政学リスク自体は消えていない。フーシ派は依然として紅海での活動を続けており、イスラエル・ガザの停戦交渉も不透明だ。
WTI原油の先物市場では、翌週限月の価格と6ヶ月先の価格がほぼ同水準になる「フラットなカーブ」が出た。これは「どちらに転ぶかわからない」と市場が言っているサインだ。
原油はこれから上がるとも下がるとも断言しにくい局面にある。
まとめ
トランプ大統領がイランとの交渉可能性に言及したことと、OPECプラスの増産再開が重なり、9月22日のブレント原油は1バレル68ドル台まで下落した。10ドル以上の急落は市場の「供給増加期待」を映したものだが、実際の合意交渉には時間がかかる見通しで、地政学リスクも残ることから下落の持続性には疑問もある。
- イランの制裁解除交渉が合意に至れば、1日あたり100万バレル以上の追加供給が市場に加わりうる
- OPECプラスの増産再開と2つの供給増加シグナルが同じ週に出たことが、通常より大きな価格変動につながった
- イランの高濃縮ウラン製造という現実とトランプの「交渉する気」の間には大きな溝があり、実際の合意は容易ではない






